人間が不正行為に及ぶ理由を紐解き、その対策を考察します。
人はどうして内部不正・内部犯罪を行うのだろうか――今回はこの点について解説します。
犯罪学の基礎中の基礎として、不正を行う要素に次の3つがあります。
これらを「不正のトライアングル」もしくは「不正の3要素」と呼びます。この中で1つでも欠けていれば不正は発生しません。この考えは米国の組織犯罪研究者ドナルド・R・クレッシーが体系化したものです。彼は横領犯罪者に興味を持ち、犯罪者が誘惑に負けた環境に注目して研究を重ねていました。現在でも古典モデルとなっている職業上の犯罪者についての理論を発展させ、論文の「Other People’s Money : A Study in the Social Psychology of Embezzlement」として発表しました。この中での仮説が「不正のトライアングル」です。この重要な3要素について理解すれば、人がなぜ内部不正をしてしまうのかという心理の謎に迫ることができるを思います。
クレッシーによれば、犯罪にいたる動機やプレシャーは原則として「他人と共有できない問題に帰結する」といいます。彼はこの要素を6つのカテゴリーに分けています。
彼がこの研究成果を発表した時期は1950年代であり、その先進的な分析は驚くべきものです。
不正のトライアングルの仮説によれば、3要素がすべてそろわなければ犯罪行為が行われないと考えることができます。つまり犯罪の理由が、他人と共有できない経済的な問題だけであってもダメであり、そこに自分が逮捕されずにこの犯罪を行う機会があることを認識していることが必要になります。これが2つめの要素である「機会の認識」です。
現実的には次のような例が挙げられます。
このような状況は、人間に「悪いことをしても知られるはずがない」という心の隙を生むことになります。
最後の要素が「正当化」です。この例としては次のものがあります。
これらは犯行を意識した人間が、犯罪に手を染める場合における「善意の心」に蓋をする最も有力な「行動理由」となっているケースが少なくありません。そして最後は、「だからわたしがこういう犯行をしても許されるのだ」と都合良く解釈し、取り返しのつかない行動へと移っていくのです。
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