「ITmedia エンタープライズ書評」第2回。今回はマネジメントの基礎を学ぶ書籍を3冊ご紹介します。
数万部売れれば大成功といわれる今の出版界にあって記録的なメガヒットを飛ばしているのが、「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」(ダイヤモンド社刊)、通称「もしドラ」。オフィスから近い東京・大手町界隈の書店でも売り上げランキングの常連だ。
物語は、主人公の女子マネージャーが大胆にも「野球部を夏の甲子園に連れていきたい」と目標を口にするところから始まる。しかし、進学校ではあるが、スポーツではパッとしない都立高校の野球部は彼女の言葉をだれも本気にしない。そこで彼女は書店で出合ったピーター・ドラッカー教授の本に従い、「顧客」(この本の中では部員)の価値観を起点に「野球部とは何か」を問い直すことから始めた。部員が野球部に対して何を求めているのかを根気よく聞きだすマーケティングを実践し、「感動をもたらす」ことが野球部だと定義付け、チームの目標を高校野球の頂点である甲子園への出場に定める。良くて予選3回戦止まりだった野球部も、しだいに校内や地域を巻き込み、大きな感動を与えるチームに変貌していく。
「マーケティング」や「イノベーション」によって組織が強くなるという内容ならありきたりだが、「もしドラ」では一人ひとりが組織の中で大きく成長し、互いの強みを生かしながら何倍もの力を発揮するというドラッカー経営思想の真髄が分かりやすく描かれている。
ドラッカーは1909年にオーストリアで生まれたがナチスから逃れるため英国、そして米国へと移り、経済紙の記者やコンサルタントの仕事をする。そうした経験を基に1954年、「現代の経営」を著す。これによって彼は「マネジメント」を発明したといわれているが、「ブーム」といえるほどのドラッカー人気は日本特有の現象らしい。
なぜ、ドラッカーの教えが長年、日本の経営者やビジネスマンの心を捕えて離さないのか? ドラッカー経営思想の真髄は、「人を中心に据える」という視点にあり、経営で最も重要なのが「人」の生かし方だとしている。日本企業には、社員を尊重し、彼らが仕事から学びながら成長することを促す、良き文化があり、ドラッカーの教えが共感を得やすいのではないだろうか。
現代は「組織」の時代でもある。およそどんな人であれ、何らかの組織に属している。それらの組織は「社会」において一定の役割を果たすことが期待されていて、それに応えることで存在している。組織は個人が成長する道具に過ぎず、道具の話ばかりされても元気は出てこない。
ドラッカー学会の監事を務める会計士の佐藤等さんは、「ドラッカー先生の教えは濃縮ジュース。自分で薄めないと飲めない」と話す。ドラッカー本には経典にも似た神々しささえ感じ、読後の有難みも大きいが、確かに「成果を上げる」ことに役立てるのは難しい。
わたしと同じように感じている方には、佐藤さんが刊行中のシリーズ、「実践するドラッカー」(ダイヤモンド社刊)をお薦めする。シリーズ第2弾の「行動編」では、ドラッカー自身も実践した成果を上げるための時間管理のコツなどが紹介されている。
最後にリーダーとして日々の仕事で悩まれている方に、ITmedia オルタナティブブログのブロガーでもある小俣光之さんの「ドジっ娘リーダー奮闘記」(秀和システム刊)を紹介したい。タイトルや表紙からも、フツウのリーダー論でないことはお分かりだろう。この奮闘記では、小俣さんが実際に仕事の現場で経験してきたことを30の対話にまとめている。読者は、先輩リーダーと新米リーダーを中心とした対話を楽しく読みながらリーダーの心得を感じ取ることができるだろう。
→「ITmedia エンタープライズ書評」最新記事一覧はこちら
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.