中小企業の活力を高めるIT活用の潮流 豊富な事例を紹介

アナログ業務しかなかった職場をいかに変えるか 大宮工機中小企業の活力を高めるIT活用の潮流(1/2 ページ)

「わずかなIT投資で最大限の効果を」――。まさにこれを実践している中小企業が沖縄に存在する。便利なIT製品やサービスを見つけては矢継ぎ早に業務に取り入れていく。

» 2011年06月06日 12時00分 公開
[伏見学,ITmedia]

 沖縄県を代表する文化遺産である首里城から3キロほど南下した土地で30年以上前から事業を展開するのが、建設機材のレンタルや販売を手掛ける大宮工機である。2代目経営者である宮城靖一社長と宮城光秀専務という兄弟で経営の舵取りをしているというユニークな企業だ。同社が取り扱うのは、バックホーやダンプカー、発電機などの大型機材から、電動工具やライト、カラーコーンといった小さな用具まで多岐にわたり、実に300品目、点数にして1万をゆうに超える。

大宮工機の宮城光秀専務 大宮工機の宮城光秀専務

 このように膨大な数の機材を取り扱うため、同社では正確な商品管理が大きな課題となっていた。以前はホワイトボードに機材の貸し出し状況を書いて管理していたものの、無数にある細かな用具などはいちいちボードに書き出していなかった。それどころか、仮に機材が紛失したとしても、それすら把握していない状況だった。そのため、顧客が必要なときに、必要な機材をレンタルできないこともしばしばあり、営業機会の損失につながっていた。

 そうした悩みを解消するために、同社が目を付けたのがICタグの活用である。機材に備え付けて、貸し出し時と返却時にデータを読み込ませることで、システム上で機材がどこにあるかを管理するという狙いだ。そこで、まずは機材管理のためにバーコードシールの貼付などを考えてみたが、ほとんどのレンタル機材は雨風にさらされたり、水中に沈めたりなど過酷な状況下で使われるため、とても耐え得るものではなかった。

 「水に濡れても壊れない、頑丈なICタグはないものか」――。同社のITシステム全体を統括する宮城専務はさまざまな情報を集めていた。そうした折、東京で開催された展示会に訪れた宮城専務は、理想に最も近い形だった日立グループのRFID製品「ミューチップ金属製タグ」に出会う。同製品は外装にステンレスを採用しているため、劣化や錆の心配がなく、耐久性に優れている。宮城専務は沖縄に戻るとすぐに採用に動き、2009年に製品を導入、さっそくさまざまな機材に備え付けた。

 ICタグの導入によって、正確な機材管理ができるようになったほか、社員の作業効率が大幅に向上した。同社はこれまで紙ベースの伝票でレンタル機材を管理していたため、貸し出しや返却の際には配達員が伝票に機材情報をその都度記入しなければならなかった。人手を介す作業であるため機材名や個数の記入ミスなどがしばしば起きており、管理は煩雑になっていた。また、ICタグの活用によって、配達員はICタグリーダをかざすだけでデータを読み込むことができ、作業スピードが格段にアップした。

大型のレンタル機材にもICチップを取り付けているが、剥がれ落ちたりすることもないという

配送現場で伝票を印刷

 さらなる効率化を図るために、2010年11月から配達員にミニPCを配布している。これまでは社内で印刷した伝票を配送現場に持参していたが、現在はPCに注文データを取り込んでおき、小型プリンタを使ってデータを現場で印刷するようにした。機材の返却時についても、読み込んだICタグのデータを現場でPCに落として、それを社内サーバに同期するだけで照合が完了するような仕組みにした。「以前は、紙の伝票とICタグで読み取ったデータを手作業で照らし合わせる必要があった。今はデジタルデータだけで照合できるため、不一致が減って情報の正確さが増した」と宮城専務は強調する。

 今後の改良点としては、商品管理の精度を高め、レンタル機材の在庫状況を確認したいという顧客の要望に応えるほか、顧客自身がレンタル状況をインターネットで確認できるサービスを整備していく。現在は、電話による注文のみに対応しているが、こうしたサービスを構築することで、今後は受注や返却の連絡をネット経由でも行えるようにしていくという。

「夜間工事のために機材をレンタルする顧客もいる。追加で機材が必要になったとき、これまでは翌朝まで待って電話連絡しなくてはならなかった。そうしたタイムラグを少しでも解消していきたい」(宮城専務)

 在庫を的確に把握することで、機材の稼働状況を知ることができる。例えば、100台の高圧洗浄機のうち9割が稼働していても、残り10台は倉庫で眠っていることになる。たとえ使われていなくても、機材は常にメンテナンスしなければならないため、その費用に加えて、保管しておく倉庫スペースが必要となる。「機材1台1台のデータをICタグで収集することで、不良在庫をなくし最適な稼働率を維持できるのだ」と宮城専務は展望を話す。

 また、社内に向けては、ICタグのデータベース情報を大型液晶ディスプレイに表示させることで、これまでホワイトボードで運用していた貸し出し状況管理を撤廃する。

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