Googleで人の記憶は変質する――米心理学者が発表

検索エンジンを利用するようになり、人は情報そのものではなく、どこで情報を入手できるかを記憶するようになってきていると、コロンビア大学の心理学者が論文で発表した。

» 2011年07月15日 16時15分 公開
[佐藤由紀子,ITmedia]

 米Googleが提供するようなネット上の検索エンジンの台頭により、人間の脳が情報を記憶する方法は変わってきている――。コロンビア大学の心理学者、ベッツィー・スパロウ氏は7月14日(現地時間)、「Google Effects on Memory: Cognitive Consequences of Having Information at Our Fingertips(Googleが記憶に及ぼす影響:指先に情報を保持することの認知的所産)」と題する論文を米Science誌で発表した。

 同氏によると、人間の脳は、友人や家族、同僚などに尋ねれば答えが分かることについては記憶しようとしないもの(このように他者の記憶に頼る方法を心理学では「交換記憶(Transactive Memory)」と呼ぶ)だが、インターネットに対しても同じように頼るようになっているという。情報そのものではなく、“どこで”情報を得られるかを記憶するようになっている。

 この論文は、次のような実験の結果に基づいている。

 まず、被験者は一連の難しい雑学知識の質問に答えさせられる。その直後に基本的な色名テスト(ストループ課題)を受ける。GoogleやYahoo!といった検索エンジンに関連する単語への反応時間(が短いこと)は、難しい質問に答えた際に情報入手方法として検索エンジンについて考えていたことを示す。

 次の実験では、被験者は文を読まされ、その後で文を覚えているかどうかテストされる。文が後で(例えばインターネットで)確認できると知らされた被験者は、削除されたと知らされた被験者よりも記憶テストの結果が悪かった。

 3つ目の実験では、被験者は読まされる複数の文が、ネットで広く確認できるもの、特定の場所に保管されるもの、削除されるものの3種類あると知らされると、削除される文を最もよく覚えた。

 4つ目の実験では、被験者は雑文を入力させられ、それが5つのフォルダのうちの1つに保存されると信じさせられる。保存後に被験者にフォルダの名前と文の内容を思い出させたところ、フォルダの名前の方をよく覚えていた。この結果から、人は情報自体よりも、情報がどこで入手できるかを覚えていることが分かるとしている。

 スパロウ氏は、検索エンジン時代の記憶方法についてより深く理解することには、教育や学習の方法を変える可能性があるという。教育者は記憶力ではなく、理解力や思考方法に重点を置くようになり、学習者は既成事実の把握ではなく、理解することに集中するようになるだろうと同氏は述べる。

 この論文は、Science誌のサイトから有料でダウンロードできる。

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