今回は、マネジメントに関連する3冊のベストセラー本から「リーダーシップ」について考察してみたい。
今年は多くの国で指導者の交代や再選が予想される「スーパーイヤー」とも言われている。すでに3月のロシア大統領選ではプーチン氏が復権。5月6日に行われたフランス大統領選では、オランド氏が現職のサルコジ氏を破って当選した。年後半には米国や韓国の大統領選があり、中国では共産党総書記が交代する見通しだ。
スーパーイヤーは、まさしくリーダーのあり方が問われる年となる。そこで今回は、マネジメントに関連する3冊のベストセラー本から「リーダーシップ」について考察してみたい。
まず1冊目は、「マネジメントの父」と称されるピーター・ドラッカーの『企業とは何か』(ダイヤモンド社)から。この本の中でドラッカーは、「組織にとっては、リーダーを育てることのほうが、製品を効率よく低コストで生産することよりも重要である」と語っている。
ドラッカーは、組織を運営するには個人の能力を開花させる必要があるという哲学の持ち主だ。個人の能力やリーダーシップを十分に発揮させる組織運営こそが「マネジメント」という考え方である。
その理由については、「効率よく低コストで製品を生産することなど、人と組織がありさえすればいかようにもできる。ところが、創造力を発揮する意欲と能力を持つ責任感あるリーダーがいなければ、いかに優秀な組織といえども、その優秀さを発揮できない」と説明している。
ドラッカーは、リーダーシップについて他の著書などでも多くのメッセージを残しているが、『企業とは何か』ではその重要性をより強く示している印象がある。
2冊目は、GE前CEOのジャック・ウェルチが書いた『WINNING』(日本経済新聞出版社)から。この本の中でウェルチは、リーダーがすべきこととして次の8つのルールを示している。
(1)リーダーはチームの成績向上を目指して一生懸命努力する。あらゆる機会を捉えて、チームのメンバーの働きぶりを評価し、コーチし、自信を持たせる。
(2)部下にビジョンを理解させるだけでは不十分だ。リーダーは部下がビジョンにどっぷりと浸かるようにさせなくてはならない。
(3)リーダーはみんなの懐に飛び込み、ポジティブなエネルギーと楽天的志向を彼らに吹き込む。
(4)リーダーは率直な態度、透明性、信用を通じて、信頼を築く。
(5)リーダーは人から嫌われるような決断を下す勇気、直感に従って決断する勇気を持つ。
(6)リーダーは猜疑心と言い換えてもよいほどの好奇心で部下に質問し、プッシュして、部下が行動で応えるようにさせる。
(7)リーダーはリスクをとること、学ぶことを奨励し、自ら率先して手本を示す。
(8)リーダーは派手にお祝いをする。
ただ、これら8つのルールの中には相反するものがあることをウェルチ自身も認めており、「仕事にパラドックス(逆説)はつきものだ」と語っている。そしてこう説いている。
「だからこそリーダーとして働くのは楽しいのだ。毎日がチャレンジ。仕事で成長するチャンスが毎日やってくる。なにせ、完全ということはあり得ないのだから。できる限りのことをやればいいのだ」
ちなみにウェルチは、上記の8つを「私のルール」と表現している。誰もがウェルチになれるわけではないだろうから、上記を参考に「自分流のルール」をつくってみてはいかがだろうか。
そして3冊目は、最近の人気本から東京大学の山内昌之教授が書いた『リーダーシップ』(新潮新書)を取り上げたい。この本の中で山内教授は、リーダーにとって真に必要な能力として、「総合力」「胆力」「人心掌握力」の3つを挙げている。
1つ目の総合力とは、全体、全局を見通す力であり、大局観に通じるものだ。「総合力はマネジメントの能力と実務の感覚を持つ決断力と言い換えてもよい」とも語っている。
2つ目の胆力とは、何があっても動じない平常心や冷静沈着な豪胆さのことである。
3つ目の人心掌握力とは、人をうまく使う能力である。この説明の中で山内教授は、「リーダーは、細部をすべて知っている必要はないし、現実的にそれは不可能でしかない。自分が知らない問題については、優秀な専門家を見つけて、その意見を聴けばよく、適材適所で人材を活用すればいい」とも語っている。
ちなみに山内教授は、これら3つの能力を政治のリーダーに当てはめた場合、総合力は「内政と外交の全局の統一的決断、事案の一国性と国際性の総合判断」、胆力は「安定した国家観と歴史観、情熱的瞬発力と理性的判断力との融合」、人心掌握力は「国民に負担増を納得させる説得力、危機に適材を適所で活用する決断力」という意味合いになるとしている。
3冊のベストセラー本を通じてあらためて感じたのは、リーダーシップのありようは人間社会や企業経営における時代の映し鏡ではないかということだ。だからこそ時代の変遷とともに、リーダーシップ論議は尽きないのだろう。このテーマについては、また違う視点でぜひ取り上げてみたい。
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