IT事件簿 音楽CDに隠された凶悪なルートキット“迷探偵”ハギ−のテクノロジー裏話(2/3 ページ)

» 2012年08月10日 08時00分 公開
[萩原栄幸,ITmedia]

 音楽CDを提供していたのは「SONY BMG」(当時)という会社だった。このことを最初に発見した彼は、Amazonのネットショップでこの音楽CDで購入したという。

その凶悪さとは?

 まず音楽CDを再生すると、強制的にルートキットに感染させられる。ルートキットは、PCで不正コピーなどを行っていないかなどの挙動をユーザーに知らせることなく2カ所(Macの場合は1カ所が別の場所なので計3カ所)に送信していた。しかも「製造上のミス」というものではなく、何と役員会で承認された上での行為だ。会社がお墨付きを与えて実行した企業ぐるみの“犯罪”である。ルートキットもプログラムとしてはお粗末なものだったが、そのことがコンピュータからの削除を極めて難しいものにしてしまったのである。

 発見者は2005年10月下旬にこの事実を公開したが、会社側は無視した。しかし世論が黙っているわけがなく、会社側は以下の行動をとった(この間のプロセスも酷いものだが割愛する)。

 2005年11月2日――問題のコンポーネントを削除するサービスパックを公開(実際に削除するのではなく隠ぺいする機能を解除するだけだった。これを適用するとクラッシュする可能性があると指摘された)。

 2005年11月4日――SONY BMG グローバル・デジタル・ビジネス部門長のトーマス・ヘッセ氏は「ほとんどのユーザーはルートキットが何であるかを知らない。なぜ気にするのだろうか」とインタビューで答える。ルートキットがSONY BMGのシステムと通信していることが判明。プライバシー侵害の可能性が指摘される(同社は通信行為を認めたが、利用方法では否定した)。

 2005年11月7日――Computer Associatesのバイスプレジデント、サム・カリー氏は、「事実上、ファイルに擬似ランダムノイズが挿入され、音質が悪くなる。気になるのは、説明がないこと、同意を求めないこと、そして簡単に削除できるツールが用意されていないことだ」と語る。

 カリフォルニア州では消費者が集団訴訟を起こした。そしてSONY BMGのこのソフトウェアを悪用する初めてのトロイの木馬も出現する(「$sys$」としたファイルは透明人間のように活動できてしまう)。SONY BMGに対するボイコット運動が展開された。

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