今回は、矢野経済研究所が先頃発表した国内企業のITガバナンスに関する調査結果から、グローバル化を見据えたITガバナンスの課題について考えてみたい。
矢野経済研究所が先頃、国内企業のITガバナンスに関する調査結果を発表した。国内の民間企業、団体、公的機関などの法人に対し、ITガバナンスの実施状況を調査したもので、ITガバナンスの対象範囲や売上高規模別・国内外別にみた取り組みについて集計結果を公表した。調査期間は2012年7〜10月で、554社が回答した。
まず、ITガバナンスの対象範囲については、グループ企業を対象としている企業が31.9%、グループ企業を対象とせずに自社のみで実施している企業が46.8%、とくにITガバナンスを意識していない企業が15.0%となった。
また、グループ企業をITガバナンスの対象としている企業の中では、海外グループ企業のみを対象としている企業が6.8%、国内と海外の両方を対象としている企業が24.3%となり、合計すると海外を対象とする企業が31.1%となった。逆に言うと、残りの68.9%は国内グループ企業のみを対象としていることになる。
同調査では、回答した企業のうち、国内に子会社がある企業は323社、海外に子会社がある企業は173社という内訳になった。それを踏まえ、2011年度の売上高規模別に、それらの企業のITガバナンス実施率を算出すると、以下の図のようになったという。
海外に子会社がある企業で、海外をITガバナンスの対象にしている比率を売上高規模別にみると、年商1000億円以上の企業が最高で75.0%だった。一方、年商1000億円未満の企業では、年商50億円から100億円未満で14.3%、500億円から1000億円未満でも31.6%と、比率は3割程度以下にとどまった。
また、国内に子会社がある企業で、国内をITガバナンスの対象にしている比率は、年商50億円未満の企業を除けば5割程度になり、国内と海外においてITガバナンスへの対応差が大きいことが見て取れる。
ちなみに、年商1000億円以上の企業では、国内が77.4%、海外が75.0%と、いずれも比率が高いうえに国内と海外の差がほとんどない。これにより、年商1000億円以上の大手企業では、グローバルでのITガバナンスが整備されていることがうかがえるとしている。
矢野経済研究所によると、ITガバナンスの目的には、情報セキュリティや災害対策などのリスク管理と、売り上げや在庫などのデータを収集して迅速な経営判断に役立てる情報活用といった2つの側面があるとし、つまりは「ITガバナンスは企業統治そのものと密接に結びついている」と指摘している。
また、多くの企業で海外グループ企業をITガバナンスの対象としていないという状況は、「情報漏えいやセキュリティ事故が起きる」「海外での生産や販売の業績管理を効率的に行えない」といった問題が起きる可能性が高いことを示しているという。
さらに中堅・中小企業に対してもこう警鐘を鳴らしている。
「近年、中堅・中小企業も海外事業を積極的に進めているが、現地法人の社長に一任するなど属人的な体制になりやすい。また、ITの活用レベルが低く、手作業や個人のノウハウに頼る傾向も強い。ITガバナンスは企業規模を問わず取り組むべき課題であるが、とくに中堅・中小企業のグローバルITガバナンスの実現が急務であると考える」
「ITガバナンスは企業統治そのものと密接に結びついている」との指摘は、全く同感である。とりわけ、企業規模を問わず、ビジネスのグローバル化がこれまで以上に求められている中で、ITガバナンスはグローバルマネジメントにおいて最重要課題の1つといっていいだろう。
矢野経済研究所の見解にもあるように、ITガバナンスの目的には、「リスク管理」と「情報活用」の2つの側面がある。これらのアクションをリードすべきなのは、ほかでもない経営陣である。
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