日本IBMが先週、国内大手企業のCMOとCIOを対象としたプライベートイベントを開いた。IBMがとくにCMOに注目するのはなぜか。そこから見えてきたものは——。
日本IBMが3月6日、マーケティング分野でのIT活用をテーマとしたプライベートイベント「CMO+CIO Leadership Forum」を都内ホテルで開催した。国内大手企業のCMO(最高マーケティング責任者)とCIO(最高情報責任者)、行政関係者などおよそ200人が参加し、CMOとCIOの役割の変化などについても話題に上った。IBMは昨年来、CMOを新たな顧客対象として強く打ち出しており、今回のイベントもそれに沿ったものだ。
マーケティングを前面に押し出しているだけに、スピーカーもユニークだ。ゲストスピーカーには、キヤノンマーケティングジャパンの村瀬治男会長や、ローソンの玉塚元一取締役副社長執行役員COOが登壇し、自社の事例を交えて先進のマーケティングについて語った。両氏の講演内容については、関連記事に詳しく紹介されているのでご覧いただくとして、筆者が印象に残った両氏の発言を以下に記しておく。
「個人同士の中で広がってきた新たなITが今、企業活動にもどんどん浸透しており、その流れにはもはや逆らえない。企業は新たなITとの整合性をどう図り、どのように活用していくか。これはまさしく経営のテーマである」(村瀬氏)
「マーケティングにITをうまく活用していくには、それぞれに精通した人材によるプロジェクトチームを結成し、情報を共有しながら大いに議論すべきだ。その上でリーダーが明確に意思決定していくマネジメントサイクルをしっかりと回していけばよい」(玉塚氏)
また、パネルディスカッションでは、ジョンソンの鷲津雅広社長、千趣会の星野裕幸取締役執行役員経営企画本部 本部長、日産自動車の星野朝子執行役員コーポレート市場情報統括本部担当がパネラーとなり、一橋大学大学院の楠木建国際企業戦略研究科 教授をモデレーターとして討論が行われた。立場からすると、鷲津氏がCEO、千趣会の星野氏がCIO、日産の星野氏がCMOに相当するとのことで、それぞれに異なる見方や考え方が垣間見えるシーンもあり、興味深い討論だった。
例えば、マーケティングとITの両部門がうまく連携していくための策について、3氏はそれぞれにこう語った。
「部門連携というより、今後はマーケティングもITも分かる人材を育成して行くことが重要だ。その意味では、ITスキルを持つ人材がマーケティングの勉強をするのが最も近道かもしれない」(千趣会の星野氏)
「企業にとって最も大事なのは顧客ニーズへの対応。IT部門にまずその点について、マーケティング部門と完全に一致した共通認識を持ってもらう必要がある」(日産の星野氏)
「両部門はまさしくビジネスパートナー。同じビジネスの目的に向けて、いかにパートナーシップを高めていくことができるか。それが企業の競争力に直結するという共通認識が必要だ」(鷲津氏)
3氏の発言とも大きな意味で方向性は同じだが、それぞれの立場でニュアンスが少々異なっているところが興味深い。
同イベントには、米IBMからジョン・C・イワタ シニアバイスプレジデント マーケティング&コミュニケーションズ担当や、マイク・ローディン シニアバイスプレジデント ソフトウェアソリューショングループ担当といった幹部もスピーカーに名を連ねた。
イワタ氏は、これからのマーケティングに求められる要件として、「個のレベルで顧客を理解する」「すべての顧客接点で価値を最大化する“顧客体験提供の仕組み”を構築する」「企業文化とクラウドを真に一致させる」といった3つを挙げた。
また、ローディン氏は、これからCMOに求められる役割として、「広範な組織の戦略リーダーおよびビジョナリー」「テクノロジストとしてCIOと協力し、ビッグデータ活用に向けた戦略を立てる」といった2つを挙げた。
以上、「CMO+CIO」と銘打ったIBMのイベントのユニークぶりについて紹介してきたが、全体を通じてあらためて強く感じたのは、IBMのCMOへの傾注ぶりである。なぜ、IBMはCMOへのアプローチを強めているのか。この点については、今回のイベントの進行役を務めた日本IBMのマーティン・イェッター社長が挨拶の中でこう語っている。
「企業にとって今、顧客との関係性が大きく変化してきている。一方で、これまでバックオフィスを担ってきたITがフロントオフィスで使われるようになってきている。この2つの動きに深くかかわっているのがマーケティングだ。それをつかさどるCMOは、まさしくこれからの企業の成長戦略を描く非常に重要な役割を担っている。そんなCMOとCIOがしっかりとパートナーシップを組むべきときが今来ている」
この発言を企業のIT投資の視点でとらえると、これまでは業務効率化が中心だったバックオフィスから、ビジネスを伸ばすフロントオフィスへのシフトを促すもので、その象徴的な存在がCMOということなのだろう。
もっと言えば、今回のIBMのイベントを見てもわかるように、日本の企業にCMOと呼ばれる役職はほとんど存在せず、実質的にCEOをはじめとした経営トップがCMOを兼ねている場合が多い。つまり、IBMはCMOへのアプローチを強めることで、ビジネス、さらには経営の変革を促しているのである。
加えてもう1つ、IBMがCMOへのアプローチにおいて相乗効果を狙っているとみられるのは、CIOおよびIT部門に強い危機意識を持たせることだ。とりわけ日本の企業では、CIOがCMOの役割を担う可能性も少なくないように思える。果たしてCIOにその覚悟はあるか。そうした意味も含めて、CIOおよびIT部門に強い刺激を与える狙いがあることは間違いないだろう。
そう考えていくと、今回のイベント「CMO+CIO Leadership Forum」のネーミングは絶妙である。日本のITベンダーもこうした発想には見習うべきものがありそうだ。
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