内部統制の厳しい会社が情報漏えい 技術のプロで見つからない原因萩原栄幸の情報セキュリティ相談室(1/3 ページ)

ある中堅商社で情報漏えいが起きた。セキュリティ技術のエキスパートが原因解明に挑んでみたものの、なぜか分からないという。実は意外なところに、その事実が隠れていた。

» 2013年06月21日 08時00分 公開
[萩原栄幸,ITmedia]

 A社は東京・品川に本社を構える中堅商社だ。事業内容は大手ほど手広くないが、さまざまな業種・業態の仲介、輸出入代理、石油精製プラントにも関与している。最近では再生可能エネルギー分野にも進出して世界中へ売り込むと同時に、日本に無いユニークな製品や技術を国内に紹介もしているという。

 今回の事案は、同社で発生した情報漏えいだ。幸いにも“傷”は浅かったが、役員会直轄の社内調査委員会を密かに立ち上げで活動したものの、どうしても原因が分からないという。そこで筆者に声が掛かった。

(編集部より:本稿で取り上げる内容は実際の事案を参考に、一部をデフォルメしています。)

事例

 中堅商社であるがゆえ、諸外国と広い取引があり、業種業態もさまざまである。また、知的財産権分野も力を入れており、現在では特に再生可能エネルギーでの海外特許を日本に紹介したり、逆に日本の特許を海外に申請し、海外企業に紹介していた。

事案:特許に関しての情報漏えいが発生したために調査を行った。

 特許自体は機密情報でも何でもない。ただし、相手国の特許を日本の企業に売り込む場合、実際には技術者が仲介に立つ。特許に携わる専門技術者であれば、特許の周辺技術や未公開技術、特許申請の直前段階に技術などについて熟知している。そうした人がバックにいないと、日本企業の技術者に対して売り込みすらできないケースもある。仲介役としてのA社の技術者は、プレゼンテーションができる程度の知識は持ち合わせているものの、詳細な部分は海外企業の技術者に問合せを頻繁にしており、それらの情報(基本的には非公開)が今回漏えいされていた。

回答

 本件では既に社内で組成された調査委員会によって、LANやインターネットのログ、導入していた某社の「情報漏洩防止用ソフト」の解析を中心に行い、疑わしいものについては、フォレンジック調査も実施済みであった。そこまで対応が進んでいる中に筆者が出向いたところで、何か分かるはずもない。調査委員会のメンバーもそう思っていたらしい。

 一応、筆者は調査結果を確認したが、厚さが5センチ以上もある報告書を読むだけでも苦痛であったほどに、詳しい調査と分析が行われていた。しかし、まずはそこを手掛かりにするのが効率的であると感じた。調査内容は理路整然としており、調査自体の範囲や深さ、調査項目、見落としやすい点をカバーしているかといったところまで、筆者が見ても全て満足のいくレベルだった。

 その後、調査委員会のメンバーとヒアリングを何回か行った。例えば、「ターゲットとなっているデバイスや電子機器に見落としはないか」「会社が管理していないものはないか」「自宅からの持ち込み、スマホやタブレットの抜け穴、紙媒体の管理、メール送信などに問題はないか」「PCにボット(不正プログラム)が仕掛けられていないか」――などを確認した。しかし、そうした抜け穴は無く、ほぼ完璧であった。ログの改ざんも疑われたので、ヒアリング時点では調査中だったが、委員会のメンバーや筆者がみた限りでは改ざんの痕跡も認められなかった。

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