放談:スコット・マクネリ氏が語る「今」Weekly Memo

先週、来日した元Sun Microsystems創業者のスコット・マクネリ氏に、今どんな活動をしているのか、IT業界をどのように見ているか、聞いてみた。

» 2013年10月21日 08時00分 公開
[松岡功,ITmedia]

今はSNSの新しい分野の開拓に注力

 先週、来日した元Sun Microsystems創業者のスコット・マクネリ氏に取材する機会を得た。マクネリ氏といえば、1984年から20年余にわたってSunの会長兼CEOを務め、同社を売上高2兆円規模の会社に育て上げた人物である。

 元Sun Microsystems創業者のスコット・マクネリ氏 元Sun Microsystems創業者のスコット・マクネリ氏

 Sunは「オープン」、さらには「The Network is the Computer.(ネットワークこそがコンピュータ)」というモットーを掲げ、ITの世界に大きなインパクトをもたらした。その“伝道師”役も担っていたマクネリ氏だが、それにも増して競合他社に対して歯に衣着せぬ発言がいつも話題を呼んでいた。

 そんなマクネリ氏が、今どんな活動をしているのか。そして今のIT業界をどのように見ているのか。1992年に当時のSun本社(米カリフォルニア州マウンテンビュー)でインタビューして以来、同氏の言動に注目してきた筆者も今回の取材を心待ちにしていた。

 まずは写真を見ていただきたい。来月で59歳になるそうだが、まだまだ眼光鋭く若々しい。今どんな活動をしているのかというと、2010年にSunがOracleに買収されたのを機に同社を離れ、2011年にSNSの新しい分野を開拓すべくWayin社(本社:米コロラド州デンバー)を創設。取材時のシャツの胸にも同社のオレンジ色のロゴが目立っていた。

 今回の来日の目的もWayin社の事業に関係することが中心のようだ。その主な目的の1つが、同社のサービスを日本で展開する日本サード・パーティ(JTP)の活動をサポートすることだ。マクネリ氏はJTPの最高経営顧問にも就いており、役員会にも出席したという。

 ちなみにJTPがWayin社と提携して今年6月から国内で提供を開始したのが、世界中で投稿されたTwitter上のツイートや画像をリアルタイムに表示する「Twitterマイクロサイト」を簡単に作成できる「Wayin Hub」と呼ぶクラウドサービスだ。消費者が投稿したリアリティのあるツイートや画像そのものをコンテンツの中心に置くことによって、企業と消費者(顧客)の“積極的なかかわり(=エンゲージメント)”を築く新しいスタイルのコミュニケーションサイトを構築できるようにしたサービスである。

 Wayin社はこのWayin Hubを約2年かけて開発。米国でも今年3月に展開し始めたばかりだが、すでに幅広い分野の企業が導入しているという。こうした動きにマクネリ氏も「Wayin Hubはエンゲージメントが高まっていけば、企業にとってさまざまなビジネスに波及効果をもたらすことができるはずだ」と強い手応えを感じているようだ。

 このWayin社の創設者としての活動のほか、マクネリ氏はITを活用した教育コンテンツの無償提供を提唱する教育奉仕団体「Curriki(キュリキー)」の創設者としても活動。さらに大手やベンチャーなど複数の企業のアドバイザーも務めており、「毎日がMBA(経営学修士)を取得するためのケーススタディを実践しているようだ」と多忙な様子を語っていた。

「オープン」「クラウド」に馳せる思い

 では、そんなマクネリ氏の目に今のIT業界はどのように映っているのか。思いをめぐらすように少し間を置いた同氏は「何が欠けているか、という観点で話していいか」といいながら、こう語り出した。

 「SunがOracleに買収されて以降、オープンソースを共有して広めていこうと力強くリードしていく大手企業がいなくなった。Sunはオープンに対して技術的にもビジョンとしてもどこよりも尽力し、オープンソースの源流ともいえるJavaコミュニティーの活動にも積極的に投資を行ってきた。そうした力強くリードする大手企業が、今のオープンソースの活動において見当たらないというのが、私から見るとIT業界の深刻な問題に思えてならない」

 このコメントは際どい。というのは、そうした積極的な投資を行ってきたSunが、結局は立ち行かなくなったという事実があるからだ。ただ、その事実に直面してビジネスとの兼ね合いの難しさを誰よりも知るマクネリ氏のコメントだけに考えさせられる。

 マクネリ氏が投げ掛けているのは、いかにオープンソースの活動を力強く推進するか、だ。そのためには、ビジネスとの兼ね合いの難しさを乗り越えたうえで、活動を強力にリードする大手企業の存在が必要だと。そこには長らくオープン化をリードしてきたSunのトップならではの経験に基づく知見があるのかもしれない。

 もう1つ、今のIT業界についての見方に関連して、マクネリ氏にぜひ聞いてみたいことがあった。かつてSunが掲げていた「The Network is the Computer.」という概念は、今まさしく普及期を迎えているクラウドコンピューティングと同じだと見て取れる。だとすれば、Sunがその概念を掲げた時期が早過ぎたのか。なぜ、クラウドの波に乗れなかったのか。同氏の答えは以下の通りだった。

 「The Network is the Computer.という概念はクラウドと同じ。概念図はまさしくクラウドをイメージしていた。Sunの言葉のほうがストレートに意味を表していたと思うが、結果的に短い言葉のほうが受け入れられる形になった。ただ、これもオープンと同じで技術的にもビジョンとしてもSunがクラウドの原形を作ったと確信している。その意味でSunは今のクラウド時代に向けて大きな役割を果たしたと自負している」

 コメントはここまでで、時期が早すぎたのではないか、波に乗れなかったのはなぜか、については言及がなかった。これらの点もオープンと同じく、結局はビジネスとの兼ね合いの難しさだったのだろう。

 取材の最後に、1992年に発刊した共著書『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社)のあとがきに記した一文をマクネリ氏に見せて感想を求めた。その一文は以下の通りである。

 『これから21世紀のコンピュータ産業を見渡した時、サンがこれまでのように成長する保証は何もない。サンと同じ土俵に上がった巨大メーカーの攻勢に敗れ、消えてなくなるかもしれない。だが、サンが育てたオープンシステムだけは、消えてなくなることはない。ユーザーは以前のようにコンピュータメーカーの言いなりになることなく、自由自在にメーカー、機種を選択してコンピュータの便利さを享受できるようになるだろう。以前のようなハードウェアメーカーに縛られるといった状況には、決して後戻りはしないはずである。そして、仮にサンという会社は消えたとしても、サンという名前だけはコンピュータ史上に燦然(さんぜん)と輝くはずである』

 マクネリ氏の感想は、眼光鋭く、ニヤリという表情で読み取れた。まだ59歳。新たな経営の最前線に携わるかどうかは別にして、引き続きIT業界のオピニオンリーダーとしての活躍を大いに期待したい。

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