昨今企業でのデータ活用が注目されているが、「ビッグデータ」という言葉が流行する以前からデータ活用に取り組んできたのがスポーツの分野だ。とりわけ野球は「セイバーメトリクス」と呼ばれる手法も知られるように、スポーツの中でもデータ活用が比較的進んでいると言われている。
プロ野球では一般的に、対戦相手や戦況などの分析を行うために、チャート表と呼ばれるスコアシートを使ってデータを記録する。こうして記録したデータを基に作戦を組み立て、各球団とも勝率アップを目指しているのだ。このようなデータ活用は試合だけにとどまらず、選手の獲得(スカウト)分野でも積極的に行われているという。
そんな中、日本のプロ野球球団においてデータ活用の新たな取り組みを始めているのが福岡ソフトバンクホークスだ。同球団では、これまで個々のPCや部門ごとに管理していたデータ収集の仕組みを刷新し、スタッフ間でリアルタイムにデータを共有できる仕組みを構築したという。同プロジェクトに携わっている担当者に、取り組みの背景と狙いを聞いた。
言うまでもないが、プロ野球球団を運営しているのは選手や監督、コーチなどだけではない。「フロント」と呼ばれる経営層や運営・事務スタッフが、現場のスポーツマンたちの活躍を陰で支えている。
中でもチームの成績に大きな影響力を持つのが、対戦相手や自チームのデータを記録・分析する「スコアラー」だ。彼らは試合における「球種」「配球図」「打球・方向」「対戦成績」などのデータを逐一記録し、分析結果をもとに次回の作戦立案などを助ける重責を担っている。
「プロ野球ではこうしたデータ活用が50〜60年前から行われてきた」と話すのは、福岡ソフトバンクホークスの三笠杉彦氏(執行役員 球団統括本部 副本部長 兼 企画室室長)。当初は紙による記録・分析からスタートし、近年ではスコアラーがPC向けの専用ソフトでデータを集計するのが一般的になっているという。
だが今では、この手法も限界を迎えつつあったようだ。同球団が使っていたスコア記録用ソフトはPC向けのスタンドアローンなものだったため、収集したデータを球団内で共有しづらい課題があったのだ。「スコアラーはいわば“職人の集まり”で、彼らの仕事は『データを分析すること』。決して『情報を共有すること』が目的ではないので、これまで積極的に情報共有を行ってこなかった」と、福岡ソフトバンクホークスの関本塁氏(球団統括本部 編成・育成部 データ分析担当ディレクター)は振り返る。
こうした職人たちによる“勘と経験”に頼りきりの球団運営では、スタッフが1人いなくなっただけで球団の戦力に与えるダメージは計り知れない。もっと効率的にデータを球団内で活用できる方法はないか――こうしてホークスは、データ活用システムの導入に向けたプロジェクトをスタートする。
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