ビル・マクダーモット氏が単独CEOになって初めての開催となる年次カンファレンス「SAP SAPPHIRE NOW Orlando 2014」がフロリダ州オーランドで開幕した。初日のキーノートでは「シンプル」というフレーズが連呼された。
独SAPは6月3日(現地時間)、米国・フロリダ州オーランドのオレンジカウンティ・コンベンションセンターにて、全世界のユーザーやパートナーに向けた年次カンファレンス「SAP SAPPHIRE NOW Orlando 2014」を開幕した。今年は過去最大の2万5000人が参加。雨季のフロリダにしては珍しくまぶしい太陽が顔を出し、強い日差しを背に早朝から会場に向かう人々で周辺は熱気に包まれていた。
カンファレンスの幕開けとなる午前のキーノートでは、ビル・マクダーモットCEOが登壇。約4年にわたって共同CEOを務めたジム・スナーベ氏が今年5月に退任したことで、単独のCEOとなった。冒頭でそのことに触れるとともに、SAPの共同創業者であるハッソ・プラットナー氏をはじめ、経営幹部、社員、顧客、パートナーなどに感謝の意を述べた。
講演の本題に入り、マクダーモット氏は「多くのCEOにとって複雑性が大きな問題になっている」と切り出した。以前に増して消費者ニーズは多様化しており、経営の意思決定や企業組織はより複雑化している。
また、ビッグデータの複雑性も悩みの種だ。世の中のデータ量は18カ月で倍増しており、2020年には40ゼタバイトにまで膨張する。「しかしながら、こうしたデータの1%しか分析されていない。ダークデータの問題はどんどん悪化していく。企業はどう管理していくべきなのか」とマクダーモット氏は疑問を投げ掛ける。
企業システムも大規模になっているが、多くは自社ビジネスの現状維持のために使われていて、システム能力の28%しか新たなイノベーションにかけられていないという調査結果もあるという。
さらに、こうした複雑性の課題は「BS(貸借対照表)やPL(損益計算書)には表れず、目に見えないものであることがより深刻さを増している」とマクダーモット氏は指摘する。
こうした経営課題に対してSAPが何ができるのか。同社は創業から42年間、顧客企業のビジネスプロセスを自動化、デジタル化、リアルタイム化することで問題解決に貢献してきた。そして今、「顧客のビジネスをシンプル化するのがSAPの役割だ」とマクダーモット氏は意気込む。
このシンプル化を実現するのが、インメモリコンピューティング「SAP HANA」であり、昨年のSAPPHIRE NOWで発表されたクラウド基盤「SAP HANA Enterprise Cloud(HEC)」であるというのがSAPのメッセージだ。
「HECは既に多くの企業にイノベーションをもたらせている。導入した顧客の約8割はコスト削減に成功した。そして2014年は具体的なワークロードがクラウドで行われる最初の年といえよう」(マクダーモット氏)
SAPのクラウドデータセンターは全世界20カ所に設置されていて、LOB(Line of Business)、セールス、調達、マーケティングなど業務を問わず、約3600万ユーザーがクラウド上でSAPのアプリケーションを実行しているという。
例えば、オランダと米国に拠点を構えるビッグデータ解析企業のSynerScopeは、HANAを活用して数十億のトランザクションデータをシンプル化。不正検知ソリューションの精度を高めたことで、年間2000億ドルもの不正による損失を防げるようになったという。
HECはユーザー企業だけでなく、SAP自身にとっても大きな成果を生み出した。その1つが、HANAクラウドベースの財務ソリューション「SAP Simple Finance」である。同ソリューションは、計画、分析、会計、財務、コンプライアンスなどの機能を持ち、さまざまな業種の金融部門に向けて提供される。SAPではSimple Financeを導入し、決算の早期化を実現。例えば、68カ国の拠点における給与計算システムの基盤などになっている。
SAPではそのほかの業務アプリケーションもHEC仕様であり、「6万7000人の全社員がHECユーザー」(マクダーモット氏)になったことで、データ消費量を11テラバイトから2テラバイトに圧縮したという。
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