Chatbotは“第4の産業革命“、乗り遅れてはならない村上福之の「Botと人工知能と俺様」(1/2 ページ)

Chatbotを取り巻く技術やサービスが大きな注目を集めている。facebook、Google、Microsoft、Googleといった大手IT企業が次々と関連製品をリリースし、この分野への投資も急増している。なぜ今、Chatbotなのか――。その理由をさまざまな視点から見ていこう。

» 2016年06月10日 07時00分 公開
[村上福之ITmedia]
Photo de:code2016で基調講演を行ったマイクロソフトCEOのサティア・ナデラ氏

 「私たちが持っている最も強力なインタフェース、“人間の言葉”をコンピュータが理解できるようになったら、世の中はどんな風に変わるのでしょうか。アプリやインタフェースはどう変わるのでしょうか」――。

 こう話すのは、エンジニア出身のマイクロソフトCEO、サティア・ナデラ。2016年5月24日、開発者向けイベント「de:code2016」の基調講演の一幕だ。実は、これこそが、今話題になっている「Chatbot」の可能性を示唆している。

 ナデラ氏はさらに、こうも言っている。

 「(Chatbotは)コンピュータに対するアクセスを民主化するものであり、私たちが住んでいる世界を大きく変えることができるわけです。いずれ、全てのビジネス、全ての製品、全てのサービスが、botのようなインタフェースを介し、人間の言語で会話できるようになる世界が来ます。こうした技術は4度目の産業革命を起こし、エンジニアたちがこれから先の経済を変えていけるのです」

 ナデラ氏のコメントを聞くと、何やらすごいことが起ころうとしているようだが、本当のところはどうなのだろう。実はこの“第4の産業革命”は、以前からダボス会議でも話題になっており、人工知能やインテリジェントシステムとの対話がカギになるといわれている。そして、この分野への大手ITベンダーの投資は急増している。

 なぜ今、botが“第4の産業革命”の担い手として注目を集めているのか――。さまざまな角度からひもといていこう。

進化したChatbotで何が変わるのか

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 Chatbotで何ができるのか? Chatbot自体はただのインタフェースだから、今までのインターネットサービスでChatbotに置き換えられるものは、何でも置き換えられる。人工知能の進化のスピードを考えると、恐らく近い将来、ECで自然言語で注文ができるようになるだろう。

 そうすると買い物のスタイルが変わる。これまでのように、いちいちショッピングサイトの検索フォームから商品を検索してクリックするのではなく、「明日の17時までにアサヒのスーパードライを買ってきて」といえば、それを解釈して商品を送ってくるようになるだろう。そのうち過去の履歴から、「この人、そろそろビールが切れた頃だろう」と判断すれば、プッシュで三河屋のように注文を取りに来る日がやってくるだろう。

 これが意味するところは大きい。いちいちECサイトやアプリを立ち上げなくても、「いつも使っているチャットツール」から「普段使っている言葉」で買い物ができるようになるからだ。つまり、年齢やITリテラシーの程度によらず、誰もがITの恩恵を受けられるようになり、これこそが“コンピュータに対するアクセスの民主化”というわけだ。

 自然言語とまではいかないが、既にfacebookでspringというECのchatbotがリリースされている。従来のショッピングサイトと違い、対話するうちに欲しい商品を絞り込むという、アキネイター(会話しているうちに自分の頭の中に思い描いた人を絞り込んで当てる人気アプリ)みたいなアプリで、特に欲しいものがない時でも、適当に会話(選択)していると商品が出てくる。

 お天気Chatbotの「poncho」も、すこぶる便利だ。朝、天気を教えてくれるのはもちろん、雨が降りそうだとプッシュ通知で教えてくれる。アプリの通知だとあまり見ないけれど、Messengerだとどうしても読んでしまうのでリーチしやすいと思う。そもそもぼくの場合、Messengerは常に使っているので、いやでも目に入る。ただ、このサービスは、自然言語にはほど遠く、コマンドに近い。恐らく2016年から2017年までは、このようなコマンド式のChatbotが多くなるはずだ。

Photo お天気Chatbotのponcho

巨人たちの参入が相次ぐChatbot市場

 ぼくが「2016年はChatbotが来る」というと、多くの中年エンジニアの方々から「昔からあった」「何を今更言っているんだ」「あほか」といわれる。気持ちは分かる。確かに技術的には昔のbotと変わっていない。単に、チャットやメッセンジャーで自動応答するだけの仕組みだ。

 しかし、今、大きく変わり始めているのは技術的な要因もさることながら、環境的な要因だ。以前、botが出始めた時とは状況が異なり、今やチャットプラットフォームは人々の暮らしの中に空気のように存在し、IT系大手ベンダーたちが動き出している。ざっと例を挙げただけでも“巨人たち”のChatbotを巡る動きは一目瞭然だ。

■Chatbotを巡る大手ベンダーの動き
  開発ツール/SDKなど シナリオツール クライアント
LINE Bot Trial Tool LINE
facebook Messenger platform wit.ai messenger
Microsoft Microsoft Bot Framework Bot Builder Skype、Slack、SMS(twillio)、LINE(予定)
NTTドコモ 雑談対話API シナリオ対話API、知識Q&A API
Google allo(@googleでbot)
KDDI Twillo(Microsoft Bot Framework 連携可) SMS
テンセント Wechat Acount admin platform WeChat
Slack Slack Slack Slack
IBM Watoson(用途はbotに限らない)

 そろいもそろって、Chatbotに関する製品をリリースしているのが分かるだろう。Chatbotサービスを提供するのに必要なクラウドサーバや人工知能、シナリオツールが充実してきたことで、今や容易にChatbotを作れるような環境が整った。しかも、最初から巨大企業が用意したプラットフォームや開発ツールがあるという安心感は大きい。既に、ベンチャーよりも大手企業がプラットフォームや開発ツールを作っている。そのスピードは早すぎて驚くばかりだ。

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