第16回 運用後に知るクラウドの注意点と「クラウドホッピング」という課題データで戦う企業のためのIT処方箋(1/2 ページ)

「持つIT」と違って必要な時に必要なだけ使える「使うIT」のクラウド。活用には、選び方だけでなく使い方でも違う考え方が必要です。今回は運用を始めてから気付く事前に見落としやすいポイントを説明します。

» 2016年09月13日 08時15分 公開
[森本雅之ITmedia]

 クラウドは「使うIT」の名前の通り、オンプレミスなど「持つIT」に比べてCPUやメモリ、ストレージ容量やサーバ(インスタンス)をとても簡単に増やしたり、減らしたりできます。前回も説明しましたが、使い方やユーザー企業内でのルールさえ決まれば、導入後のチューニングが「持つIT」にはない大きなメリットになります。

 しかし、簡単にリソースを増やせる半面、運用時のルールやポリシーがあやふやだと、増えていくリソースそれぞれに対する責任やSLAがあいまいになりがちです。特にクラウドでは「できること」「できないこと」――言い換えると、クラウド事業者がやること、やらないことが非常にはっきりしています。一般的なユーザー企業では、契約はどうあれ、実態としての使い方について設計責任の多くがSIerやベンダーが主体となっています。これにより、実際に使ってみると普段はあまり意識しなくてもよい点、気付きにくい注意点が出てきます。

 今回はそうした注意点のうち、特に企業の資産、事業そのものとも言い換えられる「データ」について、「可用性」と「復旧性」の観点から見落としやすいポイントを説明します。

「持つIT」と少し違うクラウドにおけるデータ保護の課題

 クラウド利用でよく挙げられる課題の一つに、BCP(事業継続計画)やデータ保護の観点があります。「クラウド利用=DR」という目的を稟議に挙げているケースも見られますが、何も考えずにクラウドを利用するだけでDR実現することは、ほぼ不可能です。

 ほとんどのクラウドサービスプロバイダー(CSP)は、付帯サービスを少なくし、ユーザー企業の責任範囲を広げることで、安価にリソースを提供しています。その一例が、可用性や復旧性に関わるデータ保護の観点です。

 クラウドでは、高速なブロックストレージや安価なオブジェクトストレージが提供されますが、この内部データの確かさの保証や、万一にデータが失われた際の復旧はユーザー責任で実装するものになります。特に近年では、データ消失を伴う障害が大きな問題として取り上げられることもたびたびあり、CSPにとって負担が非常に大きい点を問題視する傾向にあります。一部のデータセンターでは、マネージドサービスと合わせてデータ保護まで付加価値サービスとして事業化、収益化しているところもありますが、従来型のデータセンターサービス事業者でもこの負担を経営リスクとして判断し、明確にユーザー企業側の責任とする事業者が増えてきているのが実情です。

 また、大手CSPのクラウド基盤で提供される機能に、リージョンを跨いで構成するという方法があります。このリージョン跨ぎの構成をとることで、データ保護やBCP、DR(災害復旧)になると考える人もいますが、実際には、一般的なクラウド基盤が提供するのは格納されたデータが2カ所、または3カ所にコピーされるというだけです。

 複数のリージョンを跨いだ構成は、地域災害への対応という目的では部分的な解決策になりますが、「実際に復旧して使えるデータか」という保証はそれだけでは確約できません。というのも、このコピーは仮想マシンの内部で動作するアプリケーションを意識したものではないので、まずソフトウェア障害、例えば、誤操作によるデータ削除や業務アプリの不具合、不整合には対応できません。仮想マシン内で動作するアプリケーションが持つリカバリ機能(データベースであれば更新ログを利用した自動リカバリなど)はもちろん利用できますが、どのベンダーも確実なデータ保護対策としてデータベースの複製、バックアップを取ることを推奨しています。

 ですので、クラウドのリージョン跨ぎといった機能だけではなく、アプリケーション側でのデータ退避や二重化、または、バックアップツールによるデータ保護は依然として必要です。

 筆者の会社でもこのような課題を解決するデータ保護製品を扱っていますが、クラウド環境で利用できるツールは年々増えています。選び方はオンプレミスで検討する場合と大きくは変わりませんが、クラウド上での利用方法が違っているものもあります。特定のツールを利用したい、または利用するポリシーになっているという背景がないなら、まずは利用するクラウドを決め、それから選定に必要な情報収集することをお勧めします。クラウド上での構築が得意なSIerに協力を仰ぐのも良いでしょう。

 いずれにしても、「クラウドに預けているから安心」と考えるのではなく、クラウドだからこそ、よりユーザー企業が主体的に安心・安全を確立する意識を持つ必要があるといえます。

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