メガバンクがこぞって参入するFinTechだが、地元密着で活動する信用金庫の関心は残念なほどに低い。技術活用を通じた地域貢献を期待したいが、どうすればその気になってくれるだろうか。
今月(2016年9月)、筆者は信用金庫の職員を対象にしたセミナーで講演した。内容は、「信用金庫における情報セキュリティマネジメントの取組みについて」だが、その中の1つの大きなキーワードとしてFinTechを取り上げたが、その理由は世の中が大きく変わる可能性を持つFinTechになかなか関心を示していただけない信用金庫が多いからである。
前回の記事でも触れたように、米国では財務省の高官が「金融業は絶滅危惧種」と発言してマスコミが騒ぎ立てた。筆者はそこまでは酷くはないと思うだが、マスコミの一部は「既存銀行の約92%が10年以内に消滅する」という。
それでも日本の信用金庫などでは、経営層を除いてほとんど話題にも上らない。その状況を次の寓話で例えてみたい。
大きな池がある。そこに住む魚たちが全力で1日泳いでも端にたどり着けないほどだ。そこにハスが生えてきた。毎日2倍のペースで増えていく。
ある時、一部の心配性の魚が言った。「もし池の全てをハスが覆えば日光が届かず、死んでしまう」と。しかし、多くは巨大な池に「100年後も平気なはず」と考えた。
(実際の面積を計測すると1000千万分の1ほどしかなかった)
ハスは成長を続け、1つ目が生えてから23日後には巨大な池の半分程度を覆ってしまった。さすがに心配した魚たちは、「明日になったら対策しよう」と考えた。
その翌日、ハスは池の全てを覆い、魚たちは全滅した。
信用金庫をはじめとする中小金融機関の多くは、まさにこの寓話にあるような状況の一歩手前になりつつあるFinTechの現実を直視できないでいる。目前にダイヤモンドの原石が転がっているのに分析をせず、それを単なる「石ころ」にしか見ない。それどころか、邪魔者扱いしたい様子も見え隠れしている。
逆に、敏感なアンテナを張り巡らすメガバンクやネット専用銀行の多くは、必死になってFinTechのITベンチャーや社員10人にも満たないようなスタートアップ企業に足しげく通い、「一緒に協業しませんか? 資金ならいくらでも出しますよ」と口説き落としているのが現状だ。
信用金庫の多くは、マイナス金利だけではない日銀のただならぬ動きを静観し、「自分たちには関係ない」「資金がない」「いざとなれば国が助けてくれる」と、池の魚たちのように現実を眺めているところが多い。ある信金の理事長の「吸収されればいい」という発言を聞いた時は、さすがに開いた口がふさがらなかった。経営そのものを放棄しているに等しい発言を簡単に口にするのは何とも悲しい。なにより、一生懸命頑張っている職員に対して申し訳ないと考えてしまう。
多少言い過ぎかもしれないが、日本全国にそういう場面が多々あるのではないだろうか。一介の情報セキュリティの専門家が考えることではないと思うが、そこまで考えてしまうのは性(さが)なのかもしれない。
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