AI導入成功企業の共通点は「AIかどうかを選定理由にしない」ことAIの誇大宣伝に混乱する企業たち(後編)

AIを導入した企業はどのような課題を抱え、解決したのか。本稿で紹介する2つの事例の共通点は、導入製品がAIであるかどうかを全く重要視していないことだ。彼らが重視したことは何だったのか。

» 2017年12月20日 10時00分 公開
[Cath EverettComputer Weekly]
Computer Weekly

 前編(Computer Weekly日本語版 12月6日号掲載)では「AI(人工知能)ウォッシング」のまん延と、そのためにユーザー企業がAIの導入をためらう現状を紹介した。

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 後編では、2つのAI導入事例を紹介する。

事例:FreestyleXtreme

 「当社は、AIの導入を具体的に決めていたわけではなかった」と語るのは、アクションスポーツのオンライン小売業を営むFreestyleXtremeのマネージングディレクター、ショーン・ローリン氏だ。「AIの導入は、既存の自動化戦略の延長にすぎない。当社は、AIと自動化戦略を区別していない。AIは単に自動化戦略が進んだ新たな段階と考えている」(同氏)

 同社は2003年に設立され、6年後に自動化への取り組みを始めた。同社がEmarsysの機械学習ベースのマーケティングアプリケーションを導入したのは2015年のことだった。

 このクラウドベースのシステムは、デモグラフィックプロフィール、購入履歴、Webサイトの閲覧行動などに基づいて各顧客の情報を収集し、メールで送るマーケティングメッセージをリアルタイムにカスタマイズする。また、顧客が同社のWebページにアクセスすると、その顧客が気に入る可能性が最も高い商品を表示する。

 「この商品お薦め機能は、8%の収益向上に直接貢献している。これは顧客に薦めた商品が適切だったからだ。だがそれ以上に、非常に少ない人数で効率良く一貫性を持ってサイトを運営できるようになったことが大きい」(ローリン氏)

 同社の従業員はたった70人だ。この人数でローカライズした20店舗を運営し、世界60カ国以上に商品を出荷している。「自動化とAIがなければ、このような運営は不可能だっただろう。例えば、現在のマーケティング業務をAIと自動化なしで行えば、2〜3倍の従業員が必要になる」とローリン氏は話す。

メリットとデメリット

 以前は2日かかっていたメールによるマーケティングキャンペーンを今では2時間で実施できるようになった。そのため、チームは基本的な管理作業に追われることなく、創造的かつ戦略的な活動に専念できるようになった。

 「当社は飛躍的に成長しているが、従業員を増やすつもりはない。成長と同じレベルで人材を採用する必要はない。事業に最も利益をもたらす分野に従業員を振り分ければよいだけだ」とローリン氏は言う。

 だが、AIの概念が過剰に宣伝され、特に中小企業でAIの導入が進んでいないことを同氏は認知している。

 「eコマース企業は、Googleのテキスト広告など、知らないうちにAIを使用している。ただそれをAIと呼んでいないだけだ。AIという言葉だけが独り歩きすることで特に中小企業の間で混乱が生じている。AIなどとても手に入らないものだと思われるのは恐ろしいことだ」(ローリン氏)

 導入の障壁になっている他の要因はコストと手間だ。ほとんどのAIシステムはプラグ&プレイとは懸け離れた存在で、実装には時間も労力もかかる。

 同社は今後約1年以内に日本と東ヨーロッパに事業を拡大することを目標にしている。自動化のレベルを上げることが事業を前進させる重要な方法だと信じているためだ。

 「効率を高める大きな原動力として、できる限り多くの業務要素の自動化に力を注ぐつもりだ。AIと自動化は切り離せないもので、当社の継続的発展に大きな役割を果たしている。事業拡大は常に当社の事業計画の一部になっている。その拡大を容易にするのがAIだ」(ローリン氏)

事例:Hertfordshire Partnership NHS Foundation Trust

 Hertfordshire Partnership NHS Foundation Trustは、12カ月間のパイロットプロジェクトを開始したところだ。このプロジェクトでは、SaberrのAIベースシステム「CoachBot」を使って、臨床チームのメンバーの連携効率が向上するかどうかを検証する。

 このプロジェクトでは、約65人から4チームを編成する。指導者を介入させることにより、プロセスに長い時間をかけずに参加者がメリットを得られるようにすることが目的だ。

 「特に、NHS(国民保健サービス)から受ける運用面でのプレッシャーがあるため、人材の採用と定着が大きな課題になる。そこで、働き手を支援するため何ができるかを話し合った」と語るのは、Eastern Academic Health Science Network(EAHSN)の主任アドバイザーを務めるステイシー・コバーン氏だ。EAHSNはイノベーションを推進するために英国内に設立された15の組織の1つだ。「問題は、現場で任務に当たっている職員を解放するのが難しい職場だ。チーム全員を集めた対面指導に1日かけるわけにはいかない」(同氏)

 SaberrのCoachBotは、プロセスの中でも時間がかかる実態調査を担当して課題の設定を補助する。そのため、チームが取り組むべき問題をメンバーが把握するのを支援するというメリットがある。

 チームメンバーが都合の良い時間にアクセスできるオンラインアプリは、合計所要時間が約20分の一連の質問で構成されている。質問は、チーム状況を把握する約4分間の導入部分と、チームが直面している課題を把握する約10分間の分析部分から成る。

アルゴリズムのメリット

 質問後、アルゴリズムを使ってデータを調べ、対処が必要な部分に提案を行い、参加者が学習ツールキットにアクセスできるようにする。

 だがコバーン氏は、CoachBotを必ずしも「人間が指導する学習を完全に置き換えるもの」とは考えていない。そのため、4チームのうち1チームには、3カ月ごとに指導者が介入し、指導者による追加指導にメリットがあるかどうかを評価している。

 成果を判断するため、チームが独自に決めた目標を達成しているか、参加者がチームで働く意欲、つまりネットプロモータースコア(NPS)に変化が生じたかどうか、3カ月ごとに確認が行われる。同じく、患者の転帰(治療成績)の向上など、医療的視点から見た質への影響といったチームの生産性も測定される。

 だが、EAHSNが購入したシステムがAIベースかどうかは重要な問題ではないというのがコバーン氏の考えだ。「AIベースかどうかは、購入の決定には影響しなかった。製品としてのCoachBotが、現状抱える問題を解決するように思えた。だが、これがAIだという認識はなかった」と同氏は言う。

 魅力を感じたのは、システムが継続的に学習することだった。「チームには絶えず対処しなければならない問題があり、改善に向けてチームが取り組める要素は常にある。そのため、学習を続ける製品を利用することに大きな価値がある」と同氏は話す。

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