政府が国民に対して一律に所得を支給する「ベーシックインカム」。その実現にあたっての大きな障壁は“財源”のみになりつつあります。今回は財源という側面から、ベーシックインカムの実現性を考えてみようと思います。
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人工知能が人間の仕事をある程度奪うであろう、少し先の未来には、政府が一律に所得を支給する「ベーシックインカム」が必要になる――。前回の記事では、そんなテーマをお話ししました。
「ベーシックインカムで労働意欲が低下する」といった、数々の懸念が払拭されつつある今、実現にあたっての大きな障壁は“財源”のみになりつつあります。昨今では、現状の体制を大きく変更するような政策について「財源を示せ!」と迫られるケースも少なくありません。
本当に、日本が全国民に所得を支給するお金などあるのでしょうか。今回は、人工知能そのものの話題から少し離れ、ベーシックインカムを実現するために、どこまで財源の裏付けが可能なのかを考えてみたいと思います。
ベーシックインカムを「政府による購買力の支援」だと捉えた場合、給付額はいくらぐらいになるのでしょうか。その参考になるのは、生活に必要な物が購入できる最低限の収入を表す「貧困線」と呼ばれる統計指標です。
そもそも“貧困”というのは、衣食住について、必要最低限の要求水準を下回る絶対的貧困と、その国の所得分布の下位一定水準を下回る相対的貧困の2つに分かれます。ベーシックインカムは、国ごとの所得に大きく左右される施策であるため、相対的貧困という指標をベースに考えた方がよいでしょう。
厚生労働省は相対的貧困率の計算方法として、「等価可処分所得(世帯の可処分所得を世帯人員の平方根で割って調整した所得)の中央値の半分」と定義しています。
一般的に引用されることが多いのは、厚生労働省が行っている「国民生活基礎調査」で算出される数値です。このデータによると、2016年度の相対的貧困率は15.6%で前回の16.1%をわずかながら下回っています。一方で、総務省が行っている全国消費実態調査のデータを参考にすると、2014年度の相対的貧困率は9.9%と大きく異なります。
ここまで大きく差が出ていることについては、調査を行う厚生労働省、総務省ともに頭を痛めていて、共同研究を行い、その結果を報告しています。資料によれば、サンプルの偏りなどが原因にあるようです。日本としては、相対的貧困率の算出を第一の目的とした統計は行っていないため、国の統一見解がないのが現状です。
では、この両方のデータで算出された貧困線を基準に、その金額のおよそ6割程度の給付をすると考えてみましょう。
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