必要なのは地方分権ではなく「標準化」、これからの行政に求められるITインフラ施策とは総務大臣政務官/内閣府大臣政務官・小林史明氏(3/3 ページ)

» 2018年09月28日 09時00分 公開
[西坂真人ITmedia]
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インフラ整備に必要なのは地方分権ではなく「標準化」

ITmedia ボランティア管理システムや前出の災害情報システムなど、全国共通のインフラ整備は国が主導でできないものか?

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小林史明氏 インフラ整備で国がリーダーシップを発揮することはやり得ることで、今まさにそういう議論を盛んに繰り広げている。“地方のことは地方で主体的に解決する”という「地方分権」が拡大解釈され、地方であっても共通化できるインフラは一体で整備しておこうという「標準化」の観点が少し足りなかった。今はクラウドサービスなど標準化・共通化した方がメリットが出るようなテクノロジーも出てきている。インフラは行政ごとに個別に調達して運用するよりも、国で標準化を進め、その上のアプリケーションレイヤーで個別最適化を図るという方が自由にやれるしコストも下がる。2040年の自治体のあり方を展望する総務大臣主催の「自治体戦略2040構想研究会」の提言でも、自治体の情報システムの標準化、共通化を進めていくと記されている。

ITmedia 本格的な人口減少と高齢化を迎える日本で、行政は今後どうなるべき?

小林史明氏 これまでは「モノ起点」の政策で国は走ってきた。いい会社でいいものを作ってそれが売れれば国民は豊かになれる、と。でも、デジタル社会になって、国民一人一人、何を必要としているかは行政が見えるようになっている。災害で避難している人、介護が必要な人、子育て中の人、それぞれにあった「ヒト起点」で行政サービスを提供できる時代、自治体の職員が向き合うべきは、その住民サービスだ。一方で、人口がますます減っていくと、住民サービスを担う職員の数も減っていく。少ない職員でも適切に対応できるよう、標準化が必要だ。

 現在は行政手続きも自治体ごとに書類のフォーマットはバラバラ。災害で言えば罹災証明書やその受付プロセスなどは自治体ごとに異なる。災害時に他の自治体から応援の職員が来てくれたとしても、まずは業務のやり方を勉強するところから始めなくてはいけない。このあたりは、これまでバラバラに対面かつ手書きでプロセスしなくてはいけなかった就労証明書を、10月1日からマイナポータルから手続きできるように改めた。国民に見えやすいところから改善していけば、手応えもあり行政も動きやすくなる。

 素早く行動して課題を洗い出し、どんどん改善していく。こういったアジャイルな発想はITの世界では当たり前。国や自治体の行政はいままでウォーターフォール型(一手一手確実に手戻りなく進めていく)だったが、今年4月に総務省が公表した「未来をつかむTECH戦略」では、行政もウォーターフォール型からアジャイル型に変えていこうと提言している。国と自治体という関係でいうと、チャレンジしやすい自治体の方がアジャイルがやりやすい。アジャイルにPDCAを回して、いいものは標準化して取り込み、また実験していくということを繰り返す。例えば、RPAを導入したつくば市や京都府の例や、認可保育施設の希望割り振りにAIを活用することで手作業だと1500時間かかっていた割り振り作業が数秒で終わったというさいたま市での事例など、ITを積極的に活用していこうというケースが増えている。

ITmedia 行政におけるIT活用への期待は?

小林史明氏 これだけ非効率なシステムの中で日本はしっかりと回っている。この国のインフラをバージョンアップできれば、ものすごく効率的になるし、そこで働いている人たちの能力も最大化できる。RPAやAIの導入によって、膨大な時間を要していた作業から解放され、本来の業務に目を向けられるようになる。先輩の平井卓也さん(衆議院議員)がリードされた「デジタルファースト法案」は秋の臨時国会への提出が検討されており、マイナンバーを使って行政が保有するデータを連携することで、企業や個人の行政手続きの申請を提出書類なしで、インターネットでできるようになる。

 人と接する、市民に対してサービスを提供する、というのが本来の自治体の役割。それに集中できるよう、ITによる効率化でデスクワークを減らしていくというのがわれわれの目指すスマート自治体の姿。テクノロジーでこの国を効率化していき、本当に実力がある人や頑張っている人を評価して後押しし、無駄に支援を受ける人は作らず、真に支援が必要な人を助ける。デジタルな視点ができると、小さな積み重ねが見えてくる。「この人、ちゃんとやったよね」というのが可視化される、というのがデジタル社会のいいところ。私はこういった「ものすごくフェアな社会」を作りたいと思っている。

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小林史明氏
衆議院議員 (自由民主党所属/ 3期目) 総務大臣政務官 兼 内閣府大臣政務官


2007年上智大学理工学部卒、NTTドコモ入社。法人営業、人事新卒採用担当を務め、退職し、2012年第46回衆議院選挙において自民党の公認を受け広島7区(福山市)から出馬し初当選。

主に電波改革やIT政策に取り組み、「公共用周波数の民間開放に関する緊急提言」(行政改革推進本部の官民電波利活用PT)を始め、「電波有効利用成長戦略懇談会」、「モバイル市場の公正競争促進に関する検討会」を立ち上げるなど、電波行政、情報通信政策の面から民間のチャレンジを支援し経済発展に献する仕組み作りに注力している。

2015年、党IT戦略特命委員会で担当した行政システムの効率化では、霞が関の官庁システムの統合・クラウド化により毎年の事務コストを大幅に削減。大臣政務官就任後も衛星放送への新規参入、楽天のキャリア新規参入、携帯キャリアによるいわゆる2年縛りの是正など、放送・通信業界の健全な競争を政策面で推進している。

テクノロジーの社会実装こそ人々のためのフェアで活力のある社会を実現できるという信条のもと、旧来の制度やプロセスの効率化に取り組んでいる。グローバルに情報を収集し、民間の最先端テクノロジーと政治を繋ぐための機会創出や制度化の検証などを積極的にリードする。

生まれ育った瀬戸内海に身近な水産政策についてはライフワークとし、資源管理型漁業への転換、養殖業への法人参入など、構造改革に取り組んでいる。


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