CSIRT小説「側線」 第9話:レジリエンス(後編)CSIRT小説「側線」(2/4 ページ)

» 2018年10月05日 07時00分 公開
[笹木野ミドリITmedia]

 技術者が答える。

 「まず、端末側ですが、AIを使って不審な振る舞いを検知します。ここには犯罪捜査のプロフェッショナルのナレッジ(知識)が入っています。御社の環境の中で自動的に学習していきます」

 道筋が聞く。

 「AIはよく知っています。どのように学習するかによって対応能力が変わりますよね。最初のナレッジに付け加えて、環境ごとに機械学習で学んでいくと理解しています。

 弊社の環境はインシデントもそう多くはないのですが、平穏な場合、どうやって弊社内で学習するのでしょうか。また、AIが導いた結果が弊社にとって満足できないものだった場合には、どのような理由によるもので、どのようにチューニングすべきでしょう。AIが特定の判断を下した理由は説明されるのでしょうか?

 技術者が難しい顔をして答える。

 「膨大なデータを基に判断しているため、正直言って、AIの下した判断について理由の全てを説明するのは難しいと思います」

 道筋が聞く。

 「それでは、AIが出した答えは全て信じろとおっしゃるんですか? それと、プリセットされている『犯罪捜査のプロフェッショナル』とは、どういう方々ですか?」

 ――理由の出典も分からずにAIが出した答えをむやみに信じろだと? 先日のメディアリテラシーの話と同じ構図になるな。

 道筋は思った。


 営業が答える。

 「FBIやCIAなどその筋に所属していた方が起業して、インテリジェンスをプリセットしています。あらゆる犯罪手口を入れています」

 道筋の顔が訝しげにゆがんだ。

 「『あらゆる犯罪手口』、とはどういう根拠でおっしゃっているんでしょうか? 確かに、欧州や北米、ロシアなどは常に紛争のリスクと背中合わせですので、ITを使った諜報活動も盛んですし、人材も豊富でしょう。でもここは日本です。少なくとも、アジア圏の文化や人の性格、振る舞いなどを熟知した方は、この製品を開発したメンバーにいたのでしょうか? 犯罪を行うのは人ですよ。アングロサクソンと東洋人では、思考回路も違うのではないでしょうか?」

 営業が慌てて答える。

 「内容につきましては持ち帰らせていただき、確認させてください」

 ため息を悟られないようにして、道筋が話題を変える。

 「メールシステムについてはどうでしょうか。侵入の第一歩は、相変わらずメールが多いと思っています」

 営業が答える。

 「弊社は自治体の情報セキュリティを強靭(きょうじん)化するプロジェクトにも参画しています。強靭化のポイントは、メールやWeb閲覧の無害化です」

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