Google、Microsoftに続き、Amazonも独自開発のプロセッサ「AWS Graviton」と「AWS Inferentia」を発表しました。プラットフォーマーが自社でプロセッサを開発するメリットは、どこにあるのでしょうか?
この記事は大越章司氏のブログ「Mostly Harmless」より転載、編集しています。
2018年11月25日〜30日に米ラスベガスでAWS(Amazon Web Services)のカンファレンスイベント「AWS re:Invent 2018」が開催され、いろいろと関連する発表がありました。中でも気になったのが、Amazonが自社開発したプロセッサ2種の発表です。
新プロセッサの1つ目は、AWSサーバ用に開発されたARMベースの「AWS Graviton」です。
AmazonはIntelからカスタムプロセッサの供給を受けており、AMDとも専用プロセッサを共同開発していたはずですが、いつの間にか自前のプロセッサを作っていたようです。
GoogleがAI専用プロセッサのTPUを開発し、MicrosoftもFPGAベースのAI処理基盤を作るなど、プラットフォーマーが自社でプロセッサを開発する例が増えています。昔はハードウェアは外部調達するものでしたが、その常識が変わり始めたようです。
ARMのライセンスを取得すれば、スクラッチからプロセッサを設計しなくても、独自の機能を盛り込んだ自社専用のプロセッサを簡単かつ安価に開発することができます。
Appleは2010年にA4を発表して以降、ARMベースの自社開発プロセッサを使っていますが、これで外部のプロセッサベンダーのロードマップに引きずられずに、自由にソフトウェアサービスと一体になったハードウェアを設計できるようになりました。
iPhone 4で採用された「A4」は、同時期の他社のARMベースプロセッサよりもクロックあたりのパフォーマンスが高く、他社との差別化要因となりました。2017年に発表された「A11」、2018年に発表された「A12」では、他社に先駆けてAI処理専用のプロセッサを組み込み、来たるべきAI時代に備えています。
今回、AmazonがARMベースのプロセッサの自社開発に踏み切ったのは、そもそもクラウドサービスはLinuxベースであり、プロセッサに依存しないことが大きいと思われます。オンプレミスとの互換性を考えると、Intel/AMDがよい場合も多いでしょうが、Linuxははるか昔からARMに対応しており(ガラケーのFOMAにもLinuxモデルがありましたし、AndroidもLinuxです)、クラウドサービスを提供する分には全く問題はありません。
ARMを採用するメリットは、コストと省電力性能です。
IntelはAmazon向けにカスタムCPUを供給していますが、もともと高いCPUですから、カスタムでも調達コストはそれほど安くないと思われます。
一方でAmazonは、AMDとも専用プロセッサの共同開発を行っていたようですが、思ったような性能が出ず、諦めて自社開発に舵を切ったようです。AMDからの調達コストもIntelと似たようなものでしょうから、ARMなら一定の数量さえ確保できれば、コストはかなり安く抑えられるはずです。
また、データセンターでは、消費電力の増加とそれに伴う発熱量の増加が問題になっています。電気を使ってコンピュータを動かし、それを冷やすためにまた電力を使わなければならないという、悪循環に陥っているのです。
ARMはもともと組み込み用途を念頭に開発されたアーキテクチャで、現在もスマホの90%で採用されているくらい省電力性が高いプロセッサです。サーバ向けの64ビットアーキテクチャになっても、省電力性に強みを持っています。調達コストと電力コストを抑えられ、独自の拡張でパフォーマンスも上げられれば、顧客への提供価格を引き下げられます(ただし、調べた限りでは、どのような独自機能を組み込んだのかは分かりませんでした)。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.