変化に強い組織で「真のポストコロナ」に備える 星野リゾートのサバイバルDXニューノーマルはまだ始まっていない

「コロナ禍」によって世界中の観光業が苦境にある。それは国内外で事業を展開する星野リゾートにとっても同様だ。しかし同社はコロナ禍の後に来る需要の爆発を予測し、来る日に向けて、デジタル活用による事業の維持を続けている。

» 2020年09月30日 10時00分 公開
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※本稿は、2020年8月20日にサイボウズが主催したセミナーの講演内容を基にしています。


 星野リゾートは、全国42カ所のホテルや温泉旅館、リゾート施設を運営するホテル・旅館の運営会社だ。長野県の軽井沢で最初の旅館を開業したのが1914年で、2020年は創業106年目となる。

 2014年には海外施設の運営も始めるなど、同社は事業規模の拡大を続けてきた。それが2020年に一変する。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的大流行)である。いわゆる「コロナ禍」において観光業は大打撃を受け、宿泊施設やリゾート地の需要は急激に落ち込んだ。

 国内外で事業を展開する星野リゾートも、コロナ禍に大きく影響を受けている。

久本英司氏 星野リゾートの久本英司氏

 「COVID-19の影響が及ぶ前、情報システム部門は新たなソリューションの導入や予約システムの大規模改修などを予定していた。しかしその後、中長期プロジェクトや成長のための投資はすべてストップすることになった」と、星野リゾートの久本英司氏(情報システムグループ グループディレクター)は語る。3月下旬には代表の星野佳路氏が「この影響は今後18カ月続く」と予測した上での方針転換だ。

 これまで同社は「良質な滞在体験を提供すること」に注力していた。しかし国内の感染者数が落ち着きを見せない中、まずは「安心安全であること」を顧客が求める最重要事項と捉えるようになったという。

 同社が取り組んだのは「感染予防手法の進化」「需要の創出を続けること」「徹底的にコストを削減し、企業を存続させること」の3点だ。ホテルや旅館のサービスも一から見直し、Webサイトで「最高水準のコロナ対策」を宣言してその取り組みを公開し、3密回避と衛生管理を徹底させている。情報システム部門でもCOVID-19対策案件が動き始めた。

星野リゾートのCOVID-19対策宣言 星野リゾートのCOVID-19対策宣言

IoTで大浴場の混雑を可視化

 COVID-19対策として情報システム部門は、まず「3密回避プロダクト」の開発に取り組んだ。星野リゾートは客室でのチェックインや独立した食事処の設置など、さまざまな3密回避対策を実施していたが、どうしても大浴場は人が密集してしまう。そこで同部門は滞在ゲストのプライバシーを守ったまま利用者が混雑情報を確認して密を避けられるように、IoTを活用した仕組みを取り入れた。

3密回避のための混雑可視化IoTシステム 3密回避のための混雑可視化IoTシステム 

 独自のIoTデバイスをパートナーと共に、滞在ゲストが利用する可視化アプリを社内エンジニアが開発し、スタッフが利用する管理画面には、サイボウズが提供するローコード開発ツール「kintone」を活用した。企画から開発、導入までを6週間で完了した。システムは15施設に対して同時に、テストなしで本番導入したという。

 同氏によれば、特に現地での設置作業に苦労があった。コロナ禍の中で人員の移動に制限があったためだ。「通常、システムを導入する際は情報システムの担当者やパートナーが作業をしに行く。しかし今回は誰も現場に行けず、現場のスタッフとチャットでコミュニケーションを取って、何とか設置できた」

 一方で同氏は、当時を振り返って「星野リゾートの危機に対して、IT部門が貢献できているという手応えを得られた」と語る。

Go To トラベルキャンペーン対応システムを1カ月で開発、リーダーシップが変化への不安を払拭

 観光業を支援する「Go To トラベル」キャンペーンへの対応も迅速だった。キャンペーン対象がぎりぎりまで明確にならない中、情報システム部門はキャンペーンに備えたシステムを先行して開発していったという。

 政府が同キャンペーンのスケジュールを発表したのは、2020年7月10日。その時点ではっきりしていたのは「キャンペーンの適用は同月22日から」という情報のみだった。情報システム部門は徐々に明らかになる発表内容に合わせて順次開発を進め、同月27日には第1弾のリリースにこぎ着けた。既予約のゲストの対応や、電話予約に対応できるよう機能を追加し、同年8月17日には自社チャネルでの割引販売を開始している。久本氏は、「ほぼ1カ月で割引販売機能や予算管理機能を開発できたことが自信につながっている」と述べる。

 星野リゾートが先行きの見えない中でさまざまな変化に迅速に対応できた理由として、久本氏は星野リゾート代表である星野佳路氏の強いリーダーシップと明確な戦略、行動指針があったことを語る。

 「代表の星野は、コロナ禍はいずれ収束する終わりのある危機であり、その後に旅行需要が爆発すると断言した。それまで生きながらえて復活に備える、そのために雇用を維持するという行動指針を出し、スタッフの不安を払拭(ふっしょく)した」(久本氏)

「変化に強い情報システム部門」の作り方

 久本氏は、星野リゾートの情報システム部門を「変化に強い組織」と語る。同部門のメンバーは32人(2020年8月時点)。自前でソフトウェア開発やシステム運用をしており、内製志向が高い。しかし同氏によれば、このような体制になったのはここ数年のことだ。2015年当時のメンバーはわずか4人で、システムの開発や運用はパートナー企業に依存している状態だったという。

 久本氏は、IT活用の目的を「業務やオペレーションの機械化」ではなく「事業のデジタル化によって新たな価値を構築すること」と定めた。「パートナー企業に頼りきりでは、真のデジタルトランスフォーメーション(DX)の実現は難しい。同じ価値観と目的を持つ同志が必要だ」と考え、企業文化と現場知識と高い実現力を兼ね備えたチームづくりを始めた。まず現場にいるメンバーから情報システム部門への異動を促し、星野リゾートの企業風土を理解する組織をつくって運用のベースができた上で、キャリア人材の中途採用を始めたという。

まず現場知識と企業風土をチームに取り入れ、その後に専門スキルを強化した まず現場知識と企業風土をチームに取り入れ、その後に専門スキルを強化した

 また久本氏は、経営陣との距離を縮める重要性を強調する。過去に起きたシステムリリースの遅れを「経営判断プロセスの確立が不十分であったため」と分析。現在は毎月、経営陣とシステム投資判断会議を実施している。

 「変化に即応するには、経営陣との距離の近さが必須だ。コロナ禍においてこの体制が強みとなり、迅速な意思決定ができた」(同氏)

 経営陣に対してITの重要性を周知していった久本氏。活動を始めた当初はIT人材の確保にあまり前向きではなかった経営陣も、今はシステム部門への投資に積極的だという。

変化に強い組織を支えるテクノロジー

 久本氏は組織体制の構築と同時に、変化を前提としたテクノロジーの採用を進めた。「従来の企業情報システムで重視されていたのは安全、安心、安定だった。そこに変化に対応できる能力を備えるための取り組みも進めている」(同氏)

 限られた予算の中でさまざまなIT施策を進めるために、久本氏は「現場が自らIT人材となり、ITサービスを進化させられる会社」を目指したという。そこでkintoneが強力な武器になった。kintoneはコーディングの知識が無い人材でもシステムを作り、改修できる。さまざまな用途への適用が可能で、現場主体の業務改善に使えるツールである。

 星野リゾートでは、台湾の「星のやグーグァン」には夕食サービスの可視化アプリを、「星のや沖縄」では冷蔵庫温度管理システムを導入した。アジリティープラットフォームとしては海外施設を対象に、予約キャンセル料の検知と回収をするシステムにkintoneを使用している。また、海外の代理店向け予約システムの銀行振り込み機能を用意し、海外施設の会計仕訳データ変換システムも開発した。データプロセスコミュニケーションとしては、改善管理アプリなどに活用しているという。

 久本氏は星野リゾートのIT戦略の一つに「全社員IT人材化計画」を挙げている。「それを支えるドライバーがkintoneだ」(同氏)

ポストコロナに備え「まずは生き残る」

 星野リゾートは、以前から変化を前提としてDXに取り組んでいた。その取り組みは「コロナ禍対応の立ち上がり時期に有効に機能した」と久本氏は語る。「しかしコロナ禍はまだ続く可能性があり、ポストコロナのIT戦略はまだ早い。まず変化の中でどう生き残るかが重要だ」

星野リゾートの考える「新たな世界」に向けたサバイバル戦略 星野リゾートの考える「新たな世界」に向けたサバイバル戦略

 「この逆境を生き抜くには、変わり続ける組織をつくるしかない。個々のメンバーが自律的にコロナ禍を生き抜く工夫を続けていければ、生存率は高まるだろう。また、DXが前提となるポストコロナの準備がどれだけできるかも重要だ。それには、既存システムの抜本的な整備や、あらゆる領域を高度に内製化できるスキルが必要になる。これがDX推進の礎となるだろう」(久本氏)

 久本氏はセミナーの中で、星野リゾートのDXを主導するに至るまでの具体的な過程を語った。また、同セミナーでは「変化に強いシステム」や「変化に強い組織」について、サイバーエージェントやサイボウズが解説している。

 星野リゾート始め各社が進める「ニューノーマルへの備え」について、詳細は以下の動画で配信中だ。

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アイティメディア営業企画/制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2020年10月29日