成功率わずか1桁、「デジタル敗戦」濃厚の日本企業のDX その行方は?IT革命 2.0〜DX動向調査からのインサイトを探る

経済産業省などの調査によると、コロナ禍でも日本企業のDXは期待以上に進んでおらず、達成率はわずか1桁台であることが判明しました。「デジタル敗戦」に喫せず、DXを進捗する秘訣はあるのでしょうか。

» 2021年04月05日 11時00分 公開
[清水 博ITmedia]

コロナ禍でデジタル化は進んでいない?

 デル・テクノロジーズが2019年に実施した「第1回 デジタルトランスフォーメーション(DX)動向調査」*1によると、デジタル化が進捗している企業はわずか9.0%で、一割にも満たない状況でした。とはいえ、それほど悲壮感はありませんでした。調査を実施した2019年末はラグビーワールドカップの日本大会が終了した直後であり、「さあこれから、いよいよオリンピックイヤーを迎える」という高揚感から、誰しもがそこはかとない期待を抱いていたように思います。

筆者紹介:清水 博(しみず ひろし)


 早稲田大学、オクラホマ市大学でMBA(経営学修士)修了。横河・ヒューレット・パッカード(現日本ヒューレット・パッカード)入社後、横浜支社でセールスエンジニアからITキャリアをスタートさせ、その後、HPタイランドオフィス立ち上げメンバーとして米国本社出向の形で参画。その後、シンガポールにある米ヒューレット・パッカード・アジア太平洋本部のマーケティングダイレクター歴任。日本ヒューレット・パッカードに戻り、ビジネスPC事業本部長、マーケティング統括本部長など、約20年間、国内と海外(シンガポール、タイ、フランス)におけるセールス&マーケティング業務に携わる。全世界の法人から200人選抜される幹部養成コースに参加。

 2015年にデルに入社。上席執行役員。パートナーの立ち上げに関わるマーケティングを手掛けた後、日本法人として全社のマーケティングを統括。中堅企業をターゲットにしたビジネスを倍増させ、世界トップの部門となる。アジア太平洋地区管理職でトップ1%のエクセレンスリーダーに選出される。

 2020年定年退職後、独立。現在は、会社代表、社団法人代表理事、企業顧問、大学・ビジネススクールでの講師などに従事。著書『ひとり情シス』(東洋経済新報社)の他、経済紙、ニュースサイト、IT系メディアで、デジタルトランスフォーメーション、ひとり情シス関連記事の連載多数。


・Twitter: 清水 博(情報産業)@Shimizu1manITDX

・Facebook:Dx動向調査&ひとり情シス

*1 「第1回 デジタルトランスフォーメーション(DX)動向調査」(調査期間:2019年12月1〜31日、調査対象:従業員数1000人以上の企業、調査方法:オンラインアンケート、有効回答数:479件)の調査結果による。


 しかし、新型コロナのパンデミックにより、突然、環境変化が起きました。それまでプレゼンテーションの時にしか目にしなかったであろう「VUCA(ブーカ)」という言葉が、目の前のリアルな現実として見えてくることになるとは思いませんでした。VUCAとは、社会情勢や事業環境が予測不可能で不安定な状態を表し、Volatility(変動性・不安定さ)、Uncertainty(不確実性・不確定さ)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性・不明確さ)の頭文字からとった言葉です。

 その状況下で「第2回 デジタルトランスフォーメーション(DX)動向調査」*2を実施したところ、8.7%と前年度を下回る結果が判明しました。2020年が特別な年であることには誰も異論はないでしょうが、あらためて現実を見ると無力感に包まれます。

*2 「第2回 デジタルトランスフォーメーション(DX)動向調査」(調査期間:2020年12月15〜31日、調査対象:従業員1000人以上の国内企業、調査方法:オンラインアンケート、有効回答数:661件)の調査結果による。


 しかも、DXの成功率は、それに先駆けて2020年12月28日に発表された経済産業省の「DXレポート2(中間取りまとめ)」*3では3.1%、2020年12月14日に発表されたアビームコンサルティングの「日本企業のDX取り組み実態調査」*4では6.7%と、いずれの調査でも1桁台にすぎないことが報告されました。

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 コロナ発生後は、出社自粛や在宅勤務が推奨された関係で、リモートワークワーク環境が一気に進むという流れもありました。しかし、徐々にオフィスへ戻ることを自然な流れとした企業が増え続け、今では大手企業やプロフェッショナルワーカーを除くと、ほとんどの企業がリモートワークには消極的になってしまったのではないでしょうか。

 ひとり情シス・ワーキンググループが2020年12月に実施した「中堅企業IT投資動向調査2021年」*5によると、リモートワークを積極的に業務に組み込んでいる企業は、11.4%でした。「コロナ禍でデジタルが進む」というのは幻想にすぎなかったのかもしれません。

*3 経済産業省の「DXレポート2(中間取りまとめ)」の「DXレポート2(本文)」(2020年12月28日発表)の調査結果による。
*4 アビームコンサルティング「日本企業のDX取り組み実態調査」(2020年12月14日発表)の調査結果による。
*5 ひとり情シス・ワーキンググループが実施した「中堅企業IT投資動向調査2021年」の調査結果による。


数字が示す失望感

 2020年は、待ち望んでいた「デジタル元年」のはずでしたが、同年に発表された調査データのことごとくが「デジタル化は進捗していない」ことを示していました。

 最も強烈なメッセージだったのは、DXを加速するために企業のとるべきアクションと政府の対応策を検討した「DXレポート2(中間取りまとめ)」です。これは、「2025年の崖」でセンセーショナルを巻き起こした2018年発表の「DXレポート」の第2弾です。

 今回も前回を上回る衝撃的なもので、DXについて部門横断的推進を持続的に実施しているいわゆるデジタル進捗企業は、わずか3.1%にすぎないと報告されました。デジタル進捗企業は、調査対象の223社のうちたった7社ということです。

Photo DX推進指標の自己診断結果によると、部門横断的推進を持続的に実施しているのは、調査対象企業233社のうち約5%(出典:経済産業省「DXレポート2(中間取りまとめ)」の「DXレポート2(本文)」)

 この結果は、経済産業省が策定した各企業で簡易な自己診断を可能とする「DX推進指標」に基づいたものです。顧客満足度などの指標では、日本企業や日本人は他国に比較して厳しい結果になる傾向がありますが、それにしても3.1%は少ないといえます。同レポート内でも「我が国のDXへの取組は想定以上に遅れていることが明らかになった」と述べられています。

 こうも少なすぎると、「バスに乗り遅れる危機感」よりも、ほとんどの企業でDXが進捗していない現実を見て、「赤信号みんなで渡れば怖くない」のごとく、「他社もできていなからいいや」と思う企業が増えてしまうことが心配です。どこからともなく「デジタル敗戦」の声が聞こえてきていることもうなずけます。

 同レポートの中では、自己診断を実施した企業が少なすぎる上、製造業の大企業に偏っていることを指摘し、さまざまな業種や業界、規模の組織にわたる「網羅的な調査には至っていない」と述べられています。DXの実現可否以前に、自社のDX自己診断にも関心が及んでいないことが心配です。

実現するスペックをもう一度見定める

 DXというキーワードも、生まれては消える泡沫的なマーケティングバズワードの一つなのかもしれません。過去のキーワードと同じように、特別意識して対応せずに見過ごしてもいいことなのかもしれません。

 しかし、興味深いのは、コンサルティング企業や調査会社、ITベンダーらがデジタル進捗に関する調査を詳細に発表していることです。ファクトフルネス(データを基に世界を正しく見る習慣)が広まっているのかもしれません。それらは、自社とのベンチマークに有用です。

 また、経済産業省がDXの定義を示した「『DX推進指標』とそのガイダンス」*6には、「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立する」とあります。DX推進に向け、まずはこの文章を因数分解して自社の取り組みとベンチマークをしていくことが第一ステップになると思います。抽象的で理解が難しいという声もありますが、この解釈の議論を社内で始めることで、変革に近づけると考えられます。

*5 経済産業省「『DX推進指標』とそのガイダンス」(2019年7月発表)。


 とても良いチェックリストがあるのでご紹介しましょう。McKinsey & Companyが2018年に発表した調査レポート“Unlocking success in digital transformations”(デジタルトランスフォーメーションの成功を解き放つ)の中にある厳選された質問集です。これらの質問に“Yes”と答えられている企業は、DXを進捗できているとされています。

  1. 経営層が変革に対する明確な具体的展開への道筋を持っていますか?
  2. 組織全体の情報にアクセスしやすくなるデジタルツールを実装していますか?
  3. 社員や取引先にデジタルによる支援サービスが実施されていますか?
  4. 経営層自身が変革しなければならない緊迫感が醸成されていますか?
  5. 変革する役割は組織の中で定義されていますか?
  6. 従来のビジネスプロセスが新しいデジタルテクノロジーで改良されていますか?
  7. 管理職は社員の実験的な新しいアイデア創出を奨励していますか?
  8. 社員は古い仕事のやり方を変革する重要な役割を担っていますか?
  9. 過去の変化の努力にとどまることなく、新しいイニシアチブ開発の役割を認識していますか?

 これら9つの質問を筆者がマトリックスに分類すると、次のようになります。

Photo DX進捗の9つの質問

 これらは、マネジメントや社員のコミットメント、デジタルの活用、アナログ的ともいえるプロセスの不断の改善など、とてもバランスの良い質問です。

 「敗戦濃厚」とのコンテキストで伝えられる日本企業のDXは、最終的には敗戦ではなく勝利をつかむのではないでしょうか。サッカーワールドカップやワールドベースボール、さらに今まで勝つことすらできなかったラグビーワールドカップでも、一時は敗戦濃厚と誰もが思ったものの、最終的には劇的な勝利を収めました。DX達成率1桁という数字が将来の成功への出発点になることに期待しています。

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