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» 2021年04月07日 11時00分 公開

DXが進む企業には、失敗を恐れない文化があるIT革命 2.0〜DX動向調査からのインサイトを探る

調査によると、DXを積極的に推進する企業は「失敗を恐れない文化」との回答が、デジタル化に苦しんでいる未推進企業と比べて約6倍多いことが分かりました。縦割り組織にありがちな古い文化や意識を改善し、DXプロジェクトを成功させるコツを探ります。

[清水 博,ITmedia]

「失敗を恐れない」文化はDXに影響するか?

 「失敗を恐れない」というのは、ビジネスを成功に導く秘訣(ひけつ)の1つとされています。会社員を題材にした昔のテレビドラマなどで、陽気なキャラクターの主人公が不用意なミスをして社内は大混乱に陥るものの、最後はビッグビジネスを受注し、会長や社長に褒められる、といったシーンを見たことがある方も少なくないでしょう。

 とはいえ、現実のビジネス環境ではどうでしょうか? 企業のコンプライアンスが重要視され、社内のガバナンスも厳格になっている現在では、失敗を恐れないどころか、ちょっとした失敗でも避けたい雰囲気があるのが現実で、テレビドラマが描く世界とは全く別ものだと思うのではないでしょうか。

筆者紹介:清水 博(しみず ひろし)


 早稲田大学、オクラホマ市大学でMBA(経営学修士)修了。横河・ヒューレット・パッカード(現日本ヒューレット・パッカード)入社後、横浜支社でセールスエンジニアからITキャリアをスタートさせ、その後、HPタイランドオフィス立ち上げメンバーとして米国本社出向の形で参画。その後、シンガポールにある米ヒューレット・パッカード・アジア太平洋本部のマーケティングダイレクター歴任。日本ヒューレット・パッカードに戻り、ビジネスPC事業本部長、マーケティング統括本部長など、約20年間、国内と海外(シンガポール、タイ、フランス)におけるセールス&マーケティング業務に携わる。全世界の法人から200人選抜される幹部養成コースに参加。

 2015年にデルに入社。上席執行役員。パートナーの立ち上げに関わるマーケティングを手掛けた後、日本法人として全社のマーケティングを統括。中堅企業をターゲットにしたビジネスを倍増させ、世界トップの部門となる。アジア太平洋地区管理職でトップ1%のエクセレンスリーダーに選出される。

 2020年定年退職後、独立。現在は、会社代表、社団法人代表理事、企業顧問、大学・ビジネススクールでの講師などに従事。著書『ひとり情シス』(東洋経済新報社)の他、経済紙、ニュースサイト、IT系メディアで、デジタルトランスフォーメーション、ひとり情シス関連記事の連載多数。


・Twitter: 清水 博(情報産業)@Shimizu1manITDX

・Facebook:Dx動向調査&ひとり情シス

 では、「失敗を恐れない/恐れる」という企業文化は、DX推進にどう影響するでしょうか。

 デル・テクノロジーズが2021年1月に発表した「第2回 デジタルトランスフォーメーション(DX)動向調査」*1によると、「失敗を恐れない文化がある」と回答した企業は全体の中の9.9%に過ぎませんでした。

「失敗を恐れない文化がある」と回答した企業(出典:デル・テクノロジーズ)

*1 「第2回 デジタルトランスフォーメーション(DX)動向調査」(調査期間:2020年12月15〜31日、調査対象:従業員1000人以上の国内企業、調査方法:オンラインアンケート、有効回答数:661件)の調査結果による。


 この結果は「ちょっとした失敗も避けたい」という現在の企業を取り巻く空気感をそのまま表しているようにも見えます。しかし、回答者の属性を探っていくと、興味深い結果を見いだせました。デジタルトランスフォーメーション(DX)を積極的に推進し、DXの効果を感じている「デジタル推進企業」では、25.5%に失敗を恐れない文化が認められました。

 一方、デジタル化に苦しむ「デジタル未推進企業」では、失敗を恐れない文化があるとの回答は4.2%にとどまり、実に約6倍もの差があったのです。

「“脱”事業部制」がDX推進のカギに?

 「DXプロジェクトでは、PoC(概念検証)を20個やって、1つでも成功すればいいのです」 ――。これは、筆者が日本におけるアジャイル開発の第一人者である平鍋健児氏と対談した時に伺った印象的な言葉です。DXの難しさを感じるとともに、それだけリスクを取ったプロジェクトをスタートする勇気と、それを奨励する企業環境が前提であることに驚きました。

 平鍋氏によると、DXの推進に重要なのは、まず「これまでの日本の減点主義を改善し、失敗を恐れず、むしろリスクを取ったチャレンジを評価するカルチャーを作り上げる」ことだといいます。そのためには、「人は失敗することから学び、育つため、失敗から学ぶ人を評価するシステムを作る必要がある」とも指摘しています。分かりきったことに聞こえるかもしれませんが、実現できていないから、DXの推進に苦労しているものと思われます。簡単な処方箋はありません。

 この調査にの1年前、2019年末にデル・テクノロジーズのサーバ製品を担当する部門が実施した「第1回 デジタルトランスフォーメーション(DX)動向調査」*2では、DXと組織環境の因果関係が判明しました。DXとは直接関係がないように思われるリモートワークや1on1ミーティングなどが実務の中に完全に浸透している企業でDXが進捗していたのです(「リモートワークをうまく運用できる組織の特徴は? DX調査にみる傾向」)。

*2 「第1回 デジタルトランスフォーメーション(DX)動向調査」(調査期間:2019年12月1〜31日、調査対象:従業員数1000人以上の企業、調査方法:オンラインアンケート、有効回答数:479件)。


 また、「失敗を恐れない/失敗を許容する文化」はどのような組織で育まれるのかについても調査しました。

 DXプロジェクトは、情報システム部、事業部門、経営企画部門が相互に絡み合うものです。関係性の構築から始まり、責任範囲の定義や実施主体などが従来のITプロジェクトとは異なります。

 そこで、「第1回 デジタルトランスフォーメーション(DX)動向調査」では、事業部制と失敗を恐れない文化がどの程度関係あるのかということを調査項目の一つに含めました。

 その結果、「事業部制の“縛り”が強く、縦割り組織としての存在感が大きい組織」と「事業部間の壁が低く、組織横断的な組織」とでは、下図のように失敗に対する価値観が大きく異なることが分かりました。

組織形態と失敗を恐れない文化の関係性。組織横断的な組織であるほど、「失敗を恐れない/失敗を許容する文化」であることが判明した

 驚くことに、「徹底した縦割り組織」では「失敗を恐れない」と回答した組織はゼロでした。逆に、「徹底した組織横断的な組織」や「組織横断的な動きが進む組織」では、「絶対に一度でも失敗できない」と回答した組織はゼロでした。

 日本企業は、事業部制の導入によって、迅速な意思決定と行動の実現や、事業別の損益計算書による利益責任の明確化、それに基づくインセンティブ制度による従業員のモチベーションの維持、獲得などを実現しました。その結果、日本の高度経済成長が促されたことは否定できません。

 しかし、バブル崩壊とともに、事業部制がセクショナリズムを生むことになり、システムなどの開発において部門を超えた連携や協力ができないといった弊害が指摘されるようになりました。

 現在でも事業部制で継続的な成果を上げたり、新規事業を推進したりしている企業は多いと思いますが、事業部制は、自ら意思決定しやすい半面、その責任も有します。

 上記の調査結果から明らかになったのは、その責任を過度に意識するためなのか、事業部の本来の自由裁量で動ける良さを失い、事業部の責任を追及されないように「リスクを取らない組織」になってしまっている恐れがあるということです。

 一度、事業部制の現在位置や失敗に対する文化を評価し直すことが、DXの推進に向けての大きなキーポイントになるかもしれません。

ITプロジェクトの失敗をプラスに変えられるか?

 日本企業では、失敗すると担当者が“詰め腹を切らされる”ことになり、何事もなかったかのように次の人間に担当させるので、また前任者と同じ過ちを犯す「失敗を繰り返す組織」になりがち、というのが経営学の知見の1つになっています。失敗を極度に嫌う文化が日本人に根付いているのかもしれません。

 しかしながら、文化のせいだけにできない部分もあります。IT系のプロジェクトの成否は、参画するメンバーのスキルやクオリティー、使える資金や期間によって決まるといっても過言ではありません。例えば、予想外に業績が伸びたため、その資金をIT化に緊急投入し、急きょ集められたメンバーで対応する、といった状況もあるのではないのでしょうか。

 私も営業現場でそのようなケースを多く目の当たりにしてきました。予算を豊富にかければ必ずしもいいものができるわけではありませんし、背伸びして成果を求めることも多いかと思います。思い返すと、そのような社内プロジェクトが、誰にも指摘されることなく、知らぬ間に葬り去られていた、ということもあるのではないでしょうか。それは、「失敗を許容できない」がゆえの結末でしょう。とはいえ、失敗から何も学ぶことなく、ただ見過ごしていたことに他なりません。こうしたことは習慣的に実施されていたはずです。

 こうした悪しき習慣を断ち切り、失敗を恐れることなく、プロジェクトを成功に導けるかどうかは、「どうしたら失敗からプラスに転じさせられるか」といった意識をメンバーが持てるかどうかにかかっているといえるでしょう。

日本には「失敗」のことわざがない

 筆者は、「失敗」をテーマにいろいろな文献を調べました。そして、身近なことわざについて面白い発見がありました。

 『世界ことわざ比較辞典』*3に、「失敗は成功のもと」という項目があります。「失敗しても、その原因を追究し、欠点を反省し、方法を改善していくことで、その後の成功につながる」という意味で、私たち日本人には、とても身近に思えることわざです。

 ところが、このことわざの出典は「西洋」と記述されていました。明治時代には、すでに日本に紹介されていたそうです。古くから伝えられることわざには中国故事を出典とするものも多いのですが、このことわざは比較的新しいもののようです。

 さらに、日本には、これと同義のことわざはないとのこと。類義のことわざとして、中国故事を源に持つ「禍(わざわい)転じて福となす」が挙げられています。この「禍」は、現在よく目にする「コロナ禍」に使わている言葉で、「不意に訪れた災難」のような意味合いです。「自らチャレンジを仕掛けた末の失敗」とはニュアンスが異なります。そして思い至ったのは、「日本には『失敗(チャレンジの末の失敗)』を表すことわざがない」ということです。もしかすると、これが、われわれ日本人が失敗を有益に活用できない理由なのかもしれません。

 『世界ことわざ比較辞典』では、失敗に関する各国のことわざも紹介されており、それぞれの国が歩んできた歴史や国民性などの背景が透けて見えます。例えば、古代ギリシア語では「試練の後、より賢くなる」、ラテン語では「失敗によってより賢くなる」、英語では「失敗は成功への道を教える」「失敗は成功ヘの踏み台」、イタリア語では「間遠いながら学ぶもの」、中国/韓国/モンゴル語では「失敗は成功の母」、ドイツ語では「損することで賢くなる」、フランス語では「人は間違いを犯してこそ学ぶもの」、ネパール語では「災難にあわずして知恵は生まれぬ」などが挙げられています。目を通していただくと、いろいろなインスピレーションが湧くのではないでしょうか。

 ことわざにあやかって「DX失敗はビジネス繁栄の基」となればいいかもしれませんが、「DX失敗はビジネス失敗の基」などと、失敗に関する日本のことわざを新しく生み出すことにはならないようにしたいものです。

*3 『世界ことわざ比較辞典』 日本ことわざ文化学会 編、時田昌瑞 監修、山口政信 監修、岩波書店 2020年3月26日発行


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