化粧品メーカーに移籍したITプロ 1年で何を成し遂げたか、コーセーの事例に学ぶ(1/2 ページ)

コーセー情報統括部に参画したITのプロはDXに向け、組織をどう変えたか。急遽発生したコロナ禍対応と合わせ、どう活動し、何を変えたか。1年の活動成果を聞いた。

» 2021年07月01日 08時30分 公開
[名須川竜太ITmedia]

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コーセー 情報統括部グループマネージャー 進藤広輔氏

 化粧品メーカー大手のコーセーは、1946年創業の老舗企業だ。5年後に創業80周年を控えた現在、さらなる成長を目指す中長期ビジョン「VISION 2026」を掲げ、海外売上比率の向上など、グローバルで存在感を高める施策を進める。

 同社の情報統括部に、AT&Tからローソン、Amazon Web Services(AWS)と、ユーザー企業とITベンダーを股に掛けて活動してきた進藤広輔氏がグループマネージャーとして着任したのは2020年2月のことだ。

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の脅威がまだ深刻化していなかったこの時期、会社の成長に貢献するIT組織を作るべく、進藤氏が最初に手掛けたのは、情報統括部員の仕事ぶりを徹底的に見て、各部員の声を聞くことだった。

 「見ることに関しては、部員の振る舞いや仕事への向き合い方、アウトプットとなるドキュメントまで、一人一人の仕事の内容や質を見ました。聞くことについては、1対1の対話を通じて自己評価や現状の課題と不満、特に意識を置いていることの他、今までやってきたことと、これからやりたいことなどをヒアリングしました」(進藤氏)

「非定型業務? ならば定型化しよう」考える時間の作り方

 この見る/聞くを通じて判明したのが「一人一人の部員にとにかく時間がない」ということだった。理由は明白だ。日々、事業部門からの依頼や問い合わせ、既存システムで頻発する不具合、システムをリリースする度に増える定型業務に追われていた他、業務体系にも非効率な部分があり、常に時間がない状況に陥っていたのだ。

 また、部員の業務を棚卸しして1日の時間の使い方を確認したところ、大半の時間が定型あるいは一部非定型の運用業務に費やされ、新たな取り組みへの時間をほとんど取れていないことも分かった。

※本稿は2021年5月に開催された「AWS Summit Online 2021」の講演を基にした。


 さらに、依頼や問い合わせに特徴的な問題があることも判明した。社内各所から特定の部員宛てに直接、電話やメールで依頼や問い合わせが寄せられるケースが非常に多いのだ。進藤氏は、この属人化した依頼や問い合わせへの対応が部員の業務を非効率的にし、時間がない状況をもたらしているのだと考え、すぐに対策を打った。属人化した対応からチーム対応への転換だ。

 「例えば、依頼や問い合わせのメールは全てグループアドレスで受けるようにしました。これにより、『自分が対応できないときでも他のメンバーが対応してくれるので、自分だけがやらなくてもよい、抱え込まなくてもよい』という文化が醸成されます」(進藤氏)

 そこで新藤氏が次に着手したのは、定型業務のアウトソーシングと非定型業務の定型化だ。前掲のグラフから分かるように、1日の業務時間の35%をシステム運用管理などの定型業務が占めていた。これを外部に委託することで業務を大幅に削減し、それによって生まれた時間を新企画の検討など創造的な業務に使える体制を作った。

 「ユーザー企業のIT部門が新たなことに取り組む上では、考える時間を確保することが重要です。そのためには定型的な作業や付加価値を生まない作業を外に出したり、非定型なようでも実は何度も繰り返し実行する業務を定型化/手順化し、外に出す準備を進めたりすることが非常に大切」(進藤氏)

 これらの下地作りが、後にDXやコロナ禍への対応で大きな効果を生むことになる。

コロナ禍への適応を「インフラ、ソフト、マインド」の3段階で推進

 こうして情報統括部の改革が進む一方、社会ではCOVID-19の感染が拡大し、日本政府は4月7日に第1回目の緊急事態宣言を発布。ライフスタイルとワークスタイルが激変する中で、ニューノーマル社会に向けた情報統括部のチャレンジが始まる。

 コロナ禍への対応としてやるべきことは多岐にわたったが、情報統括部においては、これを段階的に進めるアプローチをとった。

 第1段階においては出社/外出ができない状況の中で仕事をするためのインフラを整備した。在宅ワークの環境としてノートPCの導入を進め、社内LANは有線から無線に変更した。WANはIP-VPN/広域イーサネットからオープンなインターネットに切り替え、どこからでも仕事ができる環境の土台作りを進めた。データの置き場所もオンプレミスからパブリッククラウドへと舵を切り、セキュリティも以前よりはるかに高いレベルへと強化を進めている。

 働き方も大きく変えた。在宅中心に移行して出社率を20%程度に抑え、会議はWeb会議で実施している。出社率を低く抑えられているのは、さまざまな定型業務をアウトソーシングした成果だと進藤氏は胸を張る。

 「定型業務の中には、出社しなければできないものもありました。それらを徹底して外に出したことで、出社率を20%程度に抑えられているのです」(進藤氏)

 続く第2段階として、ソフト面に視点を移し、Web会議やチャット、社内SNS、社内ポータル、動画配信の仕組みなどを順次整えた。「ソフト面の整備ばかりを優先するとインフラがボトルネックになり、Web会議が使えないといった状況が発生します。インフラ、ソフトと順序立てて整えるアプローチが必要です」と進藤氏はアドバイスする。

 動画配信の仕組みはAWSを使って構築した。AWSの利用経験が全くない従業員2人で2021年3月に開発を始め、3週間でカットオーバーした。2021年4月1日の入社式でも利用された。同社が「KoCo Tube(ココチューブ)」と呼ぶこの動画配信サービスは、その後に追加開発されたリアルタイム動画配信サービス「KoCo Live(ココライブ)」とともに、社内外向けの研修やセッションなどで活用されている。

 第3段階として大切なのが、マインドを整えることだ。

 「テレワークへの移行により、これまで隣にいた同僚がいなくなって孤独を感じる従業員もいますし、会社からのメッセージも届きにくくなります。そこで、マインドを整えるために『従業員と会社のつながり』を重視し、さまざまな施策を実施してきました。両者の距離間をどう縮めるかは現在も苦慮していますが、この取り組みが同士ても必要だと考えています」(進藤氏)

 同僚らとの"雑談"をどう復活させるかも大きなポイントだ。代わりになるものをシステムを介して提供するために、現在も試行錯誤を続けている。

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