Google Cloudが提供する内製化支援サービス「TAP」 カインズが利用した結果は?

Google Cloudは企業や組織の内製化を推進する支援を行っている。カインズが公開した内製化支援の中身とその効果とは。

» 2022年10月03日 08時00分 公開
[関谷祥平ITmedia]

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 Google Cloudは2022年9月27日、「Tech Acceleration Program」(以下、TAP) とカインズの事例に関する記者説明会を実施した。Google Cloudは同社のミッションに「企業のデジタルトランスフォーメーションを加速する」を掲げ、内製化を支援してきた。将来的な開発内製化を目指す企業や組織が、より迅速に効率的なアプリケーション開発を体験できる数日間の無償ワークショップがTAPだ。

Google Cloudが内製化を推進する理由と課題

 Google Cloudの菅野 信氏(執行役員 ソリューションズ&テクノロジー担当)は、同社が内製化を推進する理由を3つ挙げる。1つ目が、インターネットやスマートフォンの普及、新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大により、顧客接点のデジタル化が進んだこと。2つ目が、企業にとって市場変化や顧客ニーズげの迅速な対応が求められていること。3つ目が、アジリティの手段としてクラウド技術の活用や内製化の注目が高まっていることだ。

 一方で菅野氏は、「内製化の推進には課題もある」と話す。

 同氏が挙げる課題は以下の3つだ。

  • 成功体験の欠如に起因する、内製化シフトに対する懸念
  • アジャイルな開発手法に精通した人材および教育戦略の欠如
  • 目的および組織の習熟度に合わせた、最適なサービスが選択できない

 「TAPではこれらの課題解決に向けて取り組んでいく」(菅野氏)

TAPが提供する2つのサポート どう内製化を支援するのか 

 Google Cloudの安原稔貴氏(技術部長 インフラ、アプリケーション開発担当)によれば、TAPを通して内製化支援を推進する理由に、経済産業省が発表した「DX(デジタルトランスフォーメーション)レポート中間取りまとめ」に記載のある2つの指摘が大きく関係している。

 1つ目は、ソフトウェア開発における従来の受発注に本質的な困難さがあると考えられる点だ。迅速に仮説と検証を繰り返す必要がある「SoE」(Systems of Engagement)の領域での大規模なソフトウェア開発においては、これまでの受発注形態では対応が困難な可能性が高い。

 2つ目は、競争領域を担うITシステムの構築において、仮説と検証を俊敏に実施するためにアジャイルな開発体制を社内に構築し、市場の変化を捉えながら小規模な開発を繰り返すべきというものだ。

 「TAPではGoogle Cloudが組織に対してトレーニングを提供するのではなく、企業とGoogle Cloudがワークロードの開発を通して伴走し、成功体験を一緒に作っていくものだ」(安原氏)

 TAPは、サーバレスやコンテナなどの一般的な製品を中心に開発支援を実施しており、安原氏は「Google Cloudのサーバレスやコンテナといったサービスはできることの幅が広い。これらのサービスを組み合わせることで多くのことができるようになり、スケーラブルで簡単に運用を始められる点が強みだ」と話す。

図1 Google Cloudのプロダクト(出典:Google Cloud提供資料)

 TAPには、開発予定のアプリケーションのプロトタイプ開発を実施する「ソフトウェアプロトタイピングサポート」と、最適なアーキテクチャ設計を支援する「アーキテクチャ設計サポート」の2つがある。

ソフトウェアプロトタイピングサポート

 同サポートはGoogl Cloudのエンジニアがユーザーのアプリケーションに関するプロトタイプをGoogle Cloudの製品を利用して開発を支援する。具体的には、ソフトウェアを開発する際のプランニングやアーキテクチャ設計などだ。実際にユーザーのシステムやデータを利用してプロトタイプを開発するため、支援後も円滑に開発を進められる他、プロダクトへの理解度も深まるという。

 利用プロダクトには、「GKE」や「Cloud Run」「Pub/Sub」「Cloud Build」「Cloud Storage」などがあり、実施期間は3〜5日間だ。

図2 実施スケジュール(出典:Google Cloud提供資料)

アーキテクチャ設計サポート

 同サポートでは、新規システムのアーキテクチャ設計、または既存システムを再設計する支援を実施する。

 ユーザーのビジネス課題や実現したいことをヒアリングし、ユースケースをベースに最適なアーキテクチャを考える。実施期間は1〜2日間だ。

カインズにおける内製化

 「カインズは約3年にわたり内製化に取り組んできて、人員やプロダクトも増えた。注目度も高くなっているが、現場から見ると実はうまくいっていたわけではない」――。そう話すのはカインズの菅 武彦氏(デジタル戦略本部 システム開発 プロダクト開発部 部長)だ。

 同氏によれば、内製化に取り組む中で「プロジェクトをどこに立ち上げればよいのか」「どこに必要なデータがあるのか」「担当者は誰なのか」といった課題を現場は抱えていたという。

 これらの課題を解決するために、カインズは2つのシステムを対象に内製化を目指してワークショップなどに参加した。1つ目が「EC分野」だ。菅氏によれば、まずGoogle Cloud主導の元、『健康診断』を実施し、ワークショップの実施や業務プロセスの可視化、システム間連携の可視化を行ったという。

 「健康診断を経て、『システム設計のクセ』や『コンウェイの法則』への気付きがあった。また『マイクロサービス設計』や『全体アーキテクト・ドメインエキスパート』の支援を受けられた」と同氏は話す。

 2つ目のプロジェクトが「需要予測」だ。菅氏によれば、立ち上げ当時はエンジニアやデータサイエンティストなどの人員がそろっていなかったが、Google Cloudとのワークショップを通して予測、学習、モデル置換フローのアーキテクチャ設計やデータ前処理や予測計算、イベントトリガー設計、CI/CD構築のプロトタイピングが可能になったという。

TAP受講後の効果は?

 菅氏は「TAPを受講することで、問題意識が大きく変わった」とその効果を話す。

 「全体アーキテクトの視点が欠けていた」と話す同氏は、TAPの受講の後にマネジメント層やエンジニアと一緒にグランドデザインを作り、さらにドメイン分割やデータモデリングといった課題を洗い出すなどの取り組みを推進している。また、マネジメント層にもこれらの課題を理解してもらうことで、あるべき組織デザインを考え直すきっかけになっているという。

 カインズは今後、これらのマイクロサービスやアーキテクチャに加えて組織構成のチーミングにも注力する予定だ。

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