マスク氏が狙うTwitterの決済プラットフォーム化「成功するに決まっている」派の言い分Payments Dive

マスク氏はTwitterを決済サービス基盤にする考えを持つ。大半の業界人が屍累々の事業計画だと警告する一方で、「成功の可能性が高い」とみるアナリストも存在する。勝ち筋を聞くと、確かに不可能ではなさそうだ。

» 2022年11月24日 10時30分 公開
[Lynne MarekPayments Dive]

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 億万長者の実業家イーロン・マスク氏は、Twitterを決済事業者として成功させるため、自身が持つ純資産の約4分の1に相当する440億ドルを賭けた。

 『The New York Times』の報道によると(注1)、マスク氏は投資家に対して、「6年以内にソーシャルメディアプラットフォームの収益を現在の5倍の264億ドルにできる」と語った。その戦略の重要な部分は、それまでに13億ドルの貢献をする決済ビジネスを構築することだと述べている。

 The Vergeの報道によると(注2)、2022年10月27日の買収までの数カ月間、買収を追求したマスク氏は、同年6月にTwitterの従業員と話した際にも、Twitterを「WeChat」に似た形に刷新したいと述べて、決済サービスへの意欲を強調した(注3)。WeChatは中国のソーシャルメディアであり、スーパーアプリの側面も持つ。ユーザーは支払いやその他の金融ツールを同じアプリの中で利用できる。

 決済ビジネスはマスク氏にとって新しい領域ではない。同氏は1999年にX.comという会社の共同創設者となり、その会社が別の事業者と合併してPayPalになった。同氏はまた、暗号通貨という形で21世紀の決済に強い関心を寄せており、「Dogecoin」というジョークから生まれた暗号資産を熱心に支持している。

 もちろん、自動車メーカーのTeslaや航空宇宙企業のSpaceXなど、他の事業も成功させて世界一の富豪になった(注4)。それらの企業によって、他の企業にも投資できる潤沢な資金を手に入れた。

経験者は警告「コアユーザーの利用行動は変わらない」

 それでも、起業家やベンチャーキャピタリストでもあるPayPalの元トップは、「マスク氏がTwitterを決済企業に変えられるかどうかは疑問だ」と述べている。他の経営者もソーシャルメディアプラットフォームをお金を生む決済ビジネスに変えようとして失敗しており、マスク氏がそれを実現する「魔法のつえ」を持っているかどうかは疑わしいと彼らは主張する。

 「TwitterはTwitterだ。TwitterはTwitterのままであり、他の何者でもない」と、デジタル請求書決済会社Aliaswireのジェド・ライスCEOは語る。同氏は以前PayPalのシニアディレクターを務めていた。ライス氏は、「3年の猶予があるとしても、マスク氏がTwitterでの決済ビジネスを成功させる確率は100分の1だ」と述べている。

 「大きな障壁は、ある特定の目的のためにソーシャルメディアサイトを使うことに慣れたソーシャルメディアユーザーは、新しい決済機能を採用しにくいことだ」とライス氏は言う。さらに、現在成功している決済ツールを作った企業は、それを正常稼働させるのに何年もかかっており、今でも新規の決済ツールを追加するのが難しいという。

 Facebookがメッセンジャーサービスをピアツーピア(P2P)決済ツールと組み合わせようとしたとき、「見事に失敗した」とライス氏は語る。「人々は、『これはばかげている。なぜ自分がこんなことをしなければならないのか? Venmo(米国で普及した個人間送金アプリの一つ)のほうがいい』と言っていた。「影響力を失いつつある写真共有型SNSサービス『Snapchat』が決済サービス『Snapcash』を作った時も同様に失敗した」と同氏は指摘する。Snapchatは2018年にその実験を終了している(注5)。

 Twitterは既に「何億人ものユーザーがいて、その習慣や文化、流れがある」ので、彼らの習慣を変えるのは「不可能に近い」とライス氏は結論付けた。

 2013年にBraintree経由でPayPalに買収されたVenmoのようなP2Pビジネスでさえ、本来の使命を超えて拡大することはまだ困難だ。PayPalは、Venmoをマーチャント用途に移行させるのに苦労している。

 PayPal自身もP2Pなどの決済機能を追加しようとしたが「鳴かず飛ばずになってしまった。広範なコマースの可能性は全て減退してしまう」と、2015年から2019年までPayPalに在籍していたライス氏は振り返る。

 2004年から2010年までPayPalの元幹部を務め、オンラインマーケットプレイス「eBay」の一部だった頃のビジネス構築に貢献したディクソン・チュー氏も、同じような見方をしている。ソーシャルメディア企業は、「単にプラットフォーム上でソーシャルな関係を築いているユーザーを、そのプラットフォーム上で取引を行うユーザーに変えることに苦労している」と、同氏は説明する。

 現在、POS決済システムを提供する企業CopperのCEOを務めるチュー氏は、「他の誰もやっているのを見たことがないし、私も2度失敗している」と語る。PayPalでの失敗に加えて、チュー氏は10年代初頭にYahoo! に在籍していたときにも挑戦している。「かのTechジャイアントMicrosoftもSkypeを買収した後、ユーザーを変えられなかった」と同氏は指摘する。

競争は激化するも、収益化の主戦場はコマースにしかない

 そして今、競争の環境には変化が起こっている。

企業はソーシャルメディア企業(の資産)にボルトで取り付けるように機能を追加するのではなく、ゼロから特殊な決済ツールを開発することに何年も費やしてきた。新規事業のライバルは、PayPalや、Block(旧Square)の消費者向け決済事業である「Cash App」、国内最大手銀行が支援するP2P事業の「Zelle」などが含まれる。

 チュー氏は、既に決済機能を提供している競合他社を列挙しながら、「同じような利用者を獲得しようと競い合っている人たちは他にもいる。彼らは最も重要なこと、つまり、それを安心して利用できる消費者を獲得している」と述べた。

 そして、実現可能なP2P決済ツールを作ることは「最初の一歩に過ぎない」とチュー氏は語る。全ての決済プレーヤーが望んでいるのは、消費者が単に友人にお金を送るだけでなく、取引にツールを使用できるコマースへの移行だ。

 「本当のお金(収益を得る方法)は個人間ではなく、コマースだ」とチュー氏は言う。マスク氏や決済を収益化したい人たちは、「常に消費者支出をターゲットにツールを開発している」と説明する。マスク氏がお金を稼ぎたいなら、「商取引」という切り口を持たなければならない。

WeChatが米国で通用しない理由と、マスク氏の勝ち筋

 WeChatのビジネスモデルに関しては、「もしマスク氏がそれを成し遂げられたとしても、一夜にして実現することはないだろう」とチュー氏は言う。また「ソーシャルメディアのWeChatはモバイル決済とデジタルウォレットサービスのWeChatとはあまり関係がない」とも指摘する。

 「誰もが『WeChatのようになりたい』と言うが、中国で起きていることは米国で起きていることではない」とライス氏は言う。

 「WeChatは、ブロードバンド、クレジットカード、コンピュータが広く普及する前に中国で誕生した」とライス氏は説明する。「中国とその消費者は、何もないところから携帯電話に飛びつき、携帯電話を現金の代わりとしてうまく利用した」と同氏は説明する。「これに対して、欧米人はまだカード決済に固執しており、さまざまなデジタル決済の選択肢を持っている」とライス氏は指摘する。

 FinTechカンファレンス「Money 20/20」の編集長を務めるサンジブ・カリタ氏は、マスク氏が手ごたえを感じている(be onto something)可能性があると強く信じている。「彼は過去に間違いなくこれをやっている」とカリタ氏は言い、マスク氏のPayPalの遺産に言及した。

 カリタ氏は、Square(現Block)の共同創業者でありリーダーでもあるTwitterの共同創業者、ジャック・ドーシー氏とマスク氏の今年初めの会話で明らかになったロードマップを指摘する(注6)。2022年9月に報道されたテキストの対話で、ドーシー氏はTwitterが地味なソーシャルメディアの広告収入モデルを超えて、「オープンソースのプロトコル」に移行しなければならないことを提案した。そうすれば、さまざまな種類の支払いの流れが可能になるかもしれないとカリタ氏は話す。

 「そこにマスク氏が手がける暗号資産に対する信頼とPayPalの経験がうまく融合し、ブロックチェーンベースの支払いの可能性が見えてくる」と、ブロックチェーン信用調査会社GuppyのCEO兼創設者でもあるカリタ氏は語った。

 買収以来、マスク氏は既にTwitterの経営陣をオーバーホール(総入れ替え)して(注7)、業務改革を命じており(注8)、同社の労働力を縮小する計画を立てている(注9)。Twitterを追ってきたあるアナリストは、ライバルの存在にもかかわらず、マスク氏の決済計画が成功することを否定しない。

「競争は激しいが、Twitterには膨大なインストールベースがあり、何かを構築するリソースもある。これはTwitterにあって、他の企業にはないものだ」とWedbush Securitiesのシニア・エクイティ・リサーチアナリスト、ダニエル・アイブス氏は語った。


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