組織の「データアレルギー」を克服 データアンバサダーがDXに欠かせない理由

データ活用でDXを推進するには、”全社的”な活用が欠かせない。一方で、ビジネス側はデータに対してアレルギーを持っていることもある。結果として「IT側のみが取り組むDX推進」になりがちだが、これを解決する方法があるという。

» 2023年02月07日 08時00分 公開
[関谷祥平ITmedia]

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 組織がビジネスを成長させる上で、データ活用は欠かせない存在になっている。一方で「データアナリストやデータサイエンティストがいるのにデータドリブン経営が実現できていない」という声も多く聞く。

 このような現状に対し「データを民主化するためには、データアナリストやデータサイエンティストだけでなく、組織横断的にデータの橋渡し役を担う『データアンバサダー』の存在が欠かせません」とドーモでプレジデント ジャパンカントリーマネジャーを務める川崎友和氏は指摘する。

 データ活用でDX(デジタルトランスフォーメーション)推進を加速させるためには必須のポジションになるというデータアンバサダー。その役割と重要性を同氏に聞いた。

データアンバサダー誕生の背景にはビジネス側の「データアレルギー」

川崎友和氏

 ドーモは企業向けクラウド型データ活用プラットフォームである「Domo」を提供しており、さまざまな企業のデータ課題の解決を支援する中でデータアンバサダーというポジションが今後は重要になると気づいた。川崎氏によれば、データアンバサダーが誕生するに至った組織におけるデータ課題は3つある。

 1つ目は、「日本企業における『TCO』(Total Cost of Ownership)投資への予算割り当て比率」が関係している。米国をはじめとする先進諸国では「ROI」(Return On Investment)投資が最重要とされるのに対し、日本はその逆だ。

 「データを活用してビジネスを『どう伸ばすか』にフォーカスしている欧米諸国に対し、日本は『どうコストを削減するか』にデータを使っています。”攻めのDX”が日本はできていないといえるでしょう」(川崎氏)

 同氏は2つ目の課題に「共同無責任状態」を挙げる。DX推進では、経営層やビジネス部門、IT部門などがそれぞれオーナーシップを持って目標に取り組む必要があるが、多くの企業では「とにかくDXに取り組もう」と考えるだけで、IT部門をはじめとする特定の部署に丸投げになっているケースが多い。この場合、目先の問題を解決することは可能だが、長期的な成長戦略を描くことは困難だ。

 DX推進の軸となるIT部門も「セキュリティ面から既存システムを継続して使う傾向がある」と川崎氏は指摘する。

 「新たなシステムを導入し、そこで何か問題が起きればIT部門に責任が問われる。そのような状況を避けるため、多くのIT部門は『まだ機能しているし』という理由から既存システムを使い続けている。これでは長期的な成長は見込めないことは明らかですが、このような状況の背景には、ROI投資に消極的な組織体制が大きく影響しています。このような”負のサイクル”が滞留しているのが日本企業の現実です」(川崎氏)

 川崎氏は3つ目のデータ課題に「『X』にフォーカスしない日本企業の体質」を挙げる。DXに取り組む企業の多くが「D」(デジタル)の進化のみにフォーカスし、組織変革の「X」(トランスフォーメーション)は後回しにしている現実がある。

 「データ活用を含むDXを成功させるには、組織そのものが変革する必要があります。一方で、多くの企業は『新サービスがあればDXは成功する』と考えがちです。これは大きな間違いです。組織がトランスフォームしない限りDXの成功はあり得ません」(川崎氏)

 組織が変革するためには「人材投資」が欠かせないが、多くの企業は日々の業務に追われ、スキルアップのための投資や学びの場の提供を後回しにしている。これでは新たな技術を組織内に取り入れても、「人側が技術を使いこなすレベルに達していない」というケースになりがちだ。その結果、「コストの増加」や「技術の価値を発揮できない」といったことにつながる。

 「日本人は技術が好きなので、DXのDは得意ですが、Xは苦手です。これにより、結果的に製品と人の間にギャップが生まれます。しかし、人側に問題があると気付かずに『この製品は合わない。違うのを試そう』と製品にばかり気を取られている企業が多いのも現実です。」(川崎氏)

 川崎氏はこれらの課題を受け、「データ活用を通じてDXを成功させるには、多くの人間がデータを使う必要がある」と考え、データアンバサダーを提唱し始めた。

データアンバサダーがもたらすアナリストやデータサイエンティストとは異なる”価値”

 これまでも、データ活用に欠かせない存在としてデータアナリストやデータサイエンティストというポジションは重要視されてきた。一方で、彼らが使うデータの専門用語などは経営層やビジネス部門にとってとっつきづらく、結果的に経営層などは「やっといて」という他人任せのスタンスになりがちだった。

 このIT側と経営層やビジネス側のギャップを埋めるために、橋渡し役を務めるのがデータアンバサダーだ。データアンバサダーは、DX推進やデータドリブンなビジネス環境の実現、データ活用に向けた企業文化の醸成に責任を持つが、あくまでも「現場側」を向き、現場のベストなデータ活用の在り方をCDO(最高データ責任者)やCIO(最高情報責任者)データアナリストらと連携しながら推進することが求められる。

 「データアナリストやデータサイエンティストはIT側に属することが一般的ですが、データアンバサダーはビジネス側に属します。データは基本的にビジネス側で活用されるので、『ITアレルギー』を持つビジネス側にデータアンバサダーがいることでその壁を無くします」(川崎氏)

 データアンバサダーは組織の橋渡し役を担う重要なポジションだが、これさえあればDXが順調に進むわけではない。川崎氏は「『逆転の発想』が組織に求められています」と話す。

 これまではデータアナリストやデータサイエンティストを中心に、IT側がデータをビジネス側に提供してそれをビジネス側が活用してきた。この場合、ビジネス側が求めているデータとずれが生じることがあり、データ活用につながらないという事態が発生していた。これからは、データアンバサダーを中心にビジネス側がビジネスとそこでのデータ活用のアウトラインを作成し、それを基にIT側がデータを作ることが求められる。

 「これまでは技術やデータが先で、BIツールなどを導入しても結果的に活用できないことが多くありました。これからは『先にビジネス、データは後』になるでしょう」(川崎氏)

データアンバサダーに求められるスキルは?

 データと聞くと”理系”というイメージを持ちがちだが、川崎氏は「データアンバサダーに求められることは『ビジネスを知っていること』です。理系、文系といった議論は必要ありません」と語る。

 IT側とも連携するため、最低限のITやデータのスキルは必要だが、特に重要なのは「コミュニケーションスキル」だ。「プロジェクトマネジメントで経験を積んできた人材は特にデータアンバサダーとの親和性が高い」と川崎氏は説明する。

 実際にドーモはデータアンバサダーのポジションを持っており、その結果として「データの全社活用」が急速に広がっているという。

 「ドーモのユーザー企業でもデータアンバサダーの採用が広がっており、全社的なデータ活用を推進している。DXのXがいかに重要かということを多くの企業が気付き始めています」(川崎氏)

データアンバサダーというポジションを確立するために

 データアンバサダーというポジションを持ちたい組織は何から取り組めばいいのだろうか。川崎氏は「最適なタイミングは常に”今”です。データを持たない企業は存在しません。まずは小さくでもいいので始めることが重要です」と解説する。

 「データアンバサダーの育成」という面について、川崎氏は「『外部から簡単に連れてくれば解決』とはなりません」と警鐘を鳴らす。データアンバサダーは自社のビジネスを深く理解することが求められるため、外部から連れてきても活躍するまでに時間を要する。

 自社でデータアンバサダーを育てる場合、アジャイルに取り組みながら推進することも可能だが、一番簡単な方法はドーモをはじめとする企業が提供している「育成プログラム」を活用することだろう。

 川崎氏は最後に「可能であれば、育成の意味も込めて専任ポジションを企業内に持つことが得策ですが、リソースの問題があれば兼務でも問題ありません。データアンバサダーとして自社を理解し橋渡し役になるのは時間がかかりますから、まずは取り組んでみて、そこからは自社に合わせてアジャイルに挑戦していくことが大切です」と話し、インタビューを終えた。

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