メインフレームが誕生60周年 クラウド時代でも廃れない納得の理由(1/2 ページ)

クラウドが台頭する昨今でも、メインフレームはさまざまな業界でなくてはならない存在だ。IBMは時代に合わせてどのようにメインフレームを進化させてきたのだろうか。

» 2024年05月13日 07時00分 公開
[Matt AshareCIO Dive]

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CIO Dive

 メインフレームは2024年4月7日(現地時間)に誕生60周年を迎えた。この“疲れ知らず”の大型コンピュータは、まだ引退の時期ではない。メインフレーム技術の終えんが間近に迫っているというのが頻繁に話題になるが、実際は異なる。

 クラウドが台頭する昨今でも、なぜメインフレームはなくてはならない存在なのか。世の中での利用状況やシステムベンダーの動向、アナリストの見解を基に解説する。

クラウド時代でも欠かせないメインフレームの存在

 クラウドがメインフレームの支配的地位を脅かし、人材不足も課題となる中でも、メインフレームは金融業界の要として存在し続ける。世界中の銀行における1億5000万件以上のクレジットカード取り引きの大部分をメインフレームが処理している(注1)。

 ITインフラサービスプロバイダー、Kyndrylのペトラ・グード氏(コアエンタープライズおよび「zCloud」担当グローバル部門リーダー)は、「電車や飛行機の予約、クレジットカード決済など、メインフレームを使用しないことは難しい」と言う。

 2021年にIBMから分離独立したKyndrylは、およそ7500人のメインフレームの専門家を雇用していると同氏は話す。スキル不足を補うため、同社は毎年100人の新卒者をチームに加えている。

 メインフレーム技術の終えんが間近に迫っているという報道が定期的にされるが、これはかなりの誇張が入っているだろう。

 IBMのティナ・タルキニオ氏(「IBM Z」および「IBM LinuxONE」製品管理担当バイスプレジデント)によると、「銀行の上位100行の4分の3以上がメインフレームを利用しており、「IBM zSystems」は世界全体の取り引きの約70%を占めている」と言う。

 この技術は銀行以外にも広がっていることが、調査企業Forrester Researchのレポート「The State Of Mainframes, Global, 2024」で明らかになった(注2)。

 2023年、企業のメインフレーム予算が他のインフラ支出と同様に増加する中、ハードウェアの意思決定者の3分の2近くがメインフレームを重視していた。メインフレームの利用率は、ビジネスサービスや運輸、建設、製造業において若干高かったとForrester Researchは述べた。

 同社のブレント・エリス氏(シニアアナリスト)は、「優れた技術はなくならず、その技術を必要とするニッチな市場で使われる。長い間利用されてきたインフラでは、大規模で一体化したワークロードのため、メインフレームなどの仕組みが存在する」と述べ、金融プロセスの変化を指摘しながらも、銀行業務の本質は変わっていないと補足した。

 「私たちはもう小切手を書くことはなく、月曜日から金曜日の9〜17時までしか銀行業務しないわけでもない。しかし、金融の取り引きという行為そのものの考え方は変わっていない」(エリス氏)

AI時代を見据えたIBMの次なる戦略とは

 1964年4月7日、IBMは1台のアーキテクチャの下に複数のコンピュータを統合したプラットフォーム「System/360」を発表し、初めて商業的に利用可能なメインフレームを販売した。

 主な革新のポイントはソフトウェアの「移植性」だ。あるマシンで書かれたコードは他のどのマシンでも実行でき、シリーズ最新の製品であるの「IBM z16」に至るまで途切れることのない技術継承を確立した。

 ソフトウェア企業Zetalyのヴィンセント・アロー氏(技術責任者)は「60年前に実行されたプログラムは、何も変更せずに現在も実行できる。当社では数十年前に作られたメインフレームから技術データを抽出しており、今でも使用可能だ」と話す。

 「COBOL」のレガシーコードは変わらないが、それが入っているコンテナは大幅に進化した。現在のマシンはSystem/360の製品群とはほとんど似ても似つかないものになった。

 「これは60年前に作られたものと同じコンテナではない。COBOLはアプリケーションの観点からは素晴らしい成功を収めたが、COBOLアプリケーションを実行する基礎となるインフラは、長年にわたって大きく変化してきた」(エリス氏)

 IBMはIBM zSystemsのハードウェアを改良するたびに洗練させ、より速くより強力にした。最新のメインフレームはクラウドサーバの類似品とより密接に連携できる。2022年にリリースされたIBM z16では、「以下の2つの機能のアップグレードを優先した」とタルキニオ氏は言う(注3)。

  • AIに最適化されたプロセッサとモデル展開アーキテクチャの組み込み
  • 業界初の量子安全暗号システムの導入

 「Amazon、Microsoft、Googleのデータセンターをじっくり見てみると、モダナイズされたメインフレームシステムと大差がない」と世界初のクラウドコンピュータを開発したOxide Computerのスティーブ・タック氏(共同設立者兼CEO)は言う。

 Oxide Computerは2019年、現代のメインフレームに類似したプライベートクラウドを発表した。「当社は最新のコンピューティングをオンプレミスで提供する方法において、そのような進化したメインフレームの思想から逃げたくない」とタック氏は認めた。

 IBMの戦略はクラウドとメインフレーム間の相互運用性、つまり同社が生成AIにまで拡張したハイブリッドアプローチにしっかりと沿ったものである(注4)。

 IBM zSystemsシリーズのアップデートは3回予定されており、これは10年分のハードウェアのアップグレードに相当するとエリス氏は述べた。ソフトウェアベンダーは2050年までアップデートを提供する予定だという。

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