ネタ勝負? 北米でウケる「コンセプト飲食店」に見る売り方Restaurant Dive

日本ではおなじみのコンセプト重視の飲食店。このノリは日本のみかと思いきや、アラバマ州やネバダ州でもネタ重視のチェーン店がビジネスを拡大しているらしい。決め手は従来とは違う客層を取り込む仕掛けにあるようだ。

» 2023年06月09日 08時00分 公開
[Julie LittmanRestaurant Dive]

この記事は会員限定です。会員登録すると全てご覧いただけます。

 米国で常識を覆す「脳が受け入れられない」コンセプトを持つレストランチェーンが注目を集めているようだ。コンセプトだけでなく、メニュー開発や従業員教育などの環境にもモダンな仕組みを取り入れている。

 Rock N’ Roll Sushiの創業者であるランス・ホールマーク氏は、後に妻となる女性ジェリー・マッハ・ホールマーク氏と出会うまで、寿司を食べたことがなかったという。ところが2000年代にミシシッピ州ビロキシにあった「Hard Rock Casino」で一緒に働いているうちに変化が起こった。

 ジェリー氏がランス氏に寿司を教えて以来、ランス氏は寿司を愛し続けている。2010年、夫婦はアラバマ州モービルにRock N’ Roll Sushiの1号店をオープンした。

 同社のCEO(最高経営責任者)であるクリス・クラモリス氏はこう語る。「このコンセプトは有機的に成長し、2014年には5店舗に事業を拡大した。その年のうちにフランチャイズ化を進めた」。クラモリス氏は、ホールマーク夫妻が寿司を親しみやすいものにしようと努力したことが、このチェーンの成功につながったのだと語っている。

「親しみやすいもの」として考案されたRock N’ Roll Sushi。そのWebサイトのビジュアルもインパクトがある(出典:Rock N’ Roll SushiのWebサイト)

今までになかった店内コンセプトと参入しやすい出店環境

 「ロックンロールの雰囲気が、Rock N’ Roll Sushiを他の寿司屋とは違うユニークなものにしている。帽子や短パンで来てもいい。われわれは高級な寿司屋ではない。レストランに入った客を迎えるのは、誰もが知る古典から現代までの多様な世代のロック音楽のミュージックビデオを流すモニターだ」と、クラモリス氏は言う。

 「音楽は私たちがやっていること、そしてコンセプトの親しみやすさの大部分を占めている。だからわれわれは音楽に力を入れている」と同氏は話している。

 「Opening Acts」「Classics」「Green Room」「Headliners」「Raw Tracks」「Kids Rock」「After Party」の7つのセクションに分かれたメニューを持つ同店では(注2)、揚げたり焼いたりといった調理によってアメリカナイズされた寿司を提供している。また、「Metalhead Roll」や「Pyro Roll」、「Thriller」など、ロックンロールの雰囲気を強調した名前がメニューに付けられている。さらに「Hibachi Backstage」というメニューもあり、注文を受けてから裏方で焼く鉄板焼きを提供していると同氏は話す。

Hibachi Backstageのメニュー(出典:Rock N’ Roll SushiのWebサイト)

スムージーカフェのフランチャイジーの「脳が受け入れられない」コンセプト

 クラモリス氏が初めてこのコンセプトを聞いた時、その成功を理解するのに苦労したそうだ。同氏は14年間、「Tropical Smoothie Cafe」のエリアデベロッパーとマルチユニットフランチャイジーだったが(注3)、2017年に同ブランドを離れている。

 「アラバマ州にある友人の寿司屋の人気が爆発していると聞き、私の脳はすぐにはその事実を受け入れられなかった。信じられない、といった感じだろうか」と同氏は言う。

 地元の家族連れや肉体労働者など、「寿司になじみのなかった層を取り込んだことがこのコンセプトの人気の一端を担っている」と同氏は語る。

 クラモリス氏はもともと2019年にフランチャイジーになるために契約し、アーカンソー州リトルロックに1号店をオープンし(注4)、その後同市場に2号店を、フロリダ州タラハシーに3号店をオープンした。2020年、Tropical Smoothie Cafeの創業者であるエリック・ジェンリッチ氏が同社の支配権を買い取ったため(注5)、彼はRock N’ Roll SushiのCEOとなった。2人は長年の友人であったため、クラモリス氏はジェンリッヒ氏にこの寿司ブランドを紹介した。2人は信頼できる仲間を複数店舗のフランチャイジーとして採用し、こうしてRock N’ Roll Sushiは大規模な契約を獲得した。

「寿司飯シート」と5週間の研修で寿司職人を量産、デリバリー事業者対応の店舗設計にも留意

 また、経験の浅いスタッフが寿司を握るのを助ける機材も使用している。例えば、寿司飯をシート状に生成する機材を使っている。これは完璧なシート状の寿司飯を作るので、スタッフはシートの中に具を巻き込むだけでいい。

 この戦略が功を奏し、同ブランドは9つの州で62店舗を展開するまでに成長。さらに多くの店舗を出店中だという。現在、南東部の市場に加え、ラスベガス、コロラド州コロラドスプリングス、フェニックスでも開拓中だ。

 理想的な不動産は1600〜2400平方フィートで、Rock N’ Roll Sushiの平均的な店舗の大きさでもある。店舗の90%はストリップモール内にある。「売上の約30〜40%は店舗外での販売(デリバリーサービスなど)によるものだ」とクラモリス氏は言う。同社は、配達員が注文を受け取るためにレストランに入る必要がないように、店舗の前に受け取り用の窓を設置する試みを行っている。アーカンソー州コンウェイの店舗でこの窓のデザインをテストしており、コロラド州コロラドスプリングスの店舗でも導入する予定だという。

 新規フランチャイズ加盟の際、オペレーターはフロリダ州デスティンの本社で1週間にわたる徹底したトレーニングを受ける。その後、認定トレーニング店で4週間のトレーニングを受け、寿司の作り方を学ぶ。「開店までの1週間と開店してからの1週間、フランチャイズ店のトレーニングをサポートしている」と同氏は話す。

5年で250店舗を目指す開発計画

 「Rock N' Roll Sushiは、5年後に250店舗を目指している」とクラモリス氏は述べる。同社はフェニックスに進出してアリゾナ州で事業の成長を続ける計画だ。また、2023年初めにアリゾナ州ツーソンで契約を結び、ネバダ州とコロラド州でもさらに店舗を拡大したいと考えている。ナッシュビルやヒューストンに3店舗を構えるテキサスなど、南東部で事業を拡大する予定だ。

 クラモリス氏は「テキサス州は大きな市場になる」と予想している。同社はフロリダ州にも店舗を構えており、パンハンドルで9店舗の開発契約を結んでいる。また、フロリダ州中央部と南西部でも35店舗の開発契約を結び、最初の店舗は2023年にタンパとネープルズでオープンする予定だ。さらに、ウェストパームビーチからデイトナビーチ、オーランドにかけての都市にもオープンする予定がある。長期的には、さらに北と東に移動し、シャーロット、ノースカロライナ、バージニアなどの地域にも出店することを目標としている。

 クラモリス氏によると、同社がフランチャイズ展開のターゲットとしているのは、アジアンブランドを利用して実績を拡大できる、経験豊富な多店舗展開のオペレーターだ。逆に小規模な市場でRock N' Roll Sushiの店舗をオープンする場合は1店舗経営の経営者を求めている。例えば、ケンタッキー州のオーエンズボロでは、1店舗で出店している業者と共同で出店を進めている。しかし、ダラスのような大きな市場では、1店舗では大都市に影響を与えないため、最低でも5店舗は必要だと考えているという。

(注1)本稿は『Restaurant Dive』のフランチャイズ特集「Franchise spotlight: How various brands are accelerating growth」の一環で掲載されたものです。
(注2)MENU(Rock N' Roll Sushi)
(注3)Chris Kramolis(Linkedin)
(注4)Rock n Roll Sushi CEO Chris Kramolis credits franchisees with chain’s success in 2020(Nation's Restaurant News)
(注5)Rock n Roll Sushi CEO Chris Kramolis credits franchisees with chain’s success in 2020(Nation's Restaurant News)

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ