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先日、料理研究家でYouTuberのリュウジ氏は、運営しているWebサイトのURLを投稿したところ、そのページが何らかの不正なアクセスでリダイレクトされたと報告しました。ランディングページには著名なCMS「WordPress」を使用していたそうで、これを機に別のCMSへと移行するという対策を講じたようです。
こちら原因がわかりまして、LPに使用していたWordPressに外部からハックされ、違法なサイトに飛ぶようになっていたようです
対策として今後はWordPressは使用せずにセキュリティの高いbaseのページを使用します。
(リュウジ氏のTweetより)
筆者はこのツイートを見て、リュウジ氏の対応を理解できるとともに、WordPressについてある種の誤解が広まっていると感じました。
現在、大企業はもちろん、中堅・中小企業も自社のWebサイトを持っていますし、ECサイトがビジネスの中心にあるという企業も多いはずです。それらのWebサイトがサイバー攻撃を受ける可能性は決して低くはありません。自社のWebサイトがサイバー攻撃を受けたことが明らかになれば、ユーザーからは「その程度のセキュリティ意識なんだ」と思われてしまいます。「ブランド」が毀損(きそん)されるリスクを真剣に危惧している経営層も、ぜひCMSの現状を把握しておいてほしいです。
まず正確に理解してほしいと思うのは、CMSの代表格であり全世界のWebサイトの40%程度で利用されているWordPressのプログラムそのものは、正しい運用をしていれば突出して脆弱(ぜいじゃく)ではない、ということです。
最近は、WordPressのコアプログラムにゼロデイ脆弱性が見つかったという話も聞きません。米国土安全保障省サイバーセキュリティ・インフラストラクチャセキュリティ庁(CISA)が公開している「Known Exploited Vulnerabilities Catalog」(既知の悪用された脆弱性カタログ)でWordPressに含まれている脆弱性を検索してみても、CVE-2020-25213、CVE-2020-11738、CVE-2019-9978の3件しか表示されません。そのため、WordPressを正しくアップデートして運用すれば、コア部分で侵入を許すことはまれなのではないかと思います。
しかしWordPressは冒頭のようにしっかりと検知できた事例だけでなく、多くの組織で侵入や改ざんを許してしまうインシデントが後を絶ちません。それは「プラグイン」という仕組みに問題があります。先に触れた3件も、実際にはコア部分における脆弱性ではなく「File Manager Plugin」、「Snap Creek Duplicator」、「Social Warfare Plugin」というプラグインに起因したものです。
WordPressの利点はプラグインの導入によるCMSの拡張性にある点も事実ですが、プラグインのセキュリティ品質については保証されておらず、制作者頼みになっているのが実情です。ここには「ソフトウェアサプライチェーンリスク」もつきまとっており、多くの利用者がいるプラグインにある日を境にして不正コードが混入し、悪意ある行動を実行する可能性もあります。
つまり、WordPressそのものが危険というわけでも、脆弱というわけでもなく、運用次第でその脆弱さは変わってくるのです。例えば不必要なプラグインを大量にインストールし有効化していたとすると、そのCMSは脆弱に近づいていく可能性が高いでしょう。
そのため、WordPressをはじめとする拡張可能なCMSを運用している場合、自社のWebサイトがサイバー攻撃を受けたり、サイバー攻撃の踏み台になったりする可能性があるかどうかを、いま一度入念にチェックしてほしいと思います。
多くの組織は、外部にこれらの業務をほぼ丸投げしているのが実態ではないかと推察されますが、WordPressを運用しているなら、CMSのアップデートが適切に実施されているかどうか、プラグインのアップデートや脆弱性情報の収集を実施しているかどうか、そもそも外部委託先との契約にセキュリティが考慮された取り決めがなされているかどうかなどは確認しておいた方がいいでしょう。
リュウジ氏の件に話を戻すと、今回、WordPressから別のCMSに移行するという判断がSNSで多少議論を呼んでいました。ただ、筆者はこれはこれで正しい判断をしたと思っています。
SaaSならば、一定のセキュリティ対策が講じられており、かつサーバ運用も任せられるので、本業のビジネスに注力できるはずです。皆さんももしかしたら、社内に置く必要がないサービスをオンプレミスで持ち続けているかもしれません。企業規模を問わずクラウドのメリットを享受できる部分は多くなっているでしょう。
しかしそれでも全ての手間が無くなったわけではありません。サーバやCMSの管理は省けても、システム全てが消えたわけではありません。リスクはシフトし「管理者を管理する」部分のリスクを見ていかなければなりません。つまり「ID管理」です。
WordPressの運用を含めオンプレミスやSaaSでも同様ですが、いくらCMS部分、サーバ部分のアップデートを強化し、既知の脆弱性を塞いだとしても、管理者のパスワードが弱く、推測可能なものであったなら意味がありません。SaaS運用の場合、パスワードをしっかりと管理する必要があります。多くの場合は二要素認証など、パスワードだけに頼らない認証の仕組みを持っているはずです。必ず、ID管理を厳格化し、多要素認証などを活用してリスクを低減することを忘れないようにしてください。
見知らぬ会社を調べるときは、まずその会社のWebサイトにある情報を調べるのが鉄則です。その意味では自社のWebサイトは自社の“顔”であり、CMSはそれを作り出す非常に重要なプログラムといえます。それをないがしろにしてしまい、Webサイトの改ざんを許してしまえば、SNSでマイナスの話題が広まる可能性があります。もしかしたらそれを見て「この会社はセキュリティが弱い」と判断されて“標的型”攻撃が仕掛けられる恐れもあります。小さな企業だから狙われないのではなく、落ち度があれば格好の標的になってしまうでしょう。
もちろん、会社案内程度であればサーバを立ててCMSを利用するのではなく、レンタルサーバ事業者と契約して静的なHTMLファイルを置くというだけでも問題はないはずです。CMSを見直すとともに、サイバー攻撃の対象となり得るリスクを含むCMSが本当に必要なのかどうかも改めてチェックしておきましょう。必要であれば、現在のサイバー攻撃を想定した対応ができるよう、契約やソリューションを見直してください。
特にECサイトを運営している場合、これらのことは必須であり急務です。既にサイバー攻撃を受けている前提で動き、ビジネスを止めないように対処を進めてください。そして引き続き、自社が利用しているCMSやプラグインの脆弱性情報をチェックし、それがどこで動いているかを把握しておきましょう。
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