ERP業界にもローコード/ノーコード開発環境の波が押し寄せている。だが、市場リサーチャーはこれを「魔法のつえ」ではない、と指摘する。なぜだろうか。
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ERPベンダーは近年、いわゆるローコード/ノーコード開発ツールを大々的に開発している。ERP市場のローコード/ノーコード開発に参入する主要なERPベンダーといえばInforやMicrosoft、Oracle、Workdayだろう。
ここに、最近新たにSAPが鳴り物入りで「SAP Build」を投入した。
ERP大手各社は自社のローコード/ノーコード開発製品を、ビジネスユーザーのプログラミングを民主化し、開発エンジニア不足に対応してアプリケーションをより効率的に作成する多用途ツールとして宣伝しているが、実際はどうなのだろうか。
ローコード/ノーコード開発に対してSAPが掲げる目標は実現不可能なほど矛盾しているように思えるが、もしかしたらSAP Buildのようなツールは実際にプロコーダーのスキルを向上させながら、ビジネスユーザーによるソフトウェアの設計と導入を実現するかもしれない。
これらのローコード/ノーコード開発プラットフォームを実際に使用するのは誰なのだろうか。また、ERPベンダーはなぜこれを積極的に導入しようとするのだろうか。
このトレンドの背後にあるものを知るために、調査会社Constellation Researchのバイスプレジデント兼主任アナリストであるホルガー・ミュラー氏に話を聞いた。ミュラー氏は、もともとSAPとOracleでソフトウェア開発に従事していた人物で、2022年度のローコード/ノーコード開発ツール市場調査を担当している。
ミュラー氏によると、ローコード/ノーコード開発ツールの台頭は「テクノロジーが急速に変化し、個々の企業が望むことを正確に実行できなくなったことへの反応だ」。従来の開発方法ではプロのコーダーが既存のビジネスプロセスをカスタマイズして実装してきた。
「いま、私たちはビジネスにおける現状のベストプラクティスが要求する以上のことをテクノロジーで実現可能な段階に直面している」と同氏は述べた。今日の安価なネットワークとストレージ、ユビキタスなスマートフォン、そしてクラウドといった、彼の言うところの「無限のコンピューティング」リソースで何が実現できるのかについて、ベストプラクティスは見つかっていない。
「全てのプロコーダーが企業が望む全てのものを構築できるわけではない。ビジネスユーザーが自身の自動化に責任を持てるようにすべきだ」とミュラー氏は語った。
これらの新しく「表面上は」ユーザーフレンドリーなプログラミングツールは、顧客やパートナーがシステムを統合および拡張し、スタンドアロンアプリケーションを構築できるようにSaaS ERPベンダーが提供するエンタープライズアプリケーションプラットフォームの一部だ。「Oracle Visual Builder」「Infor OS」「Microsoft Dynamics」「Oracle NetSuite」「Salesforce」「Unit4」「Workday」のアプリケーションプラットフォームと同様に、SAP Buildを含む「SAP Business Technology Platform」も、そうしたツールの1つといえる。
「プロコーダーがローコード/ノーコード開発プラットフォームに取って代わられるのではないか」「ビジネスユーザーが拡張性がなかったり、正しく動作しないソフトウェアを開発したりするのではないか」という当初の懸念は軽減されている。ミュラー氏は「現在は多くのプロコーダーがローコード/ノーコード開発ツールを使っている。ローコード/ノーコード開発ツールの方が開発が速いからだ」と語る。
ユーザーのサインインなどの基本的な処理の実装はローコード/ノーコード開発ツールが担う。「プロコーダーにとって、これは生産性の大幅な向上を意味する」ERPベンダーも社内でこのツールを使用し始めている。
ミュラー氏は、全体として安全でスケーラブルなアプリケーション構築可能なこのような傾向は好ましいとし、「特に敬遠すべき点はないものの、ツールには幾つかの制限がある」と指摘した。
「私ならこのツールを生産計画のエンジンを実装しないし、給与計算システムも構築しない。プロの開発に任せる」
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