生成AIでさらに「進化」 単なるチャットツールから脱却したビジネスチャットの“裏側”に迫るアナリストの“ちょっと寄り道” 調査データの裏側を覗こう(1/2 ページ)

すっかり仕事に欠かせない存在となったビジネスチャットツール。シンプルなチャット機能という従来の姿から機能拡張によって「進化」を遂げたビジネスチャットツールは、生成AIの組み込みによってどう変わるのか。その“裏側”をみてみよう。

» 2023年10月27日 08時00分 公開
[山口泰裕矢野経済研究所]

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この連載について

 読者の皆さんは日々さまざまな記事を読む中で「〇年には△億円に拡大する」といった市場規模推移予測データを日々目にしているだろう。文字数が限られるニュースリリースでは予測の背景や市場を構成するプレーヤーの具体的な動きにまで言及するのは難しい。

 本連載では調査データの“裏側”に回り込み、調査対象の「実際のところ」をのぞいてみたい。ちょっと“寄り道”をすることで、調査対象を取り巻く環境への理解がより深まるはずだ。

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 連載第4回は、読者の皆さんにおなじみのビジネスチャットを取り上げる。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大による行動制限がビジネスチャットの導入に大きな影響を及ぼしたことは論をまたない。在宅勤務から出社に回帰したり在宅と出社を組み合わせるハイブリッドワークに移行したりと働き方が多様化する中で、ビジネスチャットは単なるチャットツールではなく、プラットフォームに近い位置付けを獲得しつつある。

歩き出す前に:「進化」するビジネスチャットツール

 ビジネスチャットについて、筆者が勤務する矢野経済研究所では「企業の業務シーンにおけるコミュニケーションを目的に据え、主たる機能としてチャットを有するツール」と定義している。冒頭で触れたようにビジネスチャットの位置付けが変わってきている点は後で詳しく述べる。

 ビジネスチャットを語る上でやはりコロナ禍は外せない。ビジネスチャットの広がりについて、ここ3〜4年の動きを簡単に振り返っておこう。

コロナ禍での急伸は「需要の先取り」か

 コロナ禍の猛威によって多い地域では4回にわたる緊急事態宣言が実施されたことで、多くの企業はオフィスワーカーを中心に在宅勤務に移行した。総務省の「通信利用動向調査」を見ると、2020年にテレワーク導入率が急増している。それに伴い、談笑を含む対面コミュニケーションから一転し、電子メールがやりとりの中心になった。しかし、電子メールでは対面でできていた気軽な相談やディスカッションが煩雑に感じられ、即時性にも欠けることからコミュニケーションに課題が生じた。多くの方が対面の良さを実感したことだろう。

 そこで多くの企業が対面に近いコミュニケーション環境を構築しようと、ビジネスチャットをわれ先に導入する事態となった。ビジネスチャットは通知機能や既読表示があるため、電子メールと比較するとタイムラグが少なく、リアルタイムでやりとりしやすい。また、音声通話機能やビデオ通話機能も盛り込まれている。容量に制限があるもののファイル共有機能も兼ね備えるなど、テレワークでも支障なく業務を進める環境を整えられる。

 なお、「オフィスワーカーを中心に」とただし書きを付けたように、建設や介護など現場を抱える事業者は在宅勤務への移行が難しく、働き方改革は限定的だった。しかし、後述するように現場でもビジネスチャットの導入は進みつつある。

図1 テレワーク導入率の推移(出典:総務省「通信利用動向調査」を基に矢野経済研究所作成) 図1 テレワーク導入率の推移(出典:総務省「通信利用動向調査」を基に矢野経済研究所作成)

 ビジネスチャットの市場規模推移(事業者売上高ベース)を見ると、2019年度は120億円だった。2020年から2021年にかけてコロナ禍で導入が進んだ結果、2020年度には前年度比163.3%の195億9200万円、2021年度は254億9200万円と大幅に伸長した。こうした動きについて事業者からは「需要の先取り」とみる向きが大半だ。

 2022年はコロナ禍の長期化に伴い、ビジネスチャットツールの導入が堅調に進んだものの、同年後半からは出社中心に働き方に戻す企業が出てきた。2023年はCOVID-19の感染法上の分類が同年5月8日に5類に引き下げられたことを受けてオフィス回帰が進み、揺り戻しが一定程度発生している。加えて、先取り需要の影響で2023年度からビジネスチャットツール市場は鈍化する傾向にある。

 しかし、コロナを契機に広まったテレワークは、混雑した通勤電車からの解放や子どもの送り迎え、子どもの急な体調不良に伴う呼び出しへの対応など、ライフスタイルや状況に合わせた柔軟な働き方が可能となるメリットから新たな働き方として認識されつつあるのも確かだ。実際に企業によっては従業員のワークライフバランス向上と人材流出の防止につながるとして、テレワーク移行に伴う環境整備を進めて恒久化する動きもある。こうした点を踏まえ、ビジネスチャットツール市場は2023年度に361億5000万円、2026年は437億5000万円に達すると矢野経済研究所は予測している。

図2 ビジネスチャットツール市場規模推移・予測(出典:矢野経済研究所「ビジネスチャットツール市場に関する調査を実施(2023年)」《2023年3月》) 図2 ビジネスチャットツール市場規模推移・予測(出典:矢野経済研究所「ビジネスチャットツール市場に関する調査を実施(2023年)」《2023年3月》)
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