アクセンチュアが進める「デジタルツイン・エンタープライズ」とは何か? “ユーザー企業にとっての勘所”を探るWeekly Memo(1/2 ページ)

アクセンチュアが製造・物流企業の「デジタルツイン・エンタープライズ」の実現に向けた動きを起こした。これまでデジタル化が進んでいなかった製造・物流の領域を対象にして同社が掲げるデジタルツイン・エンタープライズとは何か。利用する企業にとっての勘所はどこにあるのか。新たな動きから探る。

» 2024年01月29日 15時15分 公開
[松岡功ITmedia]

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 「今回の合弁会社設立を機に、製造・物流企業の『デジタルツイン・エンタープライズ』の実現に向けて一層注力していきたい」

 アクセンチュア 社長の江川昌史氏は、同社が2024年1月25日に開いたMujinとの合弁会社設立の発表会見でこう意欲を示した。アクセンチュアが掲げる「デジタルツイン・エンタープライズ」とは何を意味するのか。その説明が興味深かったので、今回はこのキーワードの意味、ユーザー企業にとっての勘所を探ってみたい。

「企業活動は今後、デジタルツインがメインになる」

 まずは、製造・物流企業のデジタルツイン・エンタープライズの実現に向けた合弁会社設立について紹介しよう。

 アクセンチュアと知能ロボットコントローラを開発・販売するMujinが共同出資して設立したのは、製造・物流領域における現場のオペレーションデータと経営データをつなぎ、製造・物流企業のデータ主導型経営と自動化・省人化を推進するAccenture Alpha Automation(略称:AAA=トリプルA)。出資比率は、アクセンチュア70%、Mujin30%の割合だ。

左から、Mujin CEO 兼 共同創業者の滝野一征氏、アクセンチュア 社長の江川昌史氏

 合弁会社では、Mujinとアクセンチュアが2019年に協業を始めて以来、蓄積してきた製造・物流現場のデータやロボットをはじめとした自動化機械に関する知見と、企業変革のノウハウやデジタル技術を駆使した全社基盤の実装に向けた専門性を組み合わせ、製造・物流領域における自動化・省人化ソリューションを創出するとしている。

 両社は合弁会社で創出されたソリューションを活用し、顧客企業の製造・物流現場のオペレーションデータと、全社のサプライチェーン状況や財務、マーケット情報、経営管理データなど、従来断絶されていたデータやプロセスを統合し、データ主導型経営の実現を支援する構えだ。

 Mujinは知能ロボットコントローラ「Mujinコントローラ」を独自開発し、産業現場における自動化ソリューションを提供しているベンチャー企業だ。従来、産業用ロボットは動作設定や周辺機器を含めたインテグレーションが複雑なため、限られた人によって限られた用途で使用されていた。この課題を解決するため、自動化機械を統合制御するMujinコントローラを開発し、事前の複雑な設定のない、ロボットシステムの構築を可能とした。今ではMujinコントローラをベースとした生産ライン全体の統合制御・データの可視化・リモート運用を可能とする自動化プラットフォームを提供し、次世代型工場や倉庫の構築の実現に力を入れている。

 今回の合弁会社設立に際し、江川氏は「先端のロボット技術を有するMujinと当社がタッグを組むことで、製造・物流バリューチェーンのあらゆるデータをつなげることが可能になる。AIやロボット技術の可能性を最大限引き出し、日本を支える製造・物流業界のデータ主導型変革に向けてより一層貢献していきたい」とコメントした。Mujin CEO 兼 共同創業者の滝野一征氏も「当社のロボット自動化技術が製造・物流業界のパラダイムシフトを引き起こし、さらにはアクセンチュアを通して、日本、そして世界の幅広い業界のお客さまに新しい価値を提供したい」と期待を寄せた。

 以上が、合弁会社設立についての発表の概要だ。今回の動きによって合弁事業が目指す世界として、江川氏が会見で強調したのがデジタルツイン・エンタープライズだ。

 同氏は図1を示しながら、「企業の活動は今後、全てがデジタル化されてデータによって見えるようになり、デジタルツイン・エンタープライズが形成されていく。実際に、営業もマーケティングも経理もデジタル化が進んでいる。デジタル化されていない領域として残っているのが、現実世界の製造・物流の領域だ。OT(制御技術)と呼ばれるこの領域は、当社が手掛けているITとは少し違うので、OTに強みを持つプレーヤーと組むことにした。これにより、全ての領域をカバーしたデジタルツイン・エンタープライズが実現できるようになる」と説明した。

図1 デジタルツイン・エンタープライズの概要(出典:アクセンチュアとMujinの会見資料)

 このコメントはすなわち、「企業活動は今後、現実世界でなくデジタルツインがメインになる」ことを述べたものだ。まさしく企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)のあるべき姿を示しているといえるだろう。

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