「AIに魅了され過ぎは危険」 サプライチェーンの専門家が注意を促すワケ

AIは企業のサプライチェーンに導入されつつあるが、企業は過剰な期待に注意し、これらのアプリケーションのビジネスにおける価値と実現可能性を評価すべきだという。

» 2024年05月30日 07時00分 公開
[Jim O'DonnellTechTarget]

この記事は会員限定です。会員登録すると全てご覧いただけます。

 AIの導入は、サプライチェーンテクノロジーの重要なトレンドとなっているが、企業は過剰な期待に注意し、ビジネスにおける価値と実現可能性を評価すべきだという。

 サプライチェーンの専門家は「光り輝くものに魅了され過ぎてしまうことを懸念している」と意を促した。その意味とは。

サプライチェーンにおいてAIは最重要トレンド

 Gartnerの最新レポートにおいて、サプライチェーン領域での生成AIを含むAIの活用は非常に重要な位置を占めた。この年次報告書は、複数のアナリストによる調査を統合し、サプライチェーンにおける技術戦略や選定を担うリーダーに向けてアドバイスを示した。

  Gartnerがサプライチェーンのパフォーマンス向上につながるビジネスの問題を解決するため「複数のAI技術を組み合わせて適用すること」と定義する「コンポジットAI」(複合AI)は、サプライチェーンのトレンドの一例だ。レポートによれば、コンポジットAIはサプライチェーンのパフォーマンス向上につなる可能性がある。

 サプライチェーンレポートでは、AIに基づく他のトレンドとして「AI対応ビジョンシステム」「拡張コネクテッドワークフォース」「機械中心の調達」「次世代ヒューマノイドロボット」「サイバー恐喝」「サプライチェーンデータガバナンス」「エンドツーエンドの持続可能なサプライチェーン」などが挙げられた。

 レポート著者の一人、Gartnerのドワイト・クラピッチ氏(リサーチ・バイスプレジデント)は「AIは唯一の手段ではなく、企業が問題解決のために採用できる高度な分析技術のポートフォリオであることを忘れてはならない」と述べた。

 「私たちは、最適化のためのAIに語りたいがために、物事を否定することがある。直感による判断が依然として有効な場所や、伝統的な組み合わせと最適化が特定の問題を解決するのに最適なメカニズムである場所も存在する。全ての話が生成AIを中心にされるべきではない」(クラピッチ氏)

 機械学習(ML)は予測や需要計画、労働計画などのアプリケーションに一般的に組み込まれている伝統的なAIのカテゴリーだ、とクラピッチ氏は語った。

 「一部のベンダーはアプリケーション内でMLを使用している。人々はおそらく多数のスプレッドシートを駆使して勘と経験を頼りに業務をこなしているが、このやり方が限界を迎えようとしているため、その業務をMLで代替しようと考えている」(クラピッチ氏)

 生成AIは話題だが「生成AIが得意とするのは大規模言語モデルからコンテンツを作成することで、サプライチェーンプロセスではそれほど活用されていない」とクラビッチ氏は語る。生成AIは、注文の遅延やその他の問題にフラグを立てるため、物流システムに問い合わせることができるインテリジェントなチャットbotなどのアプリケーションに使用されている。

AIを開発するか、購入するか

 クラピッチ氏は、「サプライチェーンリーダーに今問われているのは、『どの程度早い段階でAIを導入したいのか』『自社独自のアプリケーションを構築すべきか』『それともAIを組み込んだアプリケーションを購入して使用すべか』だ」と指摘する。

 「独自のものを作りたがる企業は常に存在する。一方でアプリケーションの購入を検討する企業のほとんどは、全体として最良のソリューションを提供するために、ベンダーが最新のテクノロジーを中心にアプリケーションを構築しているかどうかを知りたいと考えている」(クラピッチ氏)

 クラピッチ氏によると、サプライチェーン管理におけるAIアプリケーションの導入は、「アプリケーションの実現可能性」と「ビジネス面における価値」という軸に左右される。

 例えば、輸送管理における自律走行トラックの利用は何年も前から話題になっているが、安全性への懸念や導入コストの高さから、必ずしも実現可能とは言えない。一方、輸送管理における到着時間の予測は、実現可能性とビジネス価値の両方で高いランクにあるため、組織はすでに活用を始めている。

 「火曜日の正午までに到着するはずだったものが木曜日まで到着しないような場合、条件に基づいた機械学習を使用することで遅れを把握できる。AI対応ビジョンシステムによる損傷の検出や目視検査なども実現可能だ」(クラピッチ氏)

光り輝くものには注意が必要

 調査企業であるIDCのサイモン・エリス氏(アナリスト)は「従来のAIと生成AIの導入拡大はサプライチェーン領域におけるトレンドであり、組織はこれらのテクノロジーにまつわる過剰な期待に現実的な姿勢を持つべきだ。光り輝くものに魅了され過ぎてしまうことを懸念している」と述べた。

  それにもかかわらず「組織はサプライチェーンのためのAIに関心を持ち、導入計画を立て始めている」とエリス氏は述べた。AI導入を推進することを目的としたサプライチェーンのITソリューション調達担当者は、次の3つの質問をエリス氏に投げかける傾向にあるという。

 1つ目はデータだ。AIを効果的に活用するために、組織内のデータは十分で包括的なものなのかどうかというものだ。2つ目は、従来のサプライチェーンアプリケーションに組み込まれたユースケースを通じて、あるいはアプリケーションを構築するためのレイヤーとして、生成AIをはじめとするAIを広く捉えるべきかどうかだ。3つ目は、企業は先行者利益を得るためにアーリーアダプターになるべきか、それともAIアプリケーションのファストフォロワーやセカンドムーバーになるべきかということだ。

 「これらの質問に共通した答えはなく、答えは企業によって異なるだろう。AIは2024年を特徴付けるトレンドであるため、サプライチェーン領域におけるAIのユースケースはこれから登場するだろう。初期のユースケースのほとんどは、文書をより効率的に処理したり、ロジスティクスを把握したりといった生産性に関連したものだった。それらは、専門知識を習得するまでの時間を短縮し、人々の生産性向上を早期化し、定型的な作業に自動化やAIを適用して人々の生産性や効率性を向上させるものだった」(エリス氏)

 AIを活用したアプリケーションの急速な増加に対して人々が抱く懸念の一つは、AIに仕事を奪われるのではないかというものだ。エリス氏は、これらの懸念は誇張され過ぎていると主張した。

 「テクノロジーによって置き換えられる仕事はあるが、テクノロジーの結果として生まれる仕事はもっとたくさんある。全てが一対一ではないかもしれないが、全体としては仕事は増えるのであって、減ることはない」(エリス氏)

 より差し迫った懸念は、「人々がAIアプリケーションから最良の結果を得るためにその使い方を知る必要があること」とエリス氏は述べた。AIアプリケーションを使用するには、すぐれたクリティカルシンキングのスキルを持ってAIが提示する推奨事項が常識テストをクリアするかを見極める必要がある。例えば、AI予測アプリケーションが、10000個の商品の生産を推奨したが、前年が100個しか生産していない場合、その出力には調査が必要だ。

 「AIが誤った回答を出すのは、間違ったデータを使っていたか、物事を混同していたかのいずれかだろう。AIは限定された範囲の学習システムだ。学習に使用したデータと同じくらいしか役に立たないだろう」(エリス氏)

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アイティメディアからのお知らせ

あなたにおすすめの記事PR