なぜNHKは日本IBMを訴えたのか 2025年ランキングで浮かび上がる「レガシー刷新をめぐる根深い問題」2025年のIT業界 総まとめ(レガシーシステム問題編)

2025年の年間記事ランキングからレガシーシステムが引き起こす問題をいかに解消するかに関連するトピックを抽出。レガシーシステムの刷新案件が大型訴訟に発展した事案から浮かび上がった"失敗の構造"を起点に、SIerとユーザー企業の関係性、そしてシステムがレガシー化する根本に何があるのかを読み解きます。

» 2025年12月31日 08時00分 公開
[田中広美ITmedia]

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 2025年も「ITmedia エンタープライズ」を愛読いただき、ありがとうございました。

 年末特別企画として、2025年に公開された記事の中から読者によく読まれた記事を振り返る「2025年 年間記事ランキング」をお届けします(集計期間:2025年1月1日〜12月25日)。

 今回お届けするのは、日本企業の6割が抱えていると言われる「レガシーシステム問題」にフォーカスしたランキングです。

 経済産業省が2018年に警鐘を鳴らした「2025年の崖」の“本番”を迎えた2025年、レガシーシステムの刷新プロジェクトが大型訴訟に発展する事案が発生しました。NHKが日本IBMを相手取り、約54億円の損害賠償を求めて提訴したこの訴訟は、日本企業が抱えるレガシーシステム問題の深刻さを改めて浮き彫りにしました。

 ランキングからは、大型プロジェクトの失敗、SIerとユーザー企業の関係性、そしてシステムがレガシー化してしまう根本的な原因という3つの構造的な問題が見えてきます。

2025年ランキングトップ10

大型プロジェクト失敗の"構造"が明らかに

 2025年にレガシーシステムをめぐる問題に関する記事の中で最も注目を集めたのは、NHKと日本IBMの訴訟に関する記事でした(1位3位)。

 NHKは2022年12月、受信料関連業務を支える営業基幹システムの刷新を日本IBMに委託しましたが、プロジェクトは基本設計工程で大幅な遅延が発生しました。日本IBMが16カ月以上の納期延伸を申し入れたことで、NHKは2024年8月に同社との契約を解除し、訴訟に至りました。

 ただし、この記事を紹介するに当たって強調したいのは、訴訟に発展したこの刷新プロジェクトで起きた問題はNHK特有の事情ではなく、レガシーシステムを抱える企業の多くが同じ問題に直面する可能性があるということです。それは何でしょうか。

 1位の記事で筆者の室脇慶彦氏(SCSK顧問)は、本件の根本的な問題として「長年の利用の中で複雑に作り込まれた構造」を指摘しています。日本IBMは「提案時に取得した要求仕様書では把握できない」ほど複雑化していたと説明しており、これはまさにレガシーシステムが抱える典型的な課題です。

 室脇氏は、NHKの案件で入札に応じなかった富士通やアクセンチュアについて「現状の要求仕様では実現が困難だという認識を持っていたのでは」と推察しています。プロジェクトの難易度を正確に見積もることすら困難なほど、システムがブラックボックス化していた可能性があったということですが、これはNHK特有の問題ではないようです。

 それを裏付けるように3位の記事で、室脇氏は「制度面を改革することなく、本プロジェクトを成功させるというシナリオ自体を疑っている」と述べています。繰り返しになりますが、これは単なる個別案件の失敗ではなく、日本のITシステム開発が抱える構造的な問題の表れと言えるでしょう。

SIerとユーザー企業の「相互不信」

 ランキング上位には、SIerとユーザー企業の関係性に焦点を当てた記事も並びました(2位4位5位)。

 2位の記事で室脇氏は、SIerがITシステムの変革という「DXの本丸」に切り込まない理由を、「超巨大で複雑化、ブラックボックス化したITシステムを前に、ぼうぜんとして思考停止状態に入り、避けてきた」「巨大で強力かつ凶暴なゴジラが出現し、対応不能になった自衛隊」のような心持ち、と分析しています。

 超大型プロジェクトは難易度が極めて高く、失敗すれば大きな赤字を伴う。そのため、SIerはリスクの高いプロジェクトから逃げ、確実で安定的な案件に流れる傾向があるといいます。ITシステムを変革する必要性は重々承知していたが、取り組む姿勢を取ってこなかったというのが実態だと室脇氏は喝破しています。

 4位の記事では、SIerとユーザー企業が「相互不信」に陥る構造を解説しています。ユーザー企業にとってITシステムの開発費用は高く、開発期間は長く感じられる。一方、SIerからすると深刻なトラブルを発生させないために必要な措置だ――このギャップが不信感の温床になっているという指摘に心当たりのある読者もいるのではないでしょうか。

 5位の記事では、この相互不信の根底にある「巨大ITシステムの呪縛」に迫っています。ソフトウェアは生き物のように常に変化し、機能はどんどん増加する。まるでエレベーターのない3階建てのアパートが、30階建てのタワーマンションに変貌するようなものだと室脇氏は例えています。当初作成した設計書は、変化とともに意味のない代物になっていく――。これがシステムのブラックボックス化を招き、モダナイゼーションの難易度を押し上げているのです。

メインフレームの延命か、クラウド移行か

 ランキングの後半には、レガシーシステムへの具体的な対処法を探る記事が並びました(6位7位8位)。

 富士通は2030年度にメインフレームの販売を終了し、2035年度にサポートを終了すると発表しています。日立製作所も2017年にメインフレームの筐体製造から撤退済みです。「メインフレーム大撤退」時代を迎え、多くの企業がITシステムの見直しを迫られています。

 7位の記事では、IBMがメインフレームを主力に据え続ける理由をCEOが語り、8位の記事では、AIがメインフレームの延命を後押しする可能性を探っています。一方で注目したいのが、6位の記事で提示している「ニューオンプレミス」という新たな選択肢です。

 こうした記事群は、レガシーシステムへの対応に「唯一の正解」がないことを示唆しています。企業の状況に応じて延命や段階的移行、全面刷新など、さまざまな選択肢を検討する必要があるのです。

失敗と成功を分けるもの

 9位と10位の記事は、モダナイゼーションの失敗と成功、両方の事例を提示しています(9位10位)。

 この2つの記事が示唆するのは、モダナイゼーションの成否を分けるのは技術的な要因だけではないということです。経営層のコミットメント、明確なビジョン、そして「現行踏襲」の呪縛から脱却する覚悟が求められます。

 2025年のランキングが浮き彫りにしたのは、レガシーシステム問題が単なる技術的課題ではなく、SIerとユーザー企業の関係性、日本のIT業界の構造、そして経営の問題であるという現実です。

 IT部門がさまざまなレガシーシステムに対処するためにさまざまな選択肢からどれが自社に最適かを決断するために欠かせない情報を2026年も提供していきます。

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