15年前のシステムをモダナイズしようとしたら、3回失敗した話CIO Dive

レガシーシステムを抱える企業にとって、長年積み上げてきた技術的負債の解消は困難な道のりだ。どのベンダーと組むべきか、ベンダーに何をどこまで任せるべきか。モダナイゼーションに成功した企業の事例から浮かび上がった「3つのポイント」とは。

» 2025年07月31日 08時00分 公開
[Lindsey WilkinsonCIO Dive]

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CIO Dive

 陳腐化が進んだ技術で構築されたシステムやアプリケーションは、数多くの問題を引き起こす。技術的負債はコスト管理を妨げ(注1)、チームの生産性を低下させ、先進技術への取り組みを頓挫(とんざ)させる。

レガシー技術のモダナイゼーションを成功させるための「3つのアドバイス」

 一方、レガシー技術のアップデートにも多大な費用がかかる(注2)。iPaaS(Integration Platform as a Service)ツールを提供するSnapLogicによると、企業の約3分の2がメンテナンスやアップデートに200万ドル以上を投資している。

 大規模なモダナイゼーションは、担当者にさらなるプレッシャーを与える。大金をかけて外部事業者に任せたのに失敗したという事態を避けるために外せない「3つのポイント」とは。

 大学関係者向けの金融サービスを提供するJohns Hopkins Federal Credit Unionのステイシー・スローンCOO(最高執行責任者)は、フロリダ州オーランドでCreatioが開催したカンファレンス「NO-CODE DAYS Florida」のパネルディスカッションで「プロジェクトと適切なパートナー選びに悩んでいた」と述べ、企業の技術をアップグレードする取り組みに言及した。

 基幹システムの刷新時期が訪れたとき、CIO(最高情報責任者)をはじめとする技術リーダーはモダナイゼーションの障害を軽減し、ステークホルダーの懸念を和らげ、将来のプロジェクトを推進するために力を発揮できるはずだ。

 技術リーダーがプロジェクトの成功を確実にするための3つの方法を紹介しよう。

1. ステークホルダーを巻き込む

 技術リーダーやチームは、モダナイゼーションの目標を明確に理解する必要がある。ステークホルダーやエンドユーザーと連携することで障害を軽減し、より適切なコミュニケーションを確保できる。

 ボストン市は、住民が情報をリクエストするためのワンストップ窓口として15年前に構築された「311 system」のモダナイゼーションを3回試みたが、いずれも成功しなかった。

 ボストン市の市民基礎的サービス部門のジェイ・グリーンスパン氏(シニアディレクター)は次のように語る。

 「システムには住民が問い合わせるためのCRM(顧客関係管理)が含まれていた。そのCRMはモバイルアプリのみならず現場のチームが使用するシステムとも統合されていた。特殊なソフトウェアが混在する異種混合の環境だった」

 オンプレミスシステムのモダナイゼーションの試みは失敗に終わった。その原因は、適切なパートナーを見つけられなかったこと、反復やテストができなかったこと、スケジュールが遅延したことにある。ベンダーはシステムに関するサービスの提供を既に終えており、システムは時折故障していた。

 グリーンスパン氏は「CIO Dive」に対して「システムを刷新しようとする意欲は高かった。誰もが刷新の必要性を認識していた。物事が理想通りに進むのであれば、刷新は何年も前に実施されていたはずだ」と述べた。

 ボストン市が新しいシステムに関する提案依頼書(RFP)を提出する際、関係者は情報共有や意見の提出を求められた。

 「こうした取り組みの際、特に複雑な変更管理を伴う場合はステークホルダーを巻き込む必要がある。こうしたソフトスキルが過小評価されないように注意が必要だ」(グリーンスパン氏)

 プロジェクトの中心に技術的課題が存在する場合でも、非技術的な視点を取り入れることがプロジェクトの成否を左右する。

 「プロジェクトの成功を妨げる最も大きな要因は、構築したものが使われないという状況だ。われわれはCRMとして活用するプラットフォームの選定や、RFPのプロセスにステークホルダーを積極的に巻き込んだ」(グリーンスパン氏)

 そのプロジェクトにおいてグリーンスパン氏が支持を集める必要はなかった。しかし、時には技術リーダーがストーリーテラーとなり、ステークホルダーや取締役にビジョンを共有し、全員の認識を一致させる必要がある。

 オンライン不動産仲介サービスを提供するPurplebricksのダン・ラファティ氏(CTO《最高技術責任者》)は「システム更新が必要な状況でも経営者は不安を感じ、『現状を変えたくない』と考えるケースがある」と述べた。

 Purplebricksは効率向上と物件内覧の平均応答時間の短縮を目指し、セルフサービス機能を備えたCRMシステムを探していた。

 「多くのITプロジェクトを耳にしてきた、現実的な視点を持つ投資家たちにメリットを説明するのは難しい。われわれの場合、『Salesforce』からの巨額の請求が迫っていることが助けになった」(ラファティ氏)

 コスト増加や機能不足をはじめとする現状維持のデメリットと、モダナイゼーションのメリットをともに明確に示すことができる技術リーダーは大きな成功を収めるだろう。

2. モダナイゼーションの目標を一致させる

 レガシーシステムが機能していない場合、リーダーはバージョン2.0に進むべきだと感じるかもしれないが、それが最善の方法ではないケースもある。CIO(最高情報責任者)は、システムのアップグレードを単なる形式的な作業として捉えず、プロジェクトの成果に焦点を当てるべきだ。

 ボストン市の場合、RFPの作成が必要だった。「約8年前にレガシーシステムから移行しようとした際、関係者は数百の機能を盛り込んだRFPを作成した。しかし、そのような方法では本当に必要なものが見えてこない」(グリーンスパン氏)

 グリーンスパン氏は、実装パートナーがどのように作業を進めるか、その製品のロードマップや潜在的な柔軟性を理解する方がより有益だと指摘する。「重要なのは、アプリケーションを自分たちが所有できることだ。実装はベンダーを頼るとしても、システムを変更するたびにベンダーに連絡するような状況は避けたかった」

 コンプライアンスは時にモダナイゼーションを推進する役割を果たすが、それだけが唯一の指針となってはならない。

 大手銀行のCitigroupは、2024年に規制当局から1億3000万ドルの罰金を科された後、数十年にわたるITインフラへの投資不足に対処しなければならなかった(注3)。

 Citigroupのジェーン・フレイザーCEOは、2024年第2四半期の決算説明会で次のように述べた。「規制当局とわれわれの間で交わした法的な和解合意である同意審決をはるかに超える膨大な作業だ。これは応急処置ではなく、根本的な解決に向けてわれわれが真正面から取り組んでいることを意味する」

 Citigroupの幹部が2024年10月に述べたところによると、同行はプロセスとプラットフォームの簡素化という大きな目標に取り組む中で、2022年以降に1250を超えるアプリケーションを廃止した(注4)。

3. 勢いを維持する

 組織がレガシー技術のアップグレードによって技術基盤を強化すれば、その可能性は無限大だ。

 現在、多くの企業が生成AIやAIエージェントの統合に注力している。これには強固なデータ基盤が必要だ。食料品チェーン大手のAlbertsonsから中古自動車販売のCarMaxに至るまで、業界を問わず多くの企業が新興技術を可能にするITインフラに注力して導入への道を切り開いている。

 米軍に所属する軍人や軍属とその家族を対象に保険サービスを提供するUSAA(United Services Automobile Association)は数年前、統合されたデータ環境を目指し、その膨大なデータ資産をクリーンアップするための3年がかりの取り組みに着手した。同社は「守りの姿勢」から「攻めの姿勢」に転じた後、AIベースのソリューションや、より高度な分析機能の活用を視野に入れていた。

 ラファティ氏は、ベンダーを選定し経営陣の承認を得るという初期段階から、Purplebricksのアップグレードを将来を見据えた視点で捉えていた。ラファティ氏は、ベンダー選定前にデモを要求したことに言及し、「技術者である私は、実際にはAIではないものを一部の企業がAIと呼んでいることを知っている」と付け加えた。

 ラファティ氏は、レガシーシステムではAIの活用にはるかに多くのリソースが必要となる一方で、AIを搭載した新しいCRMシステムを利用するメリットを強調した。

 「われわれは多くのレガシーシステムを継承してきた。そして今後は“勝ち馬”に乗りたいのだ」(ラファティ氏)

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