サプライチェーンの持続可能性を高めるために、企業は戦略的な事業運営を行い、長期的な視野を持つ必要がある。そのために実践すべき6つの手法を解説する。
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原材料を調達してから製品を顧客に届ける過程で、企業は環境に負荷を与える。廃棄物が地球に与える影響は相当なものであり、環境への影響はそれだけにとどまらない。その影響を少しでも軽減するために、サプライチェーンのリーダーはより持続可能な手法を導入すべきだ。
本稿は、企業が持続可能なサプライチェーンを実現するための6つの手法を解説する。
世界的なコンサルティング企業であるEYが実施した2024年の調査「CEO Outlook Pulse」によると、世界中のCEOの54%は、持続可能性を1年前よりも重要な優先事項として捉えている。
企業の持続可能性を向上させるためにサプライチェーンリーダーが取るべき行動には、サプライチェーンの概要の作成、経営陣の賛同の確保、サプライチェーンの持続可能性に関する目標の設定、サプライチェーンの持続可能性分析に必要なデータの把握、ニアショアリングの機会の検討、従業員の参加などが挙げられる。
Loyola University Chicagoにおけるサプライチェーンマネジメントと持続可能なオペレーションの専門家のチェラグ・ピンチェ氏は、次のように述べた。
「サプライチェーンの持続可能性は、今や大きな注目を集めている。全ての企業が一般的な持続可能性と、サプライチェーンの持続可能性について考える必要がある」
より持続可能なサプライチェーンを構築するには、ステークホルダーが多方面からアプローチする必要がある。ここでは、より持続可能なサプライチェーンを実現するための6つの手法を紹介する。
サプライチェーンリーダーは、具体的な行動を起こす前に、まず企業のサプライチェーンの全体像と、それがどの程度持続可能であるかを把握する必要がある。
Miami Universityのリサ・エルラム氏(サプライチェーン管理教授)は「サプライチェーンのリーダーは持続可能性に関連する機会や問題を特定するために、まず重要性評価を完成させるべきだ」と述べた。
エルラム氏は「規制要件や利害関係者の要求、業務上のリスクの全てがサプライチェーンの持続可能性における問題につながる可能性がある」とも述べている。
例えば、消費者はプラスチック製であることを理由にその企業の製品の購入を控える場合がある。多くの消費者はプラスチックの使用を減らそうとしているためだ。
サプライチェーンの持続可能性を向上させるためには、サプライチェーン全体の運営を明確に把握することも重要である。
調査企業であるGartnerのリンゼイ・アジム氏(人材および持続可能性を担当するチームのディレクター・アナリスト)は「サプライチェーンリーダーは、自社のサプライチェーンの全プロセスを確実に理解すべきだ」と述べた。サプライチェーンのマッピングとは、材料や情報、資金の流れを文書化する作業であり、リーダーの洞察力を高めるのに役立つ。
サプライチェーンリーダーは、他者の支援なしにサプライチェーンの持続可能性への取り組みを成功させることはできない。経営幹部の賛同も必要だ。
マイアミを拠点とするビジネスコンサルティング企業のThe Hackett Groupのクリス・ソーチャック氏(グローバル調達アドバイザリー・プラクティスリーダー)は「持続可能性は、企業が重要と判断したものでなければならない。これは企業の目標であり、サプライチェーンマネジメントにおいて、持続可能性が企業の他の優先事項とどのように関連するかを理解していなければならない」と述べた。
ソーチャック氏によると、持続可能性への取り組みに対する経営幹部の賛同は、サプライチェーンリーダーが持続可能性の問題を調査し、対処するために必要なリソースの確保につながり、必要な変更の実施に役立つという。
サプライチェーンの持続可能性に関する目標を設定することで、取り組みを集中させ、リーダーによる具体的な行動が可能となる。
エルラム氏は「リーダーは、サプライチェーンの持続可能性に関する目標を設定し、サプライチェーンに関する取り組みを担当する部門がその目標に向かって努力できるようにしなければならない」と述べた。
サプライヤーにおける持続可能性の実践を改善することは、企業自身のサプライチェーンの持続可能性を改善するために不可欠な要素だ。そのため、サプライチェーンのリーダーは、企業のサプライヤーとも協力して、持続可能性に関する具体的な目標を設定すべきだ。
エルラム氏によると、リーダーは、例えばサプライヤーに対して排出削減を求めるなど、明確で実現可能な目標から着手すべきだという。その後、排出に関する情報を収集し報告するようサプライヤーに求めるなど、より複雑で野心的な目標を追加する。
一方、エルラム氏は「サプライチェーンリーダーは、自社がまだ持続可能性を向上させていない場合、サプライヤーにその記録を改善するよう求めてはいけない」とも述べている。
「自分たちから行動を起こさなければならない。なぜならば、サプライヤーは偽善をすぐに見抜いてしまうためだ」(エルラム氏)
新しいサプライヤーも企業の持続可能性の要件を満たす必要がある。アジム氏によると、サプライチェーンリーダーは、サプライヤーの選定基準に環境への影響やその他の持続可能性への配慮を加えるべきだという。
適切なデータがあれば、サプライチェーンの持続可能性に関する目標を企業が達成しているかどうかを把握できる。
ソーチャック氏によると、サプライチェーンのリーダーはサプライチェーンの持続可能性を測定するために必要なデータを特定し、必要に応じてそのデータを収集するためのツールとプロセスを実装する必要がある。また、サプライヤーと連携して、関連するデータを特定し収集する必要もある。
一般に公開されている持続可能性に関するガイドラインは、リーダーが何を測定すべきかを決定するのに役立つだけでなく、持続可能なビジネス慣行について学ぶためにも役立つ。
エルラム氏によると、サプライチェーンの専門家は、自社のビジネス慣行をより持続可能なものにする際、確立された慣行や標準に従うべきだという。
サプライチェーンのリーダーがよく知っている企業は、すでに持続可能性に関するガイダンスを発表している。
ニューヨークに拠点を置くビジネスコンサルタント会社ジェンパクトのグローバルサプライチェーン持続可能性リーダー、デボラ・ダル氏は、サプライチェーンマネジメント協会などの業界団体が、持続可能なサプライチェーンを定義し、推進するための枠組み、スコアカード、その他のツールを作成していると述べている。
人気の高いサプライチェーンの持続可能性戦略の一つに、サプライヤーやメーカー、顧客間の距離を短縮するニアショアアウトソーシングがある。サプライチェーンのリーダーは、持続可能性計画にニアショアリングを含めることを検討できる。
サプライチェーンが短くなると、企業は資材をそれほど遠くまで輸送する必要がなくなるため、持続可能性が向上するとダル氏は述べている。
この戦略は出張の減少により会社のコストも削減し、多方面でメリットをdもたらすとはダル氏は述べている。
持続可能性は、特定のリーダーだけの管轄範囲であってはならない。企業はより持続可能な慣行を生み出す責任をの全て従業員の仕事に組み込む必要があるとアジム氏は述べている。従業員は持続可能性を向上させる機会を特定し、そのアイデアを共有することが職務内容の一部であることを認識する必要がある。
企業は従業員の努力を評価し、良い結果をもたらすアイデアに対して報酬を与えるべきだとアジム氏は述べている。
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