サプライチェーンでブロックチェーンを利用する4つのメリットと使用例

ブロックチェーンは業務のさまざまな側面を改善するのに役立つが、技術の使用には課題もある。サプライチェーンにブロックチェーンを利用するメリットや具体的な使用例、幾つかの課題について詳しく紹介しよう。

» 2024年08月28日 07時00分 公開
[Pam BakerTechTarget]

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 ブロックチェーンは暗号通貨の基盤としてよく知られているが、この技術はサプライチェーン管理の改善にも利用できる可能性がある。

 サプライチェーンにおけるブロックチェーン活用の利点と使用例について学び、技術を導入する前に課題も認識しておく必要がある。

サプライチェーン管理にも効果が期待されるブロックチェーン技術

 ブロックチェーンは分散型台帳技術の一種であり、取引は連結されたデータブロックに追加され、情報は連結されたコンピュータ群で保管される。サプライチェーン管理の分野における潜在的なメリットには、セキュリティの強化やコストの削減、サプライヤーとの関係の改善、記録の改善がある。サプライチェーンにおける使用例としては、食品の安全性やコンプライアンス、医薬品のトレーサビリティー、採鉱作業、サプライヤーの検証などがある。課題としては、データの相互運用性とデータ品質が挙げられる。

 サプライチェーンにブロックチェーンを利用するメリットや具体的な使用例、幾つかの課題について詳しく紹介しよう。

サプライチェーンにおけるブロックチェーン活用の4つのメリット

 サプライチェーン管理におけるブロックチェーン活用の潜在的なメリットは、主に記録技術としての特徴からもたらされる。ここでは、その具体的なメリットを4つ紹介する。

1.セキュリティの強化

 完全に保護された技術は存在しないが、ブロックチェーンは改ざんや不正行為に強い。

 ロサンゼルスにある法律事務所のSalehpour Legalのモルバリード・サレプール氏(代表弁護士)は「ブロックチェーンのセキュリティ性能の高さにより、サプライチェーン情報をはじめとする企業のデータや記録の保護が強化される」と述べた。

 サプライチェーン情報は企業にとって最も貴重なデータの一つだ。そのため、セキュリティ性能の向上は企業全体の業務を改善し、ハッキングインシデントによる収益の損失を防ぐことにつながる。

2.コスト削減

 ブロックチェーンにおけるリアルタイムの追跡機能により、ユーザーはサプライチェーンの問題をより迅速に発見でき、サプライチェーンの混乱を減らせる。

 リアルタイムの追跡機能により、ユーザーは潜在的にコストのかかるサプライチェーンの問題を回避でき、企業のコスト削減にもつながるとサレプール氏は語る。

 また、ブロックチェーンは手作業によるデータ入力や検証の必要性を減らし、従業員が対応しなければならない作業を削減する。これも企業のコスト削減につながる。

3.サプライヤーとのコラボレーションの改善

 ブロックチェーンは統一された情報源を提供するため、サプライチェーンに関連する全てのパートナーが同じデータを閲覧できるようになる。これにより、企業間のコラボレーションが容易になるとサレプール氏は語る。

 サプライチェーンパートナー全員が同じ情報にアクセスできることで、サプライチェーンデータのソースの違いによる混乱を防ぐことができ、サプライチェーンパートナー間のコミュニケーションが改善される。

4.より客観的な記録

 ブロックチェーンの記録保持能力は、企業とサプライヤーの間で取引や類似の状況に関する疑問が生じた場合にも役立つ。企業は、従業員が正しく取引したことや、サプライヤーが特定の任務を遂行しなかったことを証明できる。

 「ブロックチェーンに不変の活動記録があることで、何が起こったかの振り返りや証明が容易になる」(サレプール氏)

 ブロックチェーンによる取引の履歴は、企業の規制や業界標準に関連するコンプライアンスの向上にも役立つ。例えば、企業はブロックチェーンを利用して持続可能性への取り組みを追跡できる。

 ボストンにある経営コンサルタント企業FTI Consultingで、ブロックチェーンおよびデジタル資産を担当するグローバルリーダーのスティーブ・マクニュー氏は「企業は、ブロックチェーンのサプライチェーンデータを使用して、炭素使用量やクレジットを追跡し、業務への影響を監視できる」と述べた。

サプライチェーンにおけるブロックチェーンの4つの使用例

 ブロックチェーンの機能は、幾つかの具体的な方法で企業の業務を支援する。ここでは使用例を紹介する。

1.食品の安全性とトレーサビリティー

 食品の安全性に関連する取り組みは、サプライチェーンにおけるブロックチェーン活用の最もよく知られた例の一つだ。ブロックチェーンによって、ユーザーは食品のライフサイクルの始まりから終わりまでの情報を確認できる。

 ブリュッセルに本部を置き、バーコードの標準を作成する組織のGS1 USのボブ・チェコヴィッチ氏(イノベーションを担当するシニアディレクター)は「例えば、アメリカ食品医薬品局(FDA)の食品トレーサビリティー最終規則では、スライスした野菜やナッツバターなどの製品を生産する企業は、特定の記録を2年間保持する必要がある」と述べている。これらの食品を製造する企業は、リコールに備えて、特定のデータをFDAとデジタルで共有できるようにしておかなければならない。

 「ブロックチェーンは、サプライチェーンを通じて製品の動きに関する透明で不変の台帳を提供する」(チェコヴィッチ)

2.医薬品のトレーサビリティーと偽造品削減

 食品と同様に、医薬品においてもトレーサビリティーは重要な考慮事項だ。企業は、薬品について、偽物ではないか、期限が切れていないか、輸送中に損傷していないかを確認する必要がある。

 ブロックチェーンの記録管理機能により、どの製品に欠陥があるのかを特定できるため、製品に問題が発生した場合に製薬企業がコストを削減できる可能性がある。さらに、全面的なリコールを回避できる可能性もある(サレプール氏)

3.製品の真正性の検証

 ブロックチェーンの記録管理機能は、紛争が発生した場合に企業が製品の出どころを証明するのにも役立つ。この機能は、商品の出どころが極めて重要な業界で重宝される可能性がある。

 英国ロンドンに拠点を置く、グローバルな運営およびサプライチェーンリーダーのための会員制研究組織であるZero100のケビン・オマーラ氏(共同創設者)は、次のように述べた。

 「例えば、金を販売する企業は、採掘プロセスの各段階と採掘後の生産に関する情報を共有するためにブロックチェーンを利用できる」

4.サプライヤー管理

 ブロックチェーンは、企業がサプライヤーの記録をより簡単に管理するのにも役立つ。

 企業はブロックチェーンを使用して新しいサプライヤーを参加させ、社内でそのライフサイクルを追跡できるとマクニュー氏は述べている。ドイツのサプライチェーン法を含む一部の法律では、サプライチェーンのパートナーの雇用慣行など、特定の情報を文書化することが組織に義務付けられており、この機能は企業がコンプライアンスを維持するのにも役立つ。

サプライチェーンにおけるブロックチェーン利用の課題

 ブロックチェーンは企業のサプライチェーン運営に一定のメリットをもたらすが、この技術には欠点も存在する。

1.データの品質

 潜在的な問題の一つはデータ品質だとチェコウィッツ氏は指摘している。

 「使用されるブロックチェーンシステムの質は、それが利用するデータの質によって決まる。データの品質や完全性、正確性に重点を置くことで、ブロックチェーン技術の信頼性と有効性を確保できる可能性がある」(チェコウィッツ氏)

2.相互運用性

 デロイトのウェンディ・ヘンリー、エリック・チェン、ラチャナ・カタワテ、ジョシュ・コールターによる2023年のレポート「ブロックチェーンを使用してサプライチェーンの透明性を推進する」によれば、ブロックチェーン技術では相互運用性も問題になる可能性がある。

 デロイトのレポートによると、「ブロックチェーン技術が成熟するにつれ、そのネットワークには普遍的な相互運用性標準が必要になる。さまざまな種類のブロックチェーンプラットフォームや分散型アプリケーション、既存のレガシー技術エコシステム間の互換性を保証するのに役立つ」という。

3.データセキュリティリスク

 他のテクノロジーと同様に、ブロックチェーンにも、サプライチェーンのリーダーが警戒しなければならない潜在的なセキュリティの問題が伴う。

 ブロックチェーンに関連する潜在的なセキュリティの問題には、企業がブロックチェーンのセキュリティ更新について知らないことや、ブロックチェーンの重要な構成要素である暗号鍵をコンピュータに保存する慣行があり、悪意のある人物が鍵をコピーする危険性がある。

 サプライチェーンのリーダーは、ブロックチェーン技術を導入する前に、そのセキュリティの脆弱(ぜいじゃく)性について学ぶ必要がある。

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