製造業向けERPベンダーのM&Aが急増している理由、買収動向を解説

製造業向けのERPを提供するベンダーがテクノロジー企業を積極的に買収している。M&Aが急増している理由と、ERPベンダーの買収動向を整理して解説する。

» 2024年09月05日 07時00分 公開
[Jim O'DonnellTechTarget]

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 EpicorやIFSといった製造業向けのERPを提供するベンダーがテクノロジー企業を積極的に買収している。業界に特化した機能や先進技術を提供する小規模な技術系企業を買収しているという。

 製造業向けERPベンダーによるM&Aが急増している理由と、代表的な4社の買収動向を整理する。

製造業向けERPベンダーのM&Aが急増している理由

 製造業や流通業、小売業向けのERPの提供に特化したEpicorは、2024年6月に製品情報管理ベンダーのKykloを買収し、同年5月にはAIを活用した在庫計画プロバイダーであるSmart Softwareを買収した。

 業界特化のERPとフィールドサービス管理を提供するIFSは、製品ポートフォリオを強化する目的で、2024年7月に機体の整備や修理、オーバーホール(MRO)のためのソフトウェアを提供するEmpowerMXを買収し、同年6月にAIを活用した産業資産管理機能を提供するCopperleaf Technologiesを買収した。

 TechVentiveの創設者兼CEOでもあるアナリストのブライアン・ソマー氏によると、これらの取引は、既存のベンダーが革新的な技術を獲得しようとするものであり、製造業向けERP市場の進化を示しているという。

 「買収される企業が小規模だと簡単に製品と統合できる。そのため、短期間で利益をもたらす買収が現在もよく確認される。また、多くの取引がされる理由の一つは、小規模で革新的な企業は素晴らしいソリューションを持っており、それが古いベンダーのソリューションをより現代的で有用なものに見せるためだ」(ソマー氏)

より業界に特化したERP

 Epicorのヴァイバヴ・ヴォーラ氏(製品と技術に関する最高責任者)は「当社は、製造業や流通業、小売業を営む顧客がより適切な意思決定ができ、プロセスを改善できるような機能を、クラウド型のERPプラットフォームに追加したいと考えている」と述べている。Epicorが求める理想的な機能は、3つの業界セグメントの顧客基盤全体に適用できるものであり、Epicorはこれらの中核業界との連携を深めることも視野に入れている。

 「私たちは、製造業や流通業、小売業といった大規模な業界だけでなく、製造業なら金属加工、空調分野ならフルードポンプ流通といった、より細かい業界にも注目している。顧客がやりたいことにどの技術が最も役立つかを考え、それを適用している」(ヴォーラ氏)

 ヴォーラ氏によると、最近のSmart SoftwareとKykloの買収は、この戦略に合致しているという。Kykloの製品情報管理アプリケーションのポートフォリオは、製造業や流通業を営むEpicorの顧客が、eコマースサイトやカタログ、マーケットプレースなどのさまざまなチャネルでコンテンツを同期できるようにする。Smart SoftwareのAI機能は、在庫計画や最適化により幅広く応用できる。

ERPベンダーの買収動向まとめ(出典:Techtarget)

 IFSのトラビス・ジョンストン氏(航空宇宙および防衛事業部の最高執行責任)によると、IFSは、買収を通じて同社がサービスを提供する業界の機能に厚みを持たせることに焦点を当てている。

 「当社の全ての買収に共通しているのは、AIを活用したプラットフォームを通じて顧客に対して、業界に特化した深い機能を提供することだ」(ジョンストン氏)

 IFSのスコット・ヘルマー氏(航空宇宙および防衛部門のプレジデント)によると、これらの買収はプラットフォームの強化を図る戦略の一環だという。IFSは、既に「IFS Cloud ERP」にMRO機能を実装しているにもかかわらず、2024年7月にEmpowerMXを買収した。

 ヘルマー氏によると、EmpowerMXは、機体のMROに特化した機能を提供している。機体とは、動力装置や計器類を除く航空機の機械構造を指し、それらには別のMROプロセスとシステムが存在する。

 「EmpowerMXは、重機体整備の分野に特化した機能を持っており、私たちのポートフォリオに完全に適合し、機能を強化する。ERP全体の機能やエンジニアリング、整備計画、整備実行といった航空企業向けの特定の機能に関して、統合ソリューションの能力を端から端まで拡張できる」(ヘルマー氏)

 ジョンストン氏によると、IFSのM&A戦略は顧客の需要によって推進されており、話題性のある新しい技術を導入するためだけにAIのような新技術を追加するものではないという。IFSは、2024年6月に買収した「Copperleaf AI」を活用した産業資産管理機能を提供している)のような老舗企業だけでなく、技術革新の波に乗っているようなアーリーステージの成長企業をバランスよくポートフォリオに取り入れようとしている。

 「急成長企業や新興企業の買収だけでは、業界の専門知識や顧客基盤を獲得できない。一方、プラットフォームにおけるイノベーションを実現しなかったり、新しい機能を追加しなかったりすると、機会を逃してしまう」

 ソフトウェア企業であるInforも製造業に特化したERPを提供するベンダーであり、最近小規模なテクノロジー企業を買収した。

 Inforは、「Infor Cloud ERP」における業界特化型の機能を強化する目的で、消費財業界向けに販売促進ソフトウェアとサービスを提供するAcumenを2024年7月に買収した。また、Inforのケビン・サミュエルソン氏(CEO)によると、同年7月の初めに幅広いデータ管理プラットフォームを持つAlbaneroを買収したという。

 サミュエルソン氏によると、Acumenは販売促進管理に特化しており、特に食品業界や飲料業界におけるInforの顧客に高い価値を提供できるという。

 「私たちはこれまでもAcumenと提携してきた。完全に統合され、導入が容易な製品および体験を提供するためには、この分野への拡大が必要だと感じた」(サミュエルソン氏)

 一方、Albaneroの買収により、InforはERP移行におけるデータ管理などの複雑な問題に対処する顧客を支援するためのデータプラットフォームを手に入れるとサミュエルソン氏は述べた。データ管理が不十分であるとERP導入プロジェクトが頓挫したり、プロジェクト開始後に満足のいく価値が得られなかったりする恐れがあり、クリーンで標準化されたデータを持つことが分析やAIにとって重要だ。

 「Albaneroとの提携で大きな需要があることが分かった。彼らの技術を使用する顧客がデータ移行の容易さ、データ移行の品質、そして継続的なデータクリーン性に関して得た結果は素晴らしいものだった」(サミュエルソン氏)

取引における共通点

 業界関係者は取引はそれぞれ独自のものであるが、共通の特徴もあると考えている。

 Technology Evaluation Centersのアナリスト、プレドラグ・ヤコヴレビッチ氏によると、こうした取引はベンダーが自社の製品ポートフォリオのギャップを埋めるため、あるいは横断的な販売のために開発できるアプリケーションを手に入れるための一時的な買収の傾向があるという。

 「既存のソリューションの持続性を高めるために、有用な技術を追加しているだけだ」とヤコヴレビッチ氏は語った。

 例えば、IFSがEmpowerMXを買収したことは、同社がすでにMROアプリケーションを所有していることを考えると、買収の理由が明確ではなかったとヤコヴレビッチ氏は述べた。しかし、企業には機体やエンジンのメンテナンスなど、さまざまな種類のMROニーズがあると同氏は付け加えた。

 一つの傾向として、長年先進技術を無視してきた企業が先進技術を求めており、ERPベンダーも同様に先進技術を無視してきたとConstellation Researchのアナリスト兼副社長ホルガー・ミューラー氏は述べた。

 メーカーは多くの場合、機器の更新を通じて新しいテクノロジーを製造現場に導入しており、ERPベンダーはこれらのニーズを満たすために小規模なテクノロジー企業を買収しているとミューラー氏は述べた。

 「大量カスタマイズを可能にする製造リーダーの世代交代と機械のアップグレードサイクルにより、製造現場の近代化が促進されている。それらを管理するためには異なるERPやサプライチェーン管理システムが必要だ」とミューラー氏は述べた。

 「ERPベンダーもERP市場で躍進するための競争をしている。これらのベンダーにとって、規模が重要な状況だ」(ミューラー氏)

 ソマー氏は、「買収される小規模企業は、自社製品を進化させるために必要なスキルと資本の獲得を目指している一方、より大規模で汎用的なERPベンダーの中には、主要な垂直市場への浸透を助ける業界固有の機能の獲得を積極的に模索しているところもある」と述べた。

 小規模だが確立されたベンダーの中には、しっかりとした垂直機能を備えているが、それが時代遅れのプラットフォームに存在していると彼は述べた。EpicorなどのERPベンダーは、その技術を適正な価格で取得し、時間をかけて最新のクラウドシステムに再プラットフォーム化できる。

 Nucleus Researchのアナリスト、サム・ハムウェイ氏は、最近のM&Aは、中堅およびエンタープライズレベルのERPにおけるフルスイート製品への移行を浮き彫りにしているという点に同意した。

 「ベンダーは、機能を一つのプロバイダーに統合することで、ITの複雑さを軽減することを目指している。例えば、EpicorによるSmart Softwareの買収は、サプライチェーン管理機能を強化し、幅広い機能を求める顧客の期待に応えている」(ハムウェイ氏)

 ベンダー各社は顧客の要求を効率的に満たす統合アプリケーションの提供を目指している。機能のギャップを迅速に埋めるため、専門企業を買収する傾向は今後も続く可能性が高いとハムウェイ氏は述べた。

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