製造業がデータとAIの力を最大限に活用して競争力を高める方法(前編)データを原動力としたAI活用の可能性と課題(2)

「データとAIを生かす」といってもその「出口」はさまざまです。しかし、業種業態ごとに類型化できるものも少なくありません。製造業の場合は何がポイントになるでしょうか。

» 2024年10月04日 08時00分 公開
[大澤毅Cloudera株式会社]

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この連載について

データを正しく収集、管理、分析することで、企業は業務効率化やDX(デジタルトランスフォーメーション)、競争力強化につなげることができます。最近では、ML(機械学習)や生成AI、LLM(大規模言語モデル)の活用によって成果を上げている企業が増えている。本連載では、データ利活用によって生まれるビジネスの機会や、それを実現するための課題や要点を、具体的な事例を交えて業界別に紹介します。

 生成AIやML(機械学習)などの先進技術を活用することで、近年、多くの企業が目覚ましい成果を挙げています。これらの技術を効果的に運用するには、データの適切な収集や管理、分析が不可欠です。

 本連載の第1回では、データ基盤や生成AIの役割、そして企業が直面する課題と機会(オポチュニティ)について説明しました。

 連載第2回、第3回では、製造業に焦点を当てて見ていきます。データやAI活用において製造業が抱える課題、ユースケースを取り上げ、「どうすればデータとAIで企業競争力を高められるか」を探ります。

データ分析、IoT、AI……積極投資のわりに「成功している」製造業が少ないのはなぜか

 データをうまく活用すれば、ビジネスプロセスを変革したり、新たなビジネスモデルを定義して新たな収益源を確立するイノベーションにつなぐ道を切り開くことができます。これは製造業においても同様です。

 しかし、多くの製造業はAIを含む新技術を採用することに課題を感じているといいます。

 Gartnerの調査(※1)によると、製造業のCEOの80%は、AIやIoT、データ、分析などに代表されるデジタルテクノロジーへの投資を増やしています。しかし「DXへの取り組みが成功している」と回答した製造業企業は全体のわずか8%にすぎません。つまり、投資に対する効果を実感できていないのです。

※1: 参照: Gartner Webサイト “Digital Transformation in Manufacturing


 AIを有効活用できない課題の背景として「適切なデータの収集・管理ができていない」ことが挙げられます。

 生成AIなどの先進技術はDXの一部にすぎません。DXによって効率化や競争優位性を得たい場合、まずは「データの役割と価値」を理解しなければなりません。

 近年は、センサー技術の急速な進歩とコストの低下により、製造業界におけるデータ収集と活用の可能性は飛躍的に拡大しています。温度や湿度、圧力、振動、音響、画像などのセンサーによって、さまざまな物理量や状態を高精度で計測できるようになっています。

 新しい製造設備には多種多様なセンサーが標準で装備されるようになり、既存の古い製造設備に対しても、低コストのセンサーの「後付け」が容易になっています。これまでデータ収集が難しかった設備からもリアルタイムでデータを取得できるようになっているのです。

 これらの産業用IoT装置から収集される大量のデータは非常に価値のある情報源となるものです。しかし、これらのデータをやみくもに収集するだけでは、AIをはじめとしたML(機械学習)のシステムが適切な分析を行えず、最適な結果を得られません。

 多くの組織は「収集したデータにはあらゆるシナリオが含まれており、アルゴリズムがそれを自動的に解明してくれるだろう」と誤った考えの元でITソリューションを構築してしまっています。

 しかし、「信頼できるデータ」と「堅固なデータ基盤」がなければ、AIやMLへのアプローチは、偏った、信頼性の低いものとなり、失敗のリスクが高まります。

 多くの組織がAIの価値を実感できていないのは、欠陥や不足のあるデータに対してAIツールやデータ分析を適用しているからなのです。

製造業におけるAI・データ活用は数多くのメリットをもたらす

 製造業において、IoTやAIの導入でどのようなメリットがあるか、幾つかのユースケースを紹介しましょう。

 1つ目が「予知保全」です。設備から得られるセンサーデータや過去のメンテナンスログなどを活用し、AIによる分析で設備や部品の故障を予測すれば、適切なタイミングで対処できるようになります。突発的な設備トラブルによる生産停止を防げれば、設備稼働率の向上やメンテナンスコストの削減を図るれるでしょう。

 また、高品質なデータを活用できれば製品の「品質向上」も実現します。人による目視検査の代わりに画像認識AIを使ったり、AI分析で歩留まりを最適化したりすることで、品質面でも大きな効果が期待できます。

 例えば半導体業界では、歩留まりのわずかな改善が数百万ドルのコスト削減につながるため、AIによる品質管理の導入は大きなメリットをもたらしています。

 さらに、2つ目のユースケースとして、外部データも加えた分析から「需要予測」の高度化も期待できます。過去のデータやトレンド、天候、休日、季節性、市況などの要因を考慮したAIによる需要予測が実現すれば、適切な生産計画の立案や在庫管理の最適化が可能になります。在庫の過不足を防ぎ、生産効率の向上と機会損失の削減が実現できます。

 この他にもAIの活用は、自動化によるスマートな生産、生産プロセスの最適化、パターン分析、パーソナライゼーション、ナレッジ管理、異常検知など、多くのメリットをもたらします。

 ただし、この理想を実現するには、信頼できるデータを集め、適切に管理できるデータ基盤が不可欠なのです。

著者紹介

大澤 毅(おおさわ たけし) 《Cloudera株式会社 社長執行役員》

IT業界を中心に大手独立系メーカー、大手SIer、外資系 IT企業のマネジメントや数々の新規事業の立ち上げに携わり、20年以上の豊富な経験と実績を持つ。Cloudera入社以前は、SAPジャパン株式会社 SAP Fieldglass事業本部長として、製品のローカル化、事業開発、マーケティング、営業、パートナー戦略、コンサルティング、サポートなど数多くのマネジメントを担当。2020年10月にCloudera株式会社の社長執行役員に就任。

Cloudera:https://jp.cloudera.com/


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