ITインフラの調達基準に変化の兆しが見えてきた。AIニーズが高まる中、処理性能だけではない調達基準に合わせたサービスのアピールが始まっている。
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AWS(Amazon Web Services)がデータセンターの低炭素化を本格化させる。
2027年頃をめどに事業活動における温室効果ガス排出量の開示が求められていることもあり、ITインフラの調達基準として、エネルギー消費量や温室効果ガス排出量が重視されつつある。一方で生成AIニーズが増えるにつれ、エネルギー消費量や温室効果ガス排出量が増えることで、利用企業からすると懸念されている。
ITインフラのベンダーにとっても環境貢献のメッセージ発出は、ビジネスを左右する重要なトピックになった。2025年1月31日、アマゾン ウェブサービス ジャパンが開催した記者会見は、このような市場の変化にAWSとしての答えを発信した形だ。会見は2024年に就任したアマゾン ウェブ サービス ジャパン 代表執行役員社長 白幡晶彦氏が登壇した。
AWSは日本で新規に建設するデータセンターにおいてエンボディドカーボン(資材調達や材料輸送などの建築工程で発生する二酸化炭素量)が64%少ない低炭素型コンクリートを採用することを発表した。同社は2024年に2027年までに2兆円超の投資計画を発表していたが、今回の発表はその一環だ。2011年からの累計で3兆7700億円に上る。
AWSにおける環境保全に関わる活動としては、GravitonやTrainium、Inferetiaといったカスタムシリコンにおいても温室効果ガス排出量削減にも力を入れた設計になっている。「計算負荷の高いワークロードであってもAWSで実行することで温室効果ガスを99%削減できる」(白幡氏)
この他、ウォーターポジティブの取り組みとして、山梨県 丹波山村と森林保全・水源涵養に関する協定を締結した。今後10年間に亘り丹波山の森林保全に投資する。
アマゾン ウェブ サービス ジャパン 常務執行役員 技術統括本部長の巨勢泰弘氏からはAI関連の直近の動向に加え、AIワークロードに対するコストと消費電力の問題に対する説明があった。
「最先端のAIがクラウド上にあるということは、近い将来も変わらない」(巨勢氏)
ハイパースケーラーの多くは自社サービスやデータセンターに特化した半導体設計に注力している。処理性能や電力消費量を抑えるなど、目的に特化した設計になっているのが特徴だ。
AWSはAI演算・学習に特化した「AWS Trainim」を開発しており、現在は「AWS Tranim2」が「EC2 Trn2」インスタンスで提供されている。2025年後半には次世代に当たる「AWS Trainium3」のリリースを予定している。
インターコネクトとしては「NeuronLink」を開発した。これらを組み合わせて使うことで、AIワークロードを効率良く、低消費電力で実行させる。
Tranium2と組み合わせて、数兆規模のパラメータを持つAIモデル開発に使える、2ラック構成のAWS Trainium2 UltraServerも提供する。
会見の質疑応答で、今後のクラウド市場のニーズを問われた白幡氏は「直近でミッションクリティカル系システムのクラウド移行やSDVインフラとしての利用が進む状況を踏まえ、信頼できるインフラ提供が重要としながらも、テクノロジーを愛する精神を忘れずStill Day One のマインドを忘れてはならない」とコメントした。
クラウドインフラは企業の情報システムを支えるだけでなく、社会インフラやIoTサービスの基盤としても当たり前に使われるようになってきた。今後はAIワークロードでも活用されることだろう。
ひとたびサービスに採用されれば、その規模は非常に大きなものになる。企業サービスに占めるITインフラ環境への影響は、もはや看過できない状況にある。顧客向けサービスの基幹インフラの調達基準において、電力消費量や環境負荷は重要な判断指標になっている。今回の取り組み発表は、いよいよ社会インフラを担い出したクラウド事業者AWSが、今後のITインフラ調達動向を見据えて意気込みを示す場だったと言えるだろう。
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