生成AIの登場などによりシステム移行の重要性が高まっているが、そのプロセスは容易ではない。そんな中、オレオやリッツで有名なモンデリーズは入念な計画によって順調な移行を進めている。同社事例から移行プロジェクトの勘所を学ぶ。
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「Oreo」「Ritz」「Chips Ahoy!」などのブランドを展開するスナック菓子メーカーMondelēz Internationalは、12億ドル規模を投じた数年にわたるIT環境の変革を通じて、事業戦略を刷新し、スナック市場でのシェア拡大と収益向上を目指している。
これを実行に移す準備を整えるために、パートナーや技術チーム、取締役会、各エリアのCEO、経営幹部のメンバーが足並みをそろえて入念に連携する必要があった。
同社はこの変革に向けて18カ月間の準備期間を設け、データセンターの撤退、ワークロードの移行、生成AIの活用検討、ERPのアップグレードなどを進めてきた。同社のコスタス・ゲオルガコプロス氏(CTO《最高技術責任者》 兼 CISO《最高情報セキュリティ責任者》)は、「この準備期間を通じてベンダーとのパートナーシップ構築、スケジュールの共有、ガバナンスの強化が実現した」と述べる。
「われわれの戦略を巡る議論の中心は、投資が確実に成果を生み出し、事業における具体的なROI(投資対効果)を示せるようにすることだった」とゲオルガコプロス氏は「CIO Dive」に語った。
Mondelēz Internationalは耐用年数が終わりかけているオンプレミスの「SAP ERP」を使用している。クラウドベースのERPへの移行によるメリットは大きいが、アップグレードは時間がかかり困難なプロセスでもある。
オンプレミスシステムのサポート終了が迫る中、SAPは顧客の移行を促進するために金銭的インセンティブと技術サポートサービスの提供を始めた(注1)。SAPシステムの変更管理自動化ソフトを提供するBasis Technologiesのデビッド・リース氏(CTO《最高技術責任者》)は、オンプレミスのソリューションを利用している顧客の半数以上が2027年の期限までに保守サポートを受けられなくなる恐れがあると、2024年に述べている(注2)。
戦略上、Mondelēz InternationalはSAPシステムのアップグレードの波が本格化する前に、できるだけ早い段階で移行を開始することを目指していた。
「SAPはサポートモデルとコスト構造について非常に明確にしてきた。われわれは同社とより密接な関係を築き、より多くのリソースを確保するため、このチャンスの最前線に立つ必要があると考えた。後になって移行を進めようとすると、移行に必要なリソースを多くの企業と奪い合わなければならない」(ゲオルガコプロス氏)
同社は戦略的パートナーとしてSAPと協力し、十分な人員と大規模なサポートを受けられる体制を整えてきたとゲオルガコプロス氏は述べた。2024年6月30日(現地時間、以下同)までの半年間で、同社はERP導入に向けた事前計画に約900万ドルを費やしている(注3)。
同社は2025年12月にも、戦略的クラウドプロバイダーとして「Amazon Web Services」(AWS)を採用した(注4)。
「当社にとって重要な検討事項の一つはコスト効率だった。加えて、運用を変革する能力も大きなポイントだった」(ゲオルガコプロス氏)
同氏によると、Mondelēz Internationalはハイパースケーラー3社の製品の機能性や革新性、共同イノベーションの可能性などを比較し、膨大な時間を費やして細部に至るまで検討した。
同社には35人のエンジニアで構成される社内開発チームがある。選ばれたクラウドプロバイダーはそのチームのパフォーマンスを最大限に生かした上で、AIなどを通じて効率化することを求められていた。
「特定のクラウドを使い続けた場合の総所有コストを計算し、どのクラウドが最適かどうかを比較した。その結果、AWSが提供するパッケージが優れていることが明らかになり、総所有コストの差は大きかった」(ゲオルガコプロス氏)
AWSを利用することにより、他のプロバイダーを選択した場合よりも少なくとも1年早く「SAP S/4HANA Cloud Public Edition」の機能を使えるようになると同氏は述べた。
「AWSによるDX(デジタルトランスフォーメーション)だけでなく、Googleの再プラットフォーム化、DXC Technologyのデータセンター4カ所からの撤退、『Microsoft Azure』からの数百のワークロードの移行も同時に進めている。優秀なエンジニアで構成される経験豊富なチームがなければ、このようなことはできなかった」(ゲオルガコプロス氏)
Mondelēz InternationalはDXへの取り組みを進める一方で、ミクロ経済とマクロ経済の逆風にも直面している。
同社幹部は2025年2月4日に発表した2024年第4四半期決算の中で、カカオ価格の上昇とインフレによって2025年の調整後1株当たり利益が約10%減少する見込みだと発表した(注5)。
「2025年は市場環境やカカオ価格の変動によって非常に厳しい年になる。その影響は相当なものだ」(ゲオルガコプロス氏)
チョコレートブランド「KISSES」を販売するThe Hershey Companyもまた、カカオ価格の上昇によるプレッシャーを指摘し、ERPの見直しを進めている(注6)。同社は2024年、SAP S/4HANA Cloud Public Editionへの段階的なアップグレードを進める中で売上と在庫の減少に見舞われた(注7)。
The Hersheyと同様、Mondelēz Internationalも移行期間中に業務の最適化に焦点を絞り、コスト削減策を強化している。
「われわれにできることとしては、インフラやアプリケーション、ユースケースなど現在の基盤を最適化することだ。SAP S/4HANA Cloud Public Editionの標準機能を最大限に活用し、ERPのカスタマイズを可能な限り排除した上で、使いやすさや効率性、コスト削減を確実に実現するため、明確にビジネスプロセス全体の標準化に注力してきた」(ゲオルガコプロス氏)
Mondelēz Internationalは地域ごとの段階的な導入を経て、2028年までにERP移行プロジェクトを完了する計画だという。現在は軌道に乗るための土台作りに全力を注いでいる。
「単なるシステムの移行であってはならない」(ゲオルガコプロス氏)
チームは、数百万行のコードに相当するERPのカスタマイズを全て精査し、移行を簡素化するためにどこを削減できるかを判断している。「多くの場合、カスタマイズを削除してもSAP S/4HANA Cloudの標準機能で置き換えられる」とゲオルガコプロス氏は述べている。
同社は、シェルスクリプトの作成や生産性の向上など、ソフトウェア開発を支援する目的で「Amazon Q」を導入した。ゲオルガコプロス氏は、このツールの導入によって約20%の効率向上が見込めると試算している。
しかし、ERPシステムへの生成AIの本格導入は、まだ実現していない。
「実際にパイプに水を通して、それが機能するかどうかをテストし、検証するまでには、おそらく12〜18カ月かかるだろう」とゲオルガコプロス氏は語った。
「道のりはまだ長いが、組織のテクノロジーに対するアプローチが着実に成熟してきていることに誇りを感じている」(ゲオルガコプロス氏)
(注1)SAP unveils additional ERP transition support in ongoing cloud push(CIO Dive)
(注2)Enterprises near migration bottleneck as SAP deadlines approach(CIO Dive)
(注3)Mondelēz International Reports Q2 2024 Results(Mondelēz International)
(注4)Mondelēz International Moves to Amazon Web Services to Advance Its Digital and Growth Strategy(Mondelēz International)
(注5)Mondelēz International Reports Q4 and FY 2024 Results(Mondelēz International)
(注6)Mondelēz, Hershey pressured by a prolonged spike in cocoa prices(Food Dive)
(注7)Hershey weathers sales, inventory dip as ERP upgrade continues(CIO Dive)
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