ERPの導入企業は、効率性や生産性の向上が見込めるのであれば、AIへの投資に前向きだと答えている。その一方で、ベンダーのAI戦略の明確さや、具体的な導入への道筋に対する懸念も存在しているようだ。
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ERPへのAIの統合が急速に進んでいる。2024年以降、AI導入率は大幅に上昇しており、ユーザー企業は業務プロセスの自動化や効率化にAIがどう役立つかに大きな期待を寄せている。
しかし、その一方で、ベンダーのAI戦略の明確さや、具体的な導入への道筋に対する懸念も存在しているようだ。ERPへのAI導入における顧客の期待と課題、そして今後の展望とは。
デジタル領域におけるコンサルティングに強みを持つPanorama Consulting Groupが、ERPの専門家を対象に毎年実施している調査「The 2025 ERP Report」によると、2024年以降、組織におけるAIの導入率は53.4%から72.6%に増加したという。
米国コロラド州デンバーに本社を置くPanoramaのクライアントサービス部門に所属するクリス・デヴォルト氏(シニアマネジャー)によると、顧客はERPベンダーのAI戦略や、それらの技術が自社の業務プロセスの自動化や効率化において、どのように役立つのかを理解したいと考えているようだ。
「顧客は、AIがどのような機能を備えているのか、そしてベンダーがどのようなビジョンを描いているのかを理解したいと考えている」(デヴォルト氏)
一部の分野では戦略が明確になってきている。デヴォルト氏によると、例えば財務分野では、企業はERPベンダーと協力し、共通の業務プロセスをAIで自動化できるかどうかを検討しながらAIの導入を進め始めているという。
一方、製造業や流通業におけるAIの活用には依然として多くの疑問が残っている。特にAIが自社システムとサプライチェーンの他のシステムをつなぐような場面では、その傾向が顕著だ。
「顧客は、『ベンダーによってAIをERPに組み込むための投資がされているのか』『研究開発や計画がきちんと存在し、明確な道筋があるのか』を知りたいと考えている。同時に、ERPにおけるAIの活用および運用の領域はまだ初期段階にあるという認識も持っている」(デヴォルト氏)
デヴォルト氏によると、ERPに対するAIの関与は顧客の業務プロセスを改善するための新たな機能に限った話ではないという。一部のベンダーは、顧客によるソフトウェアの選定のプロセスにAIを役立てようとしている。
「大手ベンダーは情報収集の過程でAIを活用している。例えばシステムをどのように設定できるか、どのスイッチを有効にする必要があるか、購買発注に必要な依存関係は何かといった点を特定するのに役立てている。こうしたツールは、設定や構成の一部を確認および検討するためにも活用できる」(デヴォルト氏)
一方、デヴォルト氏は「全体として顧客はERPにおけるAIの機能を理解したいと考えているが、必ずしもAIの機能をERP選定における重要な機能とは位置付けていない」と述べた。
米国コロラド州レイクウッドに拠点を置く独立系のERPコンサルティング企業であるERP Advisors Groupのショーン・ウィンドル氏(創設者兼マネージング・プリンシパル)によると、ERPに新たなAI技術を組み込む動きが発生したことにより、顧客はベンダーに対して、AIに関連する戦略や機能を質問するようになっているようだ。
「顧客は、Googleの『Gemini』やMetaの『Llama AI』に関する記事を読んでいる。AIに関する疑問に対する答えを求め始めているのは確かだ」(ウィンドル氏)
ウィンドル氏は、旧バージョンの「SAP ERP」を使用している売り上げが数十億ドル規模の油田サービス企業を例に挙げた。現場のスタッフが従事する発券業務や請求業務がAIの導入によってどのように改善されるのかを、ERPベンダーが明確に示さない限り、同社はAIを導入しないという。
「その企業の場合、各オフィスに担当者が在籍しており、契約通りに請求書が正しく作成されているかどうかを手作業で確認している。請求書の送付前に5人の担当者が確認をしているにもかかわらず記載の誤りが発生しており、営業に影響が出ている。このようなプロセスは自動化するべきだろう」(ウィンドル氏)
ウィンドル氏によると、ERPに組み込まれるAI機能が増えることによる恩恵を受けるのは中堅・中小企業だという。AIを活用した機能の導入コストが現実的なものになってきているためだ。
「かつてRPAや機械学習などの機能は、『UiPath』のような高価なツールを導入できる大企業だけのものと考えられていた。しかし、これらの機能が新たなERPに組み込まれることを期待する企業が増えており、ERPの導入に前向きな姿勢を持つようになっている」(ウィンドル氏)
ウィンドル氏によると、中堅・中小企業がAIエージェントを活用して業務プロセスを実行するようになるのは先の話だ。しかし、それらの企業はERPや企業向けアプリケーションを提供するベンダーのAI戦略に関心を持ち始めているという。
「AIによる長期的なメリットに関する市場の理解が進んでおり、顧客も『何らかの対応をしなければ、自社の競争優位性に影響が出てしまう』と考えるようになっている」(ウィンドル氏)
ウィンドル氏は「大手企業の中には、依然として主要ERPベンダーのシステムをオンプレミスで運用しているところもあるが、AIによる業務プロセスの改善が期待できることからクラウドERPへの移行が検討されるようになっている」と付け加えた。
オランダのドルトレヒトに本社を置くERPベンダーであるUnit4において最高プロダクト技術責任者を務めるクラウス・イェプセン氏によると、ERPにおけるAI機能の導入はまだ初期段階にあるが、効率性の向上といったメリットが得られるようになれば普及が急速に進むとのことだ。
Unit4は、主に中小規模のプロフェッショナルサービス組織を対象としたERPを提供している。同社のSaaS型システム「Unit4 ERPx」には、請求書発行などのプロセスにおける手作業の削減を目的としたAI機能が搭載されている。
ジェプセン氏は、こうしたプロセスやその他のプロセスを自動化することで顧客が実現する効率性の向上が、AIの導入を促進するだろうと述べた。
「2025年はまだAIの盛り上がりが続く程度で、大きな変化はなさそうだ。AIの導入には段階がある。今見られるのは、ごく少量のデータでもすぐに成果が出せる段階だ」(ジェプセン氏)
ジェプセン氏は、次の段階では、機械学習と大規模言語モデルをERPデータに深く統合し、顧客がクエリを実行して分析情報を取得できるようになると述べた。
クラウドERPベンダーRootstockのCTOであるRobert Rostamizadeh氏クラウドERPベンダーRootstockのCTO(最高技術責任者)であるロバート・ロスタミザデ氏の関心は高いが、結果を求めているという点に同意した。
「Salesforce」プラットフォームに構築されたRootstockのクラウドERPは、主に中小規模の製造企業を対象としている。
「顧客からは、『AIの予算があること』『何か手を打つ必要があると認識していること』そして『私たちERPの専門家がAIをどう活用すべきか示すこと』を期待されている」とジェプセン氏は述べた。「AIはどこでも耳にするが、Webページにチャットbotを配置するのは単なる見せかけにすぎない。顧客が求めているのはそういうことではない」
ロスタミザデ氏によると、「Rootstock ERP」はSalesforceプラットフォームに構築されているため、Salesforceの「Agentforce AI」開発機能を活用できるという。「Agentforceのツールやセキュリティ、データプライバシー機能をRootstockのERPデータと統合することで、顧客が求めている価値を提供し始められる」と同氏は語る。
「私たちは、製造業におけるリードタイムの予測、生産ボトルネックの予見、資材やリソースの正確な割り当てといったことに関して、予測AIと生成AIの両方を検討している。さらに一歩進めば、生成AIを活用してMRP(資材所要量計画)アプリケーションと会話形式で連携し、さまざまなシナリオやモデルについて尋ねられるようになるだろう。これこそがERPとAIの未来だ」(ロスタミザデ氏)
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