Palo Alto Networksは特権アクセス管理に強みを持つCyberArkを約250億ドルで買収する計画を発表した。AIの普及により多様化するアイデンティティーへの対応を強化し、マルチプラットフォーム型セキュリティ体制の構築を目指す。
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Washington Technologyは2025年7月30日(現地時間)、Palo Alto Networksが、イスラエルに本社を置く情報セキュリティ企業CyberArkを現金と株式を合わせた総額250億ドルで買収する計画だと発表した。
この取引はPalo Alto Networksがアイデンティティーセキュリティ分野への進出を加速させる戦略の一環として位置付けられており、同社が目指す複数のセキュリティプラットフォームを統合するというビジョンを明確に示している。買収後には、同社の年間経常収益が100億ドルを超える見込みであり、これはサイバーセキュリティ業界において初の到達点となる。
CyberArkは、特権アクセス管理(PAM)を中心としたアイデンティティーセキュリティを専門とする企業だ。AIの利用拡大に伴って、ユーザーだけでなくAIエージェントやアプリケーション、開発者、ITシステムといった多様な「機械的アイデンティティー」が急増している現状において、アイデンティティーに応じた適切な権限の管理が重要になっている。
Palo Alto NetworksでCEOを務めるニケシュ・アローラ氏は「今後のセキュリティはあらゆるアイデンティティーに適切な特権制御を施すことが前提となる」と述べ、CyberArkとの統合によって、次世代のセキュリティを定義すると強調した。
Palo Alto Networksは、もともと次世代ファイアウォール企業として出発したが、複数の買収や事業拡張を通じて、ネットワークやクラウド、エンドポイント、AIを統合するマルチプラットフォーム型のセキュリティ企業へと変貌を遂げた。今回の買収は、断片的だったアイデンティティーセキュリティ市場が再編の兆しを見せる中、その中核を握る狙いがある。CyberArkの技術と実績は、これまでのPalo Alto Networksのサービスを補完するものであり、企業としての総合的な防御力を強化する効果が見込まれる。
取引は2026年中に完了する見通しであり、買収条件としてCyberArkの株主には1株当たり現金45ドルとPalo Alto Networksの株式2.2株が提示されている。本件は同社最大の買収案件であり、その資金調達や統合作業には大規模な体制が投入される予定だ。
両社は米国政府関連市場にも強固な基盤を持ち、主要リセラーとの関係性やFedRAMP認証、国防総省の承認製品リストへの掲載実績などがある。政府部門への提供サービスにも直接的な影響が予想される。加えて、米政府はゼロトラスト・セキュリティの導入を推進しており、今回の統合はその要請にも応える格好となる。AI活用の拡大と並行して、セキュリティ要求はいっそう厳格化する方向にあり、両社の技術的融合が提供価値を高めるとみられている。
今回の発表は、サイバーセキュリティ業界の構造的な転換期を象徴する動きでもある。AIの浸透によって、従来のネットワーク防御の枠組みは大きく再定義されつつあり、Palo Alto NetworksとCyberArkの統合は、その新しい時代に即した包括的かつ柔軟な防衛体制の構築を目指すものとなる。市場の急成長に適応し、企業と公共機関の双方に信頼されるセキュリティ基盤を提供するという目標に向かって今回の買収がどのような成果を生むのか注目が集まる。
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