RAGは「幻滅期」突入、AIエージェントは「過度な期待」 Gartner、ハイプサイクルレポートを発表：AIニュースピックアップ

GartnerはクラウドとAIに関する新たなハイプサイクルレポートを発表した。AIの進展、クラウドの進化、システムのマイグレーションを中心に、注目テクノロジーが分析されている。

[後藤大地，有限会社オングス]

　ガートナージャパン（以下、Gartner）は2025年8月5日、「日本におけるクラウドとAIのハイプ・サイクル：2025年」を発表した。同レポートはクラウドとAIを中核とする34の注目テクノロジーを、AIと産業構造の変革、クラウドの進化、既存システムからのマイグレーションという3つの視点で分析している。

　クラウドコンピューティングの概念が登場してから約20年が経過し、現在では生成AIを含むAIの基盤としても不可欠な存在となっている。AIエージェントやマルチエージェントの構築を支えるプラットフォームや、汎用人工知能（AGI）を想定したハイパーAIスーパーコンピュータの進展がそれを裏付けている。

Gartnerが示す、2025年のクラウドとAIのハイプサイクル

　Gartnerの亦賀忠明氏（ディスティングイッシュトバイスプレジデントアナリスト）は、次のように述べている。

　「企業はクラウドを、既存システムのマイグレーション先だけでなく、新たなビジネスやサービスの基盤、AIによる産業革命クラスのインパクトをもたらす基盤として捉える必要があります。」

2025年の日本におけるクラウドとAIのハイプサイクル（出典：Gartnerのプレスリリース）

　レポートが取り上げたテクノロジーには、A2A（Agent2Agent）プロトコルやAIオーケストレーション、インダストリAI、LoRA（Low-Rank Adaptation）、世界モデル（World Model）、検索拡張生成（RAG）といったAI関連のものに加えて、クラウドレジリエンスやマルチクラウド、ソブリンクラウド、BMaaS（Bare Metal-as-a-Service）、M2C（Mainframe-to-Cloud）マイグレーションなどが含まれている。

　特にAI分野では生成AIやAIエージェント、マルチエージェントシステムといったテーマがハイパースケーラー各社の競争領域となっており、基盤プロトコルを巡る技術的な競争も激化している。世界的に建造が進むAIスーパーコンピュータの中には、100兆円規模の投資事例もある。これにより、企業は大規模なマルチエージェントシステムを迅速に生成し、工場やロボットなどをAIで最適化できる。

　クラウドサービスのマイグレーション領域においても、M2CやV2C（Virtual-to-Cloud）といった形態でのコスト効率が注目されており、クラウド基盤の有効活用により既存資産にかかるコストを削減し、新たなIT戦略へと資源を割り当てる動きが求められている。

　またAIの活用は加速度的に進展しており、Gartnerはその成熟が比較的早期に訪れると見ている。他方で、クラウド関連技術については既に広く知られていながらも企業での活用が依然として限定的とされている。

　亦賀氏は、AIエージェントへの過剰な期待に警戒を促し、現実との距離を見極め、導入のタイミングと方法を戦略的に判断すべきとしている。「AIとクラウドは相互に補完する関係にあり、企業はクラウドやAIを自社戦略の前提に据え、それに適した技術基盤と人材の能力を着実に整備する必要がある」と述べている。またGartnerはAIやクラウドをもはや単なるツールではなく、スーパーパワー（想像を絶するテクノロジー）や武器として捉えるべきとしている。

　Gartnerのハイプサイクルは、イノベーションの進展過程を段階的に示す枠組みであり、技術の成熟度やビジネスへの適用可能性を可視化するツールだ。対象にはテクノロジーだけでなく、戦略や運用、標準、機能なども含まれる。Gartnerは毎年、100以上のハイプサイクルを通じて、1500を超えるイノベーションを分析、公開している。