イトーキと松尾研究所が共同で「オフィスにおけるマルチモーダルデータ活用による生産性評価研究」を開始した。何が従業員の生産性を高めるのか。その手掛かりが少しずつ見え始めている。
オフィス家具メーカーのイトーキは2025年7月29日、東京大学大学院 工学系研究科教授の松尾豊氏が率いる松尾研究所と共同で、「オフィスにおけるマルチモーダルデータ活用による生産性評価研究」を開始したと発表した。AI技術を用いて、多様な働き方に対応した新たな生産性評価モデルの構築と計測手法の開発を目指す。
多様な働き方が普及する一方で、日本企業は依然として低い労働生産性という課題を抱えている。何が生産性を高めるのかは組織によって異なり、その全体像を捉えることは困難を極めていた。
また近年、オフィス投資は「人的資本投資」の一部に位置付けられており、その投資対効果を測らなくてはならないという企業のニーズも本研究の背景にある。
今回の発表に際して開かれた記者発表会にて、イトーキの代表取締役社長である湊宏司氏は「オフィスを作った後もビジネス環境は変わっていくので、(それに合わせてオフィス環境も)どんどんチューンアップしていかなければならない。そのPDCAをデータドリブンに回していくということを、AIとITの力を使ってやっていきたい」と語った。
では、オフィスと生産性の関係を解明するために、両社はどのようなアプローチで研究を進めていくのか。本研究では、従来のオフィス稼働データや主観的なパフォーマンスサーベイデータに加え、以下のマルチモーダルなデータを統合的に分析する。
これにより、働く環境や働き方と生産性との関係を多面的に分析し、「生産性の定義と向上に寄与する行動・環境モデルの構築」と「生産性の客観的な計測・検証手法の確立」を目指すという。
既にイトーキ社内では2回の実証実験を実施済み。以下のような示唆が得られている。
なお、現時点での本研究における「パフォーマンス」は従業員の主観的評価であり、売り上げなどの客観的な指標ではない。これは異なるKPIを追うさまざまな部署の従業員を横断的に分析したためだ。今後はより精緻な分析により、業種や職種ごとに客観的な生産性評価が進むことが期待される。
今回の共同研究は、これまで曖昧であった「生産性」という概念をデータドリブンに解明し、客観的な指標を確立しようとする野心的な試みだ。成功すれば、個々の企業や従業員に最適化されたオフィス環境の提案や、働き方改革の新たなソリューションにつながる可能性がある。
今後は、研究の初期フェーズでの仮説検証とPoCを経て、1000人規模での外部実証へと進める計画だ。将来的には、センシングデバイスやWebアプリによるデータ収集・分析プラットフォームを構築し、顧客向けの評価分析サービスとして提供することを目指すとしている。
今回の協業に至った背景には、松尾氏の過去の研究がある。同氏はWeb上のさまざまなログデータを基に人々のパフォーマンスについて研究したが、データの取得範囲が限られていたのが課題だったという。「データの取得範囲や生産性の定義などさまざまな課題があったので、社長(湊氏)の話を聞いて『すごく面白い』と思い、一緒にやることになった」と振り返る。本研究よって日本の生産性向上と松尾氏の“悲願”が達成されるか、注目したい。
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