NVIDIAが推進する「フィジカルAI」の動向 AIによる空間認識で製造業を支援AIニュースピックアップ

NVIDIAは都市や産業インフラの安全性と効率性を向上させる「フィジカルAI」の最新技術を発表した。映像センサーとAIを活用し、危険作業の自動化や製造現場の品質管理、公共安全の強化を実現する。

» 2025年09月13日 08時00分 公開
[後藤大地有限会社オングス]

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 NVIDIAは都市や産業インフラにおける安全性と効率性の向上を目的とした「フィジカルAI」(物理的なAI)の技術開発に力を入れる。この技術は、物理空間の認識・推論能力をAIに持たせることで、都市や施設、産業プロセスの自動化と高度化を実現する。

労働力不足と安全課題を解決するNVIDIAの新戦略

 同社は、Accenture、Avathon、Belden、DeepHow、Milestone Systems、Telit Cinterionなど複数の企業と協業し、フィジカルAIの開発を推進している。シミュレーションや学習、展開を循環させる開発プロセスにより、危険作業の自動化、輸送サービスや公共安全の向上、製造現場における不良品検知などが可能となる。

 世界規模でニーズが高まっており、製造業の品質不良による年間損失は7兆ドル、労働災害や職業病による年間死亡者は約280万人に上る。こうした課題に対し、欧州連合では年間3000億ドルが治安維持と安全確保に費やされており、2024年には51万4000台の産業用ロボットが設置されている。また2030年には世界的に5000万人規模の労働力不足が見込まれる。

 フィジカルAIは、映像センサーと先進のビジョンAI技術を基盤として構築される。NVIDIAの「Metropolis」プラットフォームは、エッジからクラウドまでの映像解析AIの開発や展開、拡張を容易にし、施設への視覚認識機能の迅速な導入を可能とする。

 AccentureはBeldenと協力し、工場内の大型ロボットの周囲に仮想フェンスを設置する安全システムを開発した。このシステムはOpenUSDベースのデジタルツインと物理シミュレーションを活用し、3D空間認識による適応型の人とロボットの安全距離確保を実現する。

工場内の大型ロボットの周囲に仮想フェンスを設置する安全システムのイメージ(出典:NVIDIAのWebサイト)

 AvathonはMetropolisの「VSS Blueprint」(AIによる映像の検索、要約を行う機能群)を活用し、製造・エネルギー施設にリアルタイム映像解析を提供している。Reliance British Petroleum Mobility Limitedはこの技術をガソリンスタンド建設時に活用し、安全基準の順守率向上と作業時間削減を実現した。

 DeepHowは作業手順を多言語の短尺映像やデジタルマニュアルに変換する「Smart Know-How Companion」を開発。Anheuser-Busch InBevはこれを使って研修期間を80%短縮し、手順理解度を向上させた。

 Milestone Systemsは都市や産業用IP映像管理プラットフォームを通じて大規模な実世界コンピュータビジョンデータライブラリーを構築中だ。これにNVIDIAの「NeMo Curator」(テキスト抽出やクリーニングを実行できるマイクロサービス)や「Cosmos Reason VLM」(フィジカルAIとロボティクス向けの推論視覚言語モデル)を組み合わせ、交通管理や公共安全分野でのAI活用を進めている。

 Telit CinterionはNVIDIA「TAO Toolkit 6」(AIモデルを独自データでカスタマイズするための機能群)を組み込み、欠陥検出や品質管理用の高精度AIモデルを迅速に開発・展開できるプラットフォームを構築した。

 2025年8月10〜14日に開催された米国コンピュータ学会のCG関連分科会「SIGGRAPH」ではMetropolisのアップデートが発表された。概要は次の通りだ。

  • Cosmos Reason VLM: 7Bパラメーターの推論モデルで、映像の文脈理解や時間的イベント推論に対応。交通監視や検査業務などへの応用を想定
  • VSS Blueprint 2.4: Cosmos Reasonとの統合を容易にし、生成AIを活用した映像解析機能の追加を可能とする
  • 新しいビジョン基盤モデル: TAO Toolkitに自己教師あり学習や知識蒸留を追加、「DeepStream SDK」の新推論ビルダーと連携可能
  • 「Isaac Sim」拡張機能: 希少事例やエッジケースのシミュレーション、物体検出用データ生成、VLM学習用シーン作成が可能
  • ハードウェア対応拡大: 「RTX PRO 6000 Blackwell GPU」や「DGX Spark」「Jetson Thor」に対応し、エッジからクラウドまでの開発、展開が可能

 Cosmos Reason 1およびTAO 6.0はダウンロード可能で、VSS 2.4やDeepStream 8.0の提供も予定されている。

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