新リース会計基準は業務フローの見直しが必須 IFRS16号の事例を基に解説

新リース会計基準への対応で見落としがちなのは業務フローをどのように構築するかです。今回は、なぜ業務フローを考える必要があるのかについて、IFRS16号の際の事例を基に解説します。

» 2025年09月17日 07時00分 公開
[藤原誠明ワークスアプリケーションズ]

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2027年度に新リース会計基準導入へ システム検討の進め方

2024年の9月13日に「新リース会計基準」の確定版が発表されました。本連載では、確定した最新の基準にのっとって「何が変わるのか」の基礎から紹介した上で、「Microsoft Excel」で対応できる/できない企業の特徴や、システム検討の考え方についても解説していきます。

 2024年9月に公表された新リース会計基準(以下、新リース基準)。原則全てのリース契約についてオンバランス計上が義務付けられます。経理処理の負担増を懸念する多くの声が上がっていますが、意外と見落としがちなのは「業務フロー」をどのように構築するかです。今回は、なぜ業務フローを考え直す必要があるのかについて、「IFRS16号」の際の事例を基に解説します。

「自部門以外の業務を変えたくない」と考えがちな経理部門

 新リース基準への対応に際して、多くの経理部門は「自部門以外の業務は一切変えたくない」という考えをお持ちかと思います。下記のように、契約に基づく日々の支払仕訳などはほぼそのままの形で作って、決算整理としてリースのオンバランス会計処理をすれば、論理的には可能だという発想です。

新リース基準で作成する仕訳(出典:ワークスアプリケーションズの提供資料)

 実際に、新リース基準の元となったIFRS16号の対応の際には、そうした発想で事業部門の業務を何も変えない判断をした例が多くありました。しかし、そのような対応を取った企業の一部は煩雑な業務を強いられ、さまざまな課題に直面したケースもあると聞きます。

「業務を変えなかった」企業が直面した課題

事例1.情報が集まらず、経理部で膨大な取引の精査が必要に(製造業)

 契約管理の主体が各現場に散らばっていた製造業A社では、各地の不動産賃借契約の他、看板広告などもIFRS16号のオンバランス対象として精査。現場の運用は変えず、期末に経理部が決算整理仕訳をまとめて起こす運用としました。

 初期のタイミングでは一定のアドバイザリーを受けて契約を精査し、運用が始められたものの、運用開始後に「契約の増加や解約、更新等の変化が分からない」という点が課題でした。

 経理部にて膨大な取引明細を精査の上、把握している契約の支払が無くなっているものや、増えているものなどを確認する作業が発生し、期末作業の負担が大幅に増えてしまいました。

事例2.「各部門へのチェックシート配布」の手間が膨大に(不動産業)

 不動産店舗やモデルハウスなどに伴う契約が多かったB社。契約の更新などの動きも多い一方、契約管理は各現場の事務スタッフが担っていたため、その把握が運用開始前から課題でした。

 選択したのは、固定資産の棚卸実査のように「四半期末のタイミングで部門ごとの契約一覧を作って配布し、変化があったものを報告してもらう」という方法です。

 しかし、部門ごとのファイル作成や配布と収集、進捗管理などに多くの手間がかかったのはもちろん、収集されたシートの「差分」を抽出して、「新規」「中途解約」「再見積」などのリースシステムに取り込める形に正しく整形する作業負担が非常に大きくなり、作業の属人化も進んでしまいました。

オンバランス契約の「変化」を「継続的に」集めるための業務フローが必要

 上記の2企業に共通していたのは、オンバランス対象の契約の「変化」を、「継続的にどうやって集めるか」についての問題が顕在化した点です。

 この点が課題になる背景には、新リース基準による改正の構造的な変化があります。各現場で契約管理をしていた場合、今までは「支払」のタイミングのみ経理部門に依頼をしていれば問題なかったかと思います。それが、新リース基準により「契約の変化」があったタイミングで、漏れなく資産と負債の計上が必要になりました。これにより、「変化を継続的に捉える」ための業務の仕組みが必要になっています。

新リース基準で計上が必要になるタイミング(出典:ワークスアプリケーションズの提供資料)

 現状、新リース基準に向けて、「オンバランス契約を洗い出そう」という動きをしている企業は増えていると思います。しかし、それだけでは不十分です。「洗い出した契約をどう継続的に情報収集するか」こそが、運用開始後に本当に課題になるポイントではないでしょうか。

契約を明確にした上で業務フローの検討を

 とはいえ、企業が抱える契約の種類や数、管理体制によって、どのような業務フローが必要かは大きく異なります。

 まずは、「どんな契約が」「どの部門で」「どのくらいの数が管理されているか」を整理した上で、業務フローの検討を始めるとよいでしょう。

 こうした状況を踏まえ、当社は公認会計士の井上雅彦氏の監修を受けた新リース基準に向けた契約の洗い出し票を無償で公開しております。

 今回は業務フロー検討の必要性について解説しました。次回はいよいよ「自社に合った業務フローをどうやって描くべきか」について、サンプルの業務フローを例示しながら解説します。

著者プロフィール詳細:藤原誠明(プロダクトマネジメント本部 プリンシパル)

2013年にワークスアプリケーションズに入社し、会計システム開発エンジニアとしてキャリアを開始。製品の企画・開発の傍ら、さまざまな業種や規模での導入・業務改善プロジェクトに参画。

23年1月に国産フラッグシップERP「HUE」の魅力やDXの必要性を広めていくエヴァンジェリストの第1号に認定される。現在は、年間350件以上のシステム検討商談に参加し、元エンジニアの視点を生かしつつシステム選定に関するコンサルティング・製品紹介・講演活動などを担う。


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