VMware問題やコスト高騰などITインフラの課題が複雑化している。企業が最適なインフラを構築し、データとAIの活用を最大化するためのアプローチを解説する。
データ活用やAI導入が注目される一方で、技術の急速な発展によってITインフラ戦略の「正解」が見つけにくくなっている。クラウドへの一辺倒な移行が正解とは限らず、コストの高騰や運用管理の複雑化といった課題が生じている。
このような時代に企業はどのようにインフラを構築すべきか。日本仮想化技術の代表取締役兼CEOの宮原 徹氏は、ITインフラが直面している多岐にわたる課題を整理し、その解決策を提示した。
本稿はITmediaが主催したイベント「Enterprise IT Summit Vol.2」(8月19〜22日)で日本仮想化技術の宮原 徹氏が「ビッグデータとAI、ハイブリッドクラウドで考えるこれからのITインフラ戦略」というテーマで講演した内容を編集部で再構成したものだ。
まず宮原氏はITインフラの課題を整理した。同氏は「ITインフラの正解が企業ごとに異なるというケースも増えている」と話し、具体的な課題として以下を挙げた。
以降ではそれぞれの詳細を確認する。
ビッグデータ分析とは、ビジネスに関連するさまざまな活動をデータに落とし込み、分析や可視化をする一連のプロセスを指す。重要なのは、従来の経営ではデータにされてこなかった活動をデータにする点だ。
宮原氏は「昨今は映像やセンサーデータ、位置情報などもデータにされている。それらのデータを基に業務やシステムを改善することが多くの組織の目的になっている」と話す。ビッグデータ分析には次のような課題もある。
そのためビッグデータ分析に二の足を踏んでしまう企業が多いと同氏は考える。
ローカリティーとは、CPUやメモリといった計算資源とデータがどれくらい離れているかを示す用語だ。
宮原氏は「企業はデータを可能な限り分析基盤の近くに置きたいと考える。AI処理のプロセスがある場合はAIも近くに置く」と話す。一方で、セキュリティを考えると安全な場所に置きたいと考えることもある。このように、分析基盤とデータの配置の関係では、通信速度やコストが課題になりがちだ。
ローカリティーの問題を通じてデータ分析基盤の整備にかかる通信速度やコストについて触れたが、分析基盤構築の費用対効果にも課題が潜んでいる。
宮原氏は「データ基盤構築が優先されて、費用対効果について十分な議論がされないケースがある」と述べた。また、PoC(概念実証)まで進んでも評価して終わりになってしまうケースも多いという。
その結果、データを集めるだけ集め、クラウドには容量の大きなストレージが必要となり、成果につながらないままコストだけがかさむという状況が生じてしまう。
AI活用にも課題は存在する。まず、そもそもAIを活用できるのかという課題が挙げられる。また、業務最適化を促すとされるRAG(Retrieval-Augmented Generation)やファインチューニングの分野は発展途上であり、大規模言語モデル(LLM)にRAGを組み合わせてることで本当にメリットを享受できるか慎重な姿勢が必要だ。
著作権の問題も無視できない。AIが生成した成果物が著作権を侵害している場合、社内文書であっても違法になる恐れがある。
近年、多くの企業でクラウドコストの高騰が問題になっている。日本では円安も重なり、ビジネスに深刻な影響を及ぼしている。
「『富豪クラウドアプローチ(ロジックやコード、データの削減などをせず、クラウドリソース増強でシステム課題を解決するアプローチ)』は課題を先送りするだけだ。技術的な負債となり、いずれコスト増大として跳ね返ってくる」(宮原氏)
宮原氏が最後に挙げた課題が、VMwareに関するものだ。小規模な組織の場合は「Proxmox」などKVMベースのソリューションを活用することで深刻な影響を避けられる。
一方、中規模な組織の場合はコストへのインパクトが大きくなる。その理由は、これまで使っていなかったコンポーネントの分も購入が必要になる上、費用対効果の高い代替ソリューションが少ないないためだ。
宮原氏はここまで整理した課題を解決するインフラ戦略のポイントを4つ紹介した。
宮原氏は「クラウドシフトは大きな流れだったがオンプレ回帰の動きも存在していた」と話す。オンプレ回帰を検討する企業は、VMwareを低コストで使用し、オンプレを増やすアプローチを検討していたという。しかし、BroadcomによるVMwareの買収を契機にライセンス形態に変更が発生し、オンプレ回帰の動きは弱まった。一方、既にオンプレで稼働しているシステムをクラウドに移行する機運は少ないままだという。
「クラウド移行をするにしてもオンプレ回帰をするにしても、重要なのはデータにどのようにアクセスし、どのように活用するのかを丁寧に再設計することだ。それが課題解決につながる」と宮原氏は考える。
「SaaS型データ分析基盤ありきで考えると中長期的に囲い込まれてコストが肥大化する可能性が高いため、慎重な検討が必要だ」(宮原氏)
データへのアクセスを再設計するだけでなく、システム全体の継続的な改善も課題解決につながる。特にクラウド移行を前提とするのであれば、DevOpsのアプローチを採用し、従来の手順書や手作業に基づくインフラのメンテナンス方法を、ライフサイクル全体で自動化すべきという。
「システム全般をツールを使って管理するという意識を持つべきだ。これまでインフラとアプリケーション開発は分断されてきたが、今後は継続的インテグレーションおよび継続的デリバリーシステム(CI/CD)によるアプリケーション開発やリリースサイクルの自動化をインフラサイドから支援する体制が求められる」(宮原氏)
宮原氏は「アジリティの向上も意識してほしい」と強調する。そもそも仮想化やクラウド移行は柔軟な基盤を実現するための手法だ。しかし、利用者のアジリティが低ければ柔軟な基盤を活用できない。
そのため従来のウオーターフォール型の開発をジャイル開発に転換する必要がある。これは「富豪クラウドアプローチ」からの脱却にもつながる。
講演の最後に宮原氏は、次世代のハイブリッドクラウドに言及した。同氏によると、限られたリソースによるインフラの構築を考えるとき、独自性や付加価値の低いシステムはSaaSで構築すべきだという。
その上でアプリケーションの開発基盤や内製化基盤についてクライドネイティブな基盤にしていく。その後に残るデータ基盤はケースバイケースで、データセキュリティを考慮しながらデータと分析基盤の配置を検討する必要がある。
「データ分析の領域では、BIだけでなくAIの活用も考慮し、検証から開発までをスムーズに進めるサイクルを回せるかどうかが鍵になる」(宮原氏)
データの増加やローカリティーの問題、データ分析基盤やクラウドの費用、AI活用、そしてVMwareの問題など、ITインフラに関連する課題は多岐にわたる。そのため、最適なインフラの在り方が分かりにくくなっている。
そうした中で自社に合ったITインフラを見極めるためには、オンプレ回帰も視野に入れてハイブリッド戦略を見直し、システム全体を継続的に改善できる環境を実現する必要がある。
ハイブリッドクラウドを設計する際は、独自性や付加価値性の低いシステムはSaaSで構築し、アプリケーションの開発基盤や内製化基盤はクライドネイティブなものを整えていくとよいだろう。その上で、データと分析基盤を配置する場所を見極められると、自社のITインフラの正解が見えてくるはずだ。
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