SMBCグループが経理業務を9割以上自動化へ 業務の大半が自動化される時代の「人間の役割」

SMBCグループは、2025年度に経理業務の90%以上の自動化を目指すとしている。正確性が重視される経理業務の自動化率を同グループはどのように向上させるのか。また、業務の90%が自動化される時代における人間の役割とは。

» 2025年09月29日 08時00分 公開
[元廣妙子ITmedia]

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 AIを利用した業務自動化に取り組む企業が増えているが、文書の要約といった汎用(はんよう)的な利用にとどまり、専門性の高い業務での利用に広がらないケースは多い。また、複数の作業から構成される一連の業務全体を自動化するハードルは高く、自動化率の向上を阻害する要因ともなっている。

 こうした中、三井住友フィナンシャルグループ(以下、SMBCグループ)はAIとRPA(Robotic Process Automation)で請求書の支払い業務の約75%の自動化を実現しており、今後、経理業務の90%以上の自動化を目指すとしている。

 SMBCグループは経理業務を改革し、自動化率を高める意義についてどう考えているのか。同グループのプロセス最適化の実例や、AI-OCRやRPA、人間の連携による一連の業務の自動化における人間の役割、成功要因と併せて紹介する。

本稿はUiPathが開催したイベント「UiPath Agentic Automation Summit in Tokyo」(2025年6月13日開催)に登壇した三井住友フィナンシャルグループの山本慶氏(経理業務部 部長)が「Agentic Automation時代の業務改革:経営戦略としての経理業務改革」というテーマで話した内容を編集部で再構成したものです。

SMBCグループにおける経理業務改革の意義は?

 山本氏は、SMBCグループにおける経理業務改革の目的とそれを実現する手段について次のように語った。

 「グループ全体の企業価値を向上させるためには、拠点や子会社ごとに異なる経理プロセスを共通化・自動化し、システムコストの低減や人的資源の再配置を図る必要があります。財務会計と管理会計のデータ精度と即時性を高め、グループ共通システムを整備することも重要です。人を単純作業から解放して付加価値の高い仕事に集中できる環境を整え、業務成果だけでなく、従業員の成長促進とエンゲージメント向上の好循環を創出することにも注力しなければなりません」(山本氏)

 目的を達成するための「業務の標準化・集約による合理化・効率化」「グループ経営の強化」「従業員エンゲージメントの向上」の3つをどのように実現するのか。

プロセス最適化の実例

 SMBCグループは、AIとRPAの活用で請求書の支払い業務の約75%の自動化を実現している。

 請求書の支払い業務は、請求書を基にして申請者が支払依頼書を作成し、その申請依頼を受け取った経理担当者が勘定科目や、納税時の税務区分、固定資産の法定耐用年数を「Oracle Fusion Cloud ERP」に登録する流れで実施される。SMBCグループは、AI-OCRや生成AIを活用して2025年度中に経理業務の90%以上の自動化を目指している。

 山本氏は、前者を「Intelligent Automation」、後者を「Agentic Automation」と定義し、次のように解説した。

Intelligent Automation(AIやRPAを活用した自動化)

 Intelligent Automationは、Oracle Fusion Cloud ERPに対するインプットシート(支払依頼書)を現場の要望を盛り込みつつ仕様に合わせてシンプルにデザインし、決算・税務手続きの効率化のために「購買カテゴリ」を導入した点が特徴だ。

 支払依頼書は必須入力項目を9個、任意項目を20個削減し、上から順に入力を進めるシンプルな設計にして、直感的に入力しやすいインターフェースを実現した。入力時に自動でAPIを呼び出し、リアルタイムでマスタとの照合や確認ができるようになった。

 購買カテゴリは、Oracle Fusion Cloud ERPで入力が必要な税務フラグの組み合わせを取引種別ごとに整理するための仕組みだ。全ての税務区分を標準マスタとして集約することで、専門知識を持たない人でも平易な表現で税務区分を選択できるようになった。

 例えば弁護士報酬や会計士報酬は源泉徴収の対象であり、ケースごとに源泉徴収税率が異なる。購買カテゴリの導入によって、申請者が「弁護士報酬」と入力すれば、自動で正しい税率が選択されるようになった。

 こうした取り組みによって、Oracle Fusion Cloud ERPへのデータ登録時の照合エラーによる手戻りの頻度が減少した。また、税務上の取り扱い管理の簡素化を実現し、自動計算機能によって消費税額の誤差発生も防止できるようになった。

Agentic Automation(AI‐OCRや生成AIを活用した自動化)

 Intelligent Automationの次の段階であるAgentic Automationでは、過去の実績データや生成AIの活用によって、請求書に記載のない勘定科目や税務区分、法定耐用年数をシステムが全て自動で導出することを目指す。

 これまでは約400種類の勘定科目、約560種類の税務区分、約350パターンの法定耐用年数の中からたった一つの正解を人がマニュアルで判断して入力していたが、業務負荷が高くミスが多発していたという。

 そこでSMBCグループは、RPAとAIを組み合わせた文書処理ツール「UiPath Document Understanding」と生成AI、Oracle Fusion Cloud ERPを活用して請求書の支払い業務のさらなる効率化に取り組んでいる。

 具体的には請求書をアップロードし、請求書がカラー画像であること、解像度が一定水準以上、見切れ無しなどの電子帳簿保存法の要件を満たしているかどうかをチェックする。問題がなければUiPath Document Understandingで請求書を識字してデータ化し、サプライヤマスタや実績データを活用して識字結果を補完する。次に実績データと生成AIで勘定科目等を導出し、支払い申請データを作成する。画面に表示された支払い申請データの内容を申請者が確認し、承認ボタンを押せば支払い申請が完了する仕組みだ。

 勘定科目などの導出精度は向上しており、完全一致率は税務区分で72%、法定耐用年数で88%に達し、「人の確認や精査が必要のないレベルになってきている」(山本氏)という。

Agentic Automationにおける人間の役割

 経理業務の90%以上が自動化される世界で、人間はどのような役割を担うようになるのだろうか。

 山本氏は、人間は「ROI(投資収益率)に基づく継続的な業務改善や環境変化への対応、保守・メンテナンスといったシステム・業務の最適化」や「トランザクションモニタリングやデータ分析による異常値の検知、二重払いや不正取引の防止といった品質・リスクのコントロール」といった、付加価値の高い業務に集中するようになるだろうと予測する。

 「単純作業はテクノロジーに任せ、人はより戦略的な判断を支える役割にシフトすることが、Agentic Automation時代における企業の競争力の源泉になると捉えています」(山本氏)

 さらに山本氏は、企業価値向上の要は業務自動化と人の役割の高度化、価値創造の好循環サイクルの定着による従業員エンゲージメントの向上だと強調する。

 「業務の成果は、時間と能力とエンゲージメントで構成されます。以前は長時間働くことで多くの経験を積めましたが、今はそうした働き方は難しくなっています。能力については情報収集や現状分析、論理的な構成・要約といった部分が生成AIに代替されつつあります。こうした状況では、従業員エンゲージメントをうまくコントロールすることが、企業価値の向上につながると考えています」(山本氏)

成功要因は「Fit to Standard」

 山本氏は、「Fit to Standard」によって早期に企業価値を向上させたことが、経理業務改革の成功要因だと語る。

 「全てをゼロから構築するのではなく、良い製品を早く正しく取り入れるという考え方の下でグローバル基準のSaaSを導入し、SMBCグループの強みである『本質を見極める力』『スピード』『実現力』と掛け合わせることで大きなシナジーを生みました」(山本氏)

 SMBCグループは、Oracle Fusion Cloud ERPに自社の業務を適用するFit to Standardを「妥協ではなく戦略的に実施」(山本氏)した。ルール化できる業務は自動化し、それ以外の業務は人とAIが柔軟に対応できるように役割を再設計した。また、業務が「変わってしまった」のではなく、「なくなった」「便利・効率的になった」と現場が感じるように導入順序や操作体験に配慮したことも成功要因の一つだという。

 今後、SMBCグループは各拠点に点在する会計データを日次で変換・連携し、グループ全体でリアルタイムに財務状況を把握できる仕組みを構築する。これによって、有価証券報告書等の作業負荷が軽減されるだけでなく、グループ全体の意思決定スピードと正確性を飛躍的に向上させられる。

 さらに、AIやRPAによる自動化を前提とした新たな統制モデルの構築も予定している。これまでは人を前提とした統制モデルだったが、今後はAIやRPAによる自動化を前提としてIT統制を最大限活用し、マニュアル統制の領域を最大限圧縮することで、「人はより高度な品質・リスクコントロールに注力できるようになる」(山本氏)という。

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